第17話 絵の題材

「角野先輩。その。どんな絵を描くんですか?」


「.....あ、ああ。.....えっとな。取り敢えずは風景の絵を描こう.....とは思っているが」


「あ。そうなんですね.....良いじゃ無いですか!」


「ああ」


俺の家の一室、リビングにて。

出した煎茶を飲んでいる笑顔の長妻にそう答える。

これはいかん。

そしてアカンと思う。


何というか兎がこの家に極秘で居るので曖昧な返事になってしまう。

汗が噴き出してしまう。

俺は言葉を選びながら何とか答えていたが。

これは限界だな、と思って長妻に向く。


「長妻。その。すまない」


「はい?」


「実は兎もこの家に居てな。.....それで寝ているんだが」


「.....あ。その事ですね。.....知っていますよ」


まさかの言葉に俺は、はい?、と反応する。

それからクスクスと笑う長妻。

そして俺に涙を拭きながら向いてくる。

もしかして隠せるって思いました?兎先輩が言ってきたんですよ。先輩の家に行くって、と話してくる。


「疚しい事をしてないなら話しても良いと思いますよ。そういうの」


「.....やれやれだな。お前は何でもお見通しだな」


「先輩が怪しげに隠すからですよ。全く」


俺にプンスカ怒りながら言ってくる長妻。

その姿に俺は苦笑いを浮かべる。

それから、まあそうだな、とその姿を見ていると。

俊樹〜?何処?、と声がした。

お、早速起きてきたな。


「あ。うさ.....」


そう声を掛けて俺は兎を見て愕然とした。

何故なら服装が乱れており。

胸元が開いている。

何でぇ!!!!?、と思ったが。

そういえばさっき暴れた時に.....、とハッとする。


「.....先輩。何をしていたんですか?」


「ちょっと待て!?誤解だ!」


長妻がジト目になる。

見損ないましたよ?、という感じになる。

俺は、おい!兎!胸元が開いている!、と大慌てで兎に声を掛ける。

すると兎は胸元を見てから滅茶苦茶に真っ赤になった。

それから、キャー!!!!!、と叫びながら平手打ちをしてくる。


「も、もう!」


「お前が悪いんだろ!.....いや。俺も悪いか!」


「.....先輩方。何をしているんですか.....」


そんな感じでコントの様なやり取りをしてから。

改めて落ち着いてから横に兎が座る。

それから俺は赤くなった頬を摩りながら兎を見る。

兎は赤くなったまま唇を尖らせていた。

やれやれだな。


「事情はわかりました。.....でも、もー。先輩のえっち」


「俺も悪かったって思ってる。よく確認しなかったから」


「そうだよ。.....全く。えっち」


「.....」


お前な、と思ったが。

でもまあややこしくなるか、と思い黙った。

そして長妻を見る。

その長妻は期待混じりの瞳で、その先輩。もし描くならどんな風景を描くんですか?、と聞いてくる。

俺はその姿に、まあ.....噴水の所とか?、と話す。


「あそこは緑が多いしな」


「そうなんですね。.....まあでも確かにですね」


「俊樹。良いんじゃないかな」


「.....でも問題は描けるかどうかなんだよな」


「そうですね」


そんな感じで俺達は悩む。

すると、そうだ。.....近所の画廊に行きませんか?、と話してくる。

それは桃と行こうとしたのだが。

同じ場所かどうかは知らないが.....その場所だったら桃に連絡した方が良いな。

思いながら俺はスマホを見る。


「画廊って明日、桃と一緒に行くつもりだったんでしょ?」


「ああ。まあそうだな.....だから桃に連絡しようって思ったんだが」


「.....じゃあ取り敢えずは桃に連絡した方が良いね」


「そうだな。取り敢えず今から連絡しようって思ってな」


「そうだね。それが良いかも」


俺は桃に連絡してみる。

すると桃は、気にせず行って下さい。家庭の事情があるので、と書いてきた。

その言葉に眉を顰める。

それから考えていると.....兎が、アポを今度取ったら?、と言葉を発した。

俺はその言葉に、そうだな、と思いメッセージを送る。


(桃。.....今度一緒に行ってみるか。画廊)


(いえ。有難いですけどお断りします。私はそんな立場じゃないので)


(そうか。だけどお前の身は潔白されたじゃないか。.....付き合ってほしい)


(そこまで言うなら)


取り敢えずはアポが取れそうだな。

思いながら俺はスマホを仕舞う。

それから俺は2人を見る。

今、桃に確認した、と話す。


「.....取り敢えず控えめだったけど何とか許可は取った」


「.....ですか」


「ああ」


俺はそんな言葉を長妻に放ってから兎を見る。

兎は、取り敢えず良かったんじゃないかな、と言う。

その言葉に、だな、と話す俺。

そして長妻が立ち上がる。

そうとなると早速行きましょう、と言いながら目を輝かせる。


「.....そうだな。行くか」


「うん。あ。片付けをしてから行こうかな」


「ああ。頼む。兎」


そんな感じで会話をしていると長妻が俺たちをまじまじと見ているのに気が付いた。

俺は、どうした?、と聞くと。

すると長妻は、夫婦みたいですね、と言う。

何か.....うん、とも。

俺達は少し考えてから赤面した。


「な!?」


「そんな事ないよ!?」


「何かその。恥ずかしがる反応まで似ていますよ?」


「.....」


俺は赤くなってから俯く。

兎は、も、もう。揶揄わないの、と長妻に怒る様に言葉を発した。

長妻は、うーん。怪しいなぁ、と言いながら俺達を見る。


先輩には仮にも彼女さん居るのに、とも話しながら、である.....が。

明らかに誤解されている気がするんだが。

どうしたものか。

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