novel.4 百合好きが後輩にばれた
それから私は百合にはまり込んだ。家に帰ってから勉強も忘れて読みふけった。面白い、面白すぎる。頭の中はその感情で埋め尽くされていた。女の子同士で惹かれ合うという、なんとも秘密に満ちた禁断の感情。少女たちは自分の気持ちに戸惑いながらも、その甘い恋に惹かれて、どんどん落ちていくのだ。こんな甘美で優雅な本を、私は今までに読んだことがなかった。
2日で5冊を読み切り、また5冊借りて、2日で読み切り、また借りる。それを繰り返していたら、学校のラノベコーナーの本はあっという間に読破し終わっていた。否、百合ラノベを読み終わっていた。読み終わって思ったことは、足りない、だった。百合ラノベが足りない。完全に。その時の私はもう完全に百合ラノベ読者だった。
同じ本を読み返すのはあまり好きではないし、もっと別の本を読んでみたい。私はその衝動に負けて、私は今までろくに使っていなかったお小遣いを財布に入れて、休日に大型の本屋さんへと向かっていた。
調べてみたら百合ラノベと言うのは、まだまだジャンルとしては知名度もなく文化に浸透していないらしい。こんな面白いものが文化として浸透していないなんて、文学界は目が節穴なんじゃないかとさえ思ってしまった。ありがたいことに本屋には棚一個分ぐらいの百合コーナーが設置されていて、私はその中から百合ラノベをすぐに見つけることが出来た。さて、どんな百合ラノベがあるのかと私は胸を期待に弾ませて、早速百合ラノベを品定めし始めた。百合ラノベと言ったって、基本は恋愛小説。学園物からラブコメ、シリアス、異世界転生物までジャンルは幅広かった。せっかくだから1ジャンルずつ買ってもいいなぁ、なんて考えながら本に手を伸ばした時だった。頭上からどこかで聞いたことがあるような声が降ってきた。
「あれ、もしかして汐宮先輩ではないか?」
私はまさかここで自分の名前を呼ばれるとは思っていなくて、思い切り顔を上げた。そこには何故か天沢さんが目を丸くして立っていた。
「……え、?あ、天沢、さん……?」
「やっぱり!汐宮先輩ではないか!」
天沢さんはそう言うと元気そうに私に近づいてきた。
「こんなところで偶然だな!汐宮先輩も本を買いに来たのかな?いつも読まれているものな。だが、百合コーナーとはなかなか驚いたぞ」
「えっ、え?」
天沢さんは笑顔で私に言い放った。
「知らなかった、汐宮先輩が百合がお好きだとは!しかも百合ラノベとはお目が高い!」
私の中で何かが崩れ去る音がした。
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