第17話 登校再開
色々あったが、紺野は学校に登校再開した。
顔を合わせた彼女は挙動不審にチラホラと俺を見たり見なかったり……。
彼女の性格上もっと積極的にアピールしてきそうなものだったが、話しかけてこない。
意外と距離感を大切にしているのか、ただ待っているだけだ。
……蝶姉の言っていた通り焦って答えを出す必要はなさそうである。
それはそうと、クラスメイト達の興味は紺野の方へと向いたので、大分楽になった。
「紺野さんのところへ行かなくていいの?」
「行ってどうするんだよ」
「キスする」
「しねぇよ。それより和成はどうした? 珍しくいないじゃないか」
いつも二人一セットのカップルなのに、近づいてきたのは美波のみ。
和成はこういう時いつも、サボっていた課題に追われているのだが、教室内にいない。
「えーっと、お腹痛いんだって」
「変な物でも食べたのかな?」
「そうなんじゃ……ね?」
ぎこちない美波の言葉。
何かを隠そうとする彼女に向けて俺はじっと細目を向ける。
「美波――和成に何やったんだよ」
「朝ご飯をね、作ってあげただけだよ?」
「それじゃねーか」
「私は食べなくていいって言ったんだよ? でも和くんが美味しい美味しいって言うから」
「……そりゃ、あいつの自業自得もあるか」
開き直って自分は悪くないとでもいうように腕尾を組む美波。
恐らく美波が作った料理は失敗してしまったのだろう。
彼女は料理下手という訳ではないが、とんでもない機械音痴なのである。
キッチンタイマーを使えない美波が火を使う時間を間違える姿を中学時代に、家庭科の授業で見たことがあった。
すると急に美波が驚いた顔を向ける。
彼女の視線が俺の後ろを捉えていることに気付き振り返ると、そこには紺野がいた。
「なっ何かな紺野さん」
「告白の返事をくれないのはいいの。でも他の女子と仲良くされるのは――」
「やきもち~!?」
嫉妬心を剥き出しにする紺野に対し、テンションを上げる美海。
俺は紺野とまだ付き合っていないのだが……なぜ交友関係を強制されなければならないのか。
もしかしたら紺野は重い女なのかもしれない。
「あっ心配しなくても私には和くんっていう愛しの彼氏がいるから」
「でも女」
……本当に重い女なのかもしれない。
「友達なんだもん」
「それにしては近づきすぎじゃない?」
「幼馴染なんだもん」
「そうなの? なら仕方ないけど……ズルい」
バチバチに言い合っていたが、あっさりと敗北を宣言するように一歩引いた紺野。
告白を保留にした俺の目の前で、堂々と今の会話を出来るメンタルは並大抵のものではない。
蝶姉の言っていた通りでもしかしたら本当に、彼女は俺とトイを同一視しているのかもしれない。
すると美波は目を輝かせて紺野の手を取っていた。
「あの紺野さん! 今度ダブルデートしたいなって私思ってるんだけど、どう?」
「えっ青柳と? いいけど――」
「よくない。あのね紺野さん。僕はまだ君と付き合うとは一言も言ってないよね?」
「……ごめん」
「あーっ! 結くんが紺野さん虐めた!」
美波の言葉に、教室内はざわざわと騒ぎ出した。
小中学生レベルの煽りだが、しっかり被害を及ぼしている。
大抵こういう被害に会うのは和成なのだが、既にKOされているので文句も言えない。
ただ行き過ぎた発言には黙っていられない。
「美波。いい加減にしろ」
「あっ、いや……ごめん」
小声で俺も本性を出す。
紺野には聞こえるかもしれないが、裏の本性を知っているだろうし問題ない。
和成からも美波が一線を越えてきた時は注意していいと言われているから、遠慮なく怒った。
そんな裏を知らない紺野だが――。
「あ、青柳は悪くなくない? あたしが押し掛けて無理言っちゃっただけじゃん」
「ううっ紺野さん~……今までギャルグループには近づきにくかったけど、ぐすん……好き」
即座に紺野へと抱き着く美波。
何も知らない周囲の人達はひそひそ話を始め、まるで俺が悪者みたいな雰囲気が流れ出す。
「そういうことじゃなくて、な……」
なぜか弁明しようとしていた自分に驚く。
俺は今――紺野に嫌われないかと心配していたのだ。
いくら告白してきた相手だからといっても、なんかモヤモヤして言葉を詰まらせた。
(俺に媚びず、美波を庇ったのはどう考えても正しい。なのに、なんでこんな寂しい気持ちにならないといけないんだ)
――そんな時、勢いよく教室の扉が開く。
「お、おい結翔! 大丈夫か!? 遅れてすまん。みーちゃんに何されたんだ?」
「和成……」
颯爽と現れた和成が俺の味方をしてくれる。
さっきまで腹壊していた割に元気そうな彼は、俺を守るようにして間に入ってきた。
当然、美波は不機嫌になる。
「そこは彼女である私を味方してよ~和くん!」
「いや絶対みーちゃんが調子乗って無理難題言ったせいだろ?」
保護者はやはりわかっているらしい。
そうなのだ、見たか……と紺野の方へ視線を向けるも、彼女は俺を見ていなかった。
「なんでわかるのっ!」
「俺はみーちゃんの彼氏だからな」
「か、和くん……」
「みーちゃん……」
瞬間、空気が一変した。
対立するようだった二人が甘い雰囲気を周囲にまき散らしている。
ドン引きして離れていく周囲の生徒達。
そう――これをやられてしまうから美波には女友達がいない。
日頃常にこんなものを見せられては溜まったものではない。
はずなのだが――。
「……素敵」
ドン引きするどころか、感動の眼差しを向けている紺野が、そこにいた。
やはり彼女と付き合うのは考え直した方がいいのかもしれない。
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