第13話 復活配信1
高速で流れるコメント
その一つひとつに目を通すのは難しい。
同時接続の多い配信者というのは、得てして雑談配信が難しくなる。
『質問ボックス』のようなツールがよく広く活用されているのは、良いコメントを発見することが困難になっているからである。
だが、俺は炎上系配信者だ。
配信形式こそ雑談配信に似たコンテンツではあるが、ネタと情報の鮮度が命。
リアルタイムのコメントに沿った配信にこそ意味があるのだ。
一つの才能なのだろうか……俺には高速のコメントを常に選別し、捌くことができた。
“復活配信ではないとは、これ如何に?笑”
“タイトルにある炎上中の女子高生って・・・”
“何をするつもりなんです?wktk”
“これから凸耐久配信するんスカ?”
「おいおい耐久配信だぁ? 馬鹿言うなよ面白くもねぇ。俺がいない間そんなのが流行ってるとは残念だ」
“つ、つまり?”
“まさかまさか!?”
「という訳で、ゲストの――――あれ、何さんだっけ?」
“ズッコーンッ!!”
“初めから締まらねぇ笑”
“今話題のノアちゃんだろ? トイってばネットに疎くなってやんの”
紺野の顔をカメラに映しつつ、わざと名前をド忘れたフリをした。
コメント欄は、更に盛り上がるを見せる。
「おいおい名前くらい知ってるっての。けど勝手に本名言ったらよくねぇだろうが!」
“出たトイのツンデレ”
“分別だけはあるんだよなぁこいつ”
“滑ったけどマジか!? 本物?”
“トイの所為でノアちゃん黙ってるやん”
俺の言葉に反応を示すコメント。
紺野の姿に驚くコメント。
どのコメントを拾いどのような形で進行するかは臨機応変。
視聴者の求める進行をしなければ同時接続者数はみるみる減っていくだろう。
だが、今回は俺のワンマンで進行するのは求められていない。
反応が紺野に寄っている以上、視聴者が彼女に注目しているのは間違いないのだから。
カメラのフレーム外で、言葉に詰まる彼女の背中をそっとさすった。
「あっえっと……多分読モの方で本名バレているので、こ――」
「はい、じゃあ乃彩ちゃんね。俺はトイ。知ってる?」
「あっ、はい!」
“結局トイが呼び方決めてて草”
“なんの茶番だったんだ・・・”
声を遮り、本名バレを防ぐ。
まさか本当に言おうとしていたとは。
読モなんて芸名が多いし、俺が確認しただけでは『ノア』としか登録されていなかった。
芸名しか公表されないことを知らないのか?
蝶姉が最初から紺野の本名を知っていたから、勘違いしてしまったのかもしれない。
彼女にだけ見えるように『本名バラすな馬鹿』とパソコンに打ち込んだ。
“なんかノアちゃんしょんぼりしてない?”
“トイが圧かけたせいでビビらせとるやん”
“はっ、加害者の癖に被害者ヅラかよ”
“成敗配信感謝!トイ様最高!トイ様最高!”
段々ときな臭いコメントが増えてきくる。
むしろ、ここまで炎上に対してはアンチが少ない方だった。
紺野にも最初から喋らせるつもりだったが、どうやらコメントを読んで萎縮している紺野。
空気感に慣れるまでは俺が進行するしかない。
「成敗配信? 俺がそんなつまらねぇもんやるかよ。どいつもこいつも着眼点が悪いな」
紺野にヘイトを向けて謝らせることが、今多くの視聴者が望んでいることなんだろう。
そうすればトイとしての評判もよくなり、復活配信として申し分ない。
しかしトイは正義の味方ではない。
――エンターテイナーだ。
紺野の頭を下げさせるだけの配信なんて俺でなくたっていい。俺はそんな配信を選ばない。
コアなファンという者を作るのは、ユニークなものに限る。
俺の役割は、悪役であるべきだろう。
「なーんで誰もが動画を傷害事件みたいに誰が誰を傷付けたみたいな視点で見ているのか、俺にはわっかんなくて笑っちまったよ」
“格好つけてんじゃねーよ笑”
“その視点しかないない”
“トイには違うものが見えていると?”
「ああ、俺にはお前らとは違うものが見えている。何だと思う?」
紺野を叩きたい視聴者は、俺の言葉を認めまいと反発しだしたが、無視する。
大きい声を持ちつつ俺に言葉に耳を傾ける層に向けて、俺は尋ねたのだ。
数秒の時間を置き俺の質問を考えさせると、用意したフックに引っかかった層が一斉にコメントへ書き込む。
とんでもないスピードでカクカクと止まったり進んだりするコメント欄。
普通の配信者ならば連投できないよう制限するのだろうけど、俺は読める。
どれも半信半疑という尾鰭を付けてはいたが、数秒待った甲斐があったようだ。
「だってこりゃ――恋愛絡みの事故じゃねぇか」
“確かに『嘘コク』が燃えてるしな”
“誰も恋をしていないのに恋愛絡みなのか?”
“関係あるの?”
「関係大アリだろ。お前ら不細工に告白しろって言われて本当に告白するか? いやB専はするか」
“ルッキズムやん”
“顔面至上主義よくな~”
“私も根暗っぽい男はちょっと無理かも”
“まあ一理はある”
“地味と不細工は全然違う件”
多少的外れでもいい。
あくまで耳を傾けさせるためのフック。
少数でも共感を得られれば充分だ。
コメ欄でも馬鹿にされている地味男は俺だし、自虐したとはいえダメージはある。
だが、俺と同じくダメージがある人だって多少の理屈が通っていることには気づくはずだ。
納得がいかなくても理解はできるだろう。
「お前らと言ったら、ノアが地味男を傷付けたとしか見えてねぇ。ちゃんと動画見たか? 地味男くんはなんにも反応してなかったろ。噓コクに傷付いたって? そりゃお前らの妄想だ」
“よく見てるな……”
“俺、地味男のことあんまり見てなかった”
“そういえば地味男あまり反応なかったね”
“なんかトイ、ノアを庇ってる?”
「本題にも入ってねぇのに、俺が乃彩ちゃんを庇ってるとかいう思い込みはやめろ。俺がこの炎上に隠された、真実ってのを教えてやるよ」
俺はニヤリと口角を上げて嗤って見せる。
そろそろ紺野も喋ることができるだろうか。
同時接続数もかなり増えてきた。
ウォーミングアップはここまでにしよう。
――そろそろ本題に入ろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます