美味すぎて昇天するシリーズ

おいらファントム、雑炊食べて昇天したよ

おいらファントム、幽霊みたいな白い亡霊さ。

幸せを求めて、暗くなった世知辛せちがらい夜を徘徊しているんだけど、全然見つからないんだよね。

だからオイラ、噂で美味しいと評判のお店に、ちょっといってみようかな。

お店を探していたら、突然茂みから音がした。

〈ガサガサッ!〉


「うわぁ!もしかして幽霊!?」

「カァーー?」


白いカラスが、茂みから飛び出すと、テケテケと小走りで、どっかにいこうとしてる。

気になって追いかけてみたら、なんかお店を見つけた。

カラスさんも、お店にいきたかったんだね!

おいらは店のドアを開けると、カラスさんと中に入った。


「いらっしゃいませ~、2名様ですか?」

「おいらはファントム!あとカラスさん!」

「かしこまりました、マスター、幽霊1体と1羽の2名様で〜す」

「いらっしゃいませー」


おいらはウエイトレスさんに案内してもらい、カウンターに座った。

カラスくんは、おいらの頭の上にいる。

カァーーー。うん、なに言ってるかわかんないけど、おいらに任せて!

おいらはメニューを見る。

しめの雑炊]


ウエイトレスさんを呼ぶと、ペット用のお皿に入った、水を持ってきてくれる。そして注文を聞いてくれる。


「メニューはお決まりですか?」

「おいら、ファントムだからよくわかんないんだ!」

「カァーー!」

「かしこまりました。それでしたら、当店のオススメでご用意しますね。マスター、おまかせで雑炊くださ〜い!」

「はーい」


雑炊って、どんな料理だったっけ?そうだ、厨房の中が見えるし、作るところを見てみよう。カラスさんがオイラの頭の上に乗っかると、カァーと鳴いた。


ーーーーー


しっかりと給水させ、水をきって置いていたご飯を、小さな土鍋へと入れる。

土鍋に、ご飯が数センチほど浸るくらいの量で水をいれ、蓋をする。

弱火で火にかけ、クツクツと炊いていく。

土鍋の穴から湯気が出てきたところで一度蓋を開け、手早くごはんを混ぜる。

水の調整をして、再び蓋をする。

およそ20分程煮込んだところで蓋をとり、塩・顆粒だし・薄口醤油を少々入れ、味を整えていく。

ボールに卵を落とし込み、そこにめんつゆを少量加え、卵を軽くかき混ぜる。

土鍋の中に、溶いた卵をゆっくりと回し入れ、軽く火を通したシャケの切り身を乗せ、蓋をして数分置いておく。

最後に蓋を開け、刻んだ細ネギと、海苔をまぶせば完成である。


ーーーーー


カウンター越しに、マスターが作った料理をこっちに置いてくれる。なんだろ、いい匂いだね!それにしてものこの器、昔どこかで見たことあるな……そっか!縄文時代だ!


「お待たせ〜、シャケと玉子の雑炊です。熱々だから、気をつけて召し上がってね」

「ありがとうマスター、いただきま〜す」


オイラは器の蓋を開ける。


「うわぁぁ……まるで……どこかにタイムスリップしたみたいだ……」


器の中から立ち込める湯気の香り、上に乗っかっている魚の切り身、そして白色と黄色のグラデーションが魅せるハーモニーに、散りばめられたネギ……。

オイラ、まだ消えなくてよかった……

レンゲを使って雑炊をすくうと、体内に取り込んでいく。

モニュモニュと体を動かしながら、吸水していく。


「はぁぁ……あったかいな。幸せって……こうゆう事だったんだ……」


ふんわりとして甘みがあるお米に、落ち着いた味の主張たち。時折感じるネギの香りが、オイラを何処かへ誘ってくれそうになるほど美味しいな……

オイラは夢中で雑炊を食べた。


「カアーー!カァーー!」


なんだか温かいな、それに眠くなってきちゃった。なんだろ、体が浮いていくような感じがする。

気がつくとオイラの体の周囲には、天から照らす優しい光に囲まれていたんだ。おかしいな…見間違いかな…カラスさんの頭に輪っかがついてる。でもオイラ、幸せだから気にしないよ……


「オイラの未来はきっと、明るいよね……帰ろう、カラスさん…」

「カァ〜カァ〜」


幸せを感じたオイラは、カラスさんと一緒に天へと昇っていった。

ありがとうマスター。オイラお星様になって、世の中を明るく照らすから……


ーーーーー


「マスター、さっきのお客さん、ある意味しめちゃいましたね〜」

「そうね。でも、幸せそうだったわ〜」


今日もあたしの料理に、幽霊さんは喜んでくれた。

それにしてもあの白いカラス、あれはきっと天使ね〜



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る