第4話 炎上するまであと...2
自分の影響力を甘く見ている蝶姉に呆れていると、ようやく彼女は俺の上から退いてくれた。
「まあまあ、そう
「機材次第かな。まずは謝罪から入るだろうから、ネタ集めなんかいらないと思うし――早くて明日」
『T0Yチャンネル』は一ヶ月の休止中である。
そもそも俺が休止に追い込まれた原因は、とあるバーチャルライバーに対する捏造記事を拡散してしまったことにあった。
その裏には複雑な事情が絡んでいるが、今は割愛しておこう。
何はともあれ今日が、休止一ヶ月目。
今も俺を心待ちにしている視聴者のために、なるべく早く配信したいと思っている。
「じゃあコレ。ユイにあげる」
「……えっ、何コレ。スパイ映画とかで出て来る小型カメラ?」
「ちっちっちっ! 小型カメラなのはそうだけど、まだ一般販売されていない最新モデルなんだよ!」
……なるほど。
蝶姉が何か仕事の関係で貰ったモノなのだろう。
しかし、俺は外で動画を撮ることも少ないので、使い道に悩む。
「本当に俺が貰っていいのか?」
「いいのいいの! 大体、今日会った若手ディレクターが趣味のカメラレビュー案件でもらったものらしいし、
案件で貰ったモノをネット販売するなんて、非道が過ぎるだろ。
というか、蝶姉がそんなモラルのないディレクターと仕事をしていることが問題だ。
まあ蝶姉を
「5G
「何、そのとんでもハイスペック!? 性能おかしくない? ……
「んー、六桁はくだらないんじゃない?」
手に持った小さな機械が、俺の目には宝石のように見えてくる。
(そんなん俺だって『ミルカリ』で売るわっ!!)
電子機器メーカーの案件って素晴らしい。
今からクリーンな営業して案件がくるかどうか――俺は頭の中で
煩悩まみれ上等。
とにかく必要なのはお金なのだ。
なのに炎上系コーチューバ―に来る案件は、十八禁のモノばかりで断るしかないのだ。
「まあ多少は試してみようかな」
それから売るかどうか決めよう。
「そっか~。じゃあ即撮り即アップ用のは新規アカウントに繋がってる状態から、自分の垢に――」
――そんな時。
キッチンタイマーが『ピピッ』と鳴りだした。
「あら、出来上がったみたい! ユイも席に着いてね~」
今日の夕飯は『もつ煮込み』だった。
「いただきます」
蝶姉と一緒に手を合わせ、食べ始めた。
ドッと疲れを感じ始めた俺の身体に
蝶姉との同棲に名残り
夕飯を終えた俺は、部屋へ戻るとデスクチェアに
機材チェックは明日にでもやっておくとして、台本を用意しておこうと思ったのだ。
復活配信で謝罪なんて、トイのキャラではない。
実際、俺は悪くないので反省していないし、ただ自発的に生み出せるネタは消化したいだけだ。
そのための台本である。
最近配信していなかったから、感覚も忘れている。
――どうすれば面白くできるのか。
視聴者とのコミュニケーションを思い出しながら、頭の中でシミュレーションする。
そんな時、スマホに一件の通知が届いた。
「こんな時間に誰だ?」
友達かと思ってスマホの画面を見た瞬間、俺は目を疑った。
そこには間違いのない名前。
『――From: 紺野乃彩』
心臓の
連絡先を知っていてもおかしな話ではない。入学式直後のクラス親睦会で交換したものだろう。
「なんでこのタイミングで……? いやまさか」
俺は今日たしかに紺野と会った。
しかし、今日紺野が出会った相手は
「俺の正体に……気付いた?」
ありえないタイミング。
俺の正体を見破ったとしか考えられない。
覚悟を決め、おそるおそる連絡の中身を表示。
『夜分にごめんね、赤松くん。明日の朝、屋上で会えないかな? 伝えたいことがあるんだ』
たったそれだけ。
重要なことは、一切書かれていない。
それが俺の緊張を更に煽る。
「まさか……この俺を脅迫してくるとはな。やるじゃないか
卑怯とは言わない。
手段を選ばない精神には称賛の意を送りたい。
どうやら彼女は俺の弱みを握って、脅迫する計画でも考えているのだろう。
彼女はまるでトイのファンみたいな振る舞いをしていたが――。
「……トイのファンなんているわけねぇだろ」
紺野は「あたしトイさんのファンで――」とは言っていたが、そんなことはありえないのだ。
「視聴者アンケート、トイの嫌われ率は99%だからな。残り1%も逆張り確定に決まってる」
チャンネルのファンこそいても、トイ本人のファンなんている訳がない。
「じゃあ、な~んで俺なんかに媚びたかねぇ」
――紺野乃彩は承認欲求の強い女子だ。
最近、彼女が読者モデルになったという
まあ実際には騙されていたのだが。
加えて、彼女のギャルとしての振る舞いや交流関係の広さを考えれば、おのずとその本質が見えてくるものだ。
「つまり、彼女は俺を脅迫して自分の宣伝のために利用しようと企んでいる――だが、そうはいかない」
俺がその程度見抜けない
しかし休止期間であっても一切の
「丁度いい。これを使おうか」
先ほど蝶姉から貰った小型カメラに目を付ける。
早めに登校して、俺を脅迫する瞬間の動画をバッチリ撮らせてもらおうじゃないか。
(そして――誰を敵に回したのか思い知るがいい)
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