第二章 すれ違う世界

死んだも同然だが

第16話 絵という自由な存在

こんな事でまさか絵を描くかもしれないなんてな。

思いながら俺は翌日、自宅に居た。

今日は土曜日で休みである。

俺は.....唇を舐めながら美術の本を見つめる。

正直まだ恐怖がある状態だ。


「.....やれやれ」


考えながら俺は本を読もうとして置く。

それを繰り返していた。

全くな、と思える。


だけど俺が宣言したからにはどうにかしなければいけない、とは思う。

でも話は進まなかった。

情けない状態だ。

そうしていると背後から、俊樹、と声がした。


「.....兎」


「ゴメン。勝手に入らせてもらったよ。インターフォン鳴らしたけど全く返事が無いから。また大変な事になっているかな、って思って」


兎はそう言いながら俺を見てくる。

そして俺の前に置かれた本を見て、!、となった。

俺は様子に、すまないな。この本に集中していた、と答える。

すると兎は桃から聞いたんだけど、と言ってくる。


「.....その。杏の為に絵をまた描くって.....」


「その通りだな。だけど話が全く進まない。だからどうしようかって思ってな」


「そうなんだね。でも桃から返事はまだ無いんでしょ?」


「ああ。そうだな.....」


正直言って桃とは昨日話してそのままだった。

今日もさっき桃に、どうだったか、と聞いているが良い返事は貰えない。

なのでこのまま話が頓挫する可能性もある。

俺は思いながら悩んでいると。

背後から優しく抱きしめられた。


「おま!?」


「こんなので俊樹の調子が悪くなったら嫌だからね?.....あまり頑張らないでね」


「そ、そうだな.....っていうかお前!恥ずかしく無いのか!?」


「いや。恥ずかしいに決まっているでしょ!でも俊樹が頑張っている姿をみたらこうしたくなった」


言いながら俺をギュッと抱きしめてくる兎。

それから俺の頭を撫でてきた。

おいおい、と思いながら兎の手に俺の手を添える。

兎はそんな俺の手に手を添える。


「俊樹。お約束。.....決して無理はしないでね」


「ああ.....そうだな。約束は守る。.....有難うな」


「私はこうする事しか出来ないけど俊樹の事ちゃんと見ているから」


「.....すまないな」


「気にしないで。こっちこそ有難うね」


それから俺の頭を優しくまた撫ではじめた兎。

暫くしてから俺の頭を撫でるのを止めてから横の俺のベッドに腰掛ける。

そして体操座りをして見てくる。

俺は、何をしているんだ?、と聞くと兎は、うん。俊樹を観察、と言ってくる。

そうしてから、気にしないで、と話す。


「漫画本借りるね」


「.....あ、ああ.....」


っていうかそれをされると集中出来ないんだが。

この広いマンションの一室で何しているんだ俺達は、と考えつつそのままデッサンの本に集中する俺。

そして横に漫画本を持って寝転がる兎。

困ったな、と思いながらだったが何か知らないが逆に集中出来た。


「.....?」


そしてふと横を見ると兎が寝ているのに気が付く.....何。

スースー、と発する寝息を聞きながら俺は盛大に溜息を吐く。

それから俺はタオルケットをかけてやった。

観察するって言って寝ているじゃねーか、と思ったのだが。


「.....まあしゃーないか。何時も朝早いしな」


そんな呟きをしながら俺は兎を見る。

兎は髪の毛が項垂れて無防備な感じになっている。

俺はその顔を見ながら苦笑した。

それから俺は離れる。


「.....ったくな」


思いながら俺は部屋を出ようとした.....のだが。

何か動けなかった。

一体何故かと思ったら俺の服が兎の手に掴まれており。


全く動けない状態になっていた。

俺は、!?、と思いながらその手を離そうとしたのだが兎は俺の服を引っ張る。

そのままバランスを崩して兎の顔の横に崩れ落ちた。


「.....!?」


「スースー.....」


こ、これ.....は無茶な、イケナイ。

思いながら俺は、う、兎さん。すまないが手を離してくれ、と言葉を発するが。

兎は物凄い怪力で俺の服を掴んでいた。


しかも全く起きない。

寧ろ寝ぼけているのか俺の顔の側に顔を寄せてくる。

これ絶対にヤバいんだが。


「リミッターが.....壊れ.....るぅ!」


俺は兎の手を何とか振り解きながら。

そのまま兎から離れた。

そして改めて兎を見てみる。

全くコイツは.....、と思える。


「.....まあ可愛いな。相変わらず」


そんな事を苦笑して呟きつつ。

今度こそ自室を後にした。

そして飲み物を飲んでからそのまま溜息をほうっと吐いていると。

インターフォンがまた鳴った。


本日二度目?と思われるそんなインターフォンを覗くと.....。

あれ?、と思った。

そこに俺の住所を知らない筈の長妻が私服姿で立っていたから。

その姿に俺は、!、と思いながらインターフォンで、長妻?、と聞くと直ぐに、は、はい!、と可愛らしく返事をしてくれた。


『長妻です。.....その。兎先輩に住所を聞いてから来ました」


「.....ああ。成程な。そうだったんだな」


『今日はお忙しいでしょうか?その。角野先輩がまた絵を描くって聞きまして。居ても立っても居られなかったです。家で描くのかなって』


「そうだな。まあそんな所か。このまま家に入っても構わない.....ぞ.....」


そこまで言ってから俺はハッとする。

しまった。そういえば!.....兎が居る!、と思ったが。

時既に遅しだった。


長妻は俺の家に、お邪魔します、と入って来る。

何という事だ。

これマズイかもしれない。

誤解されてしまう可能性があるのではなかろうか.....?

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