第10話 間接キス(超改稿)

「はっ.....はっは」


運動不足野郎の息の切れる声がする。

俺は学校も鞄を持たずして飛び出して必死に走っていた。

アイツは今日は休みだという事は聞いたが。

何処に行ったのだろうか。


駅前とか商店街とかそういう場所か。

そう思っていたのだが。

思い当たる場所が1箇所だけあった。

それは.....例の場所だ。

俺達が子供の頃からの付き合いの場所。


「.....やっぱり此処に居たか」


「.....俊樹.....」


噴水。

つまり緑公園である。

俺はその場所で噴水に座っていて俯いていた兎を見る。

俺の姿を見るなり逃げ出そうとしたが捕まえた。


兎は俺に対して憔悴していた。

それから俯いてしまう。

俺はその姿に自販機で買った飲み物を横に置いてやる。


それはスポドレだ。

コイツいつもスポドレと水を飲んでいるから。

兎は俺の持って来た飲み物を見ながらまた俯く。

その姿に声を掛けた。


「あのな。何て言ったら良いか分からないけど。.....兎。.....俺は嬉しかった」


「.....」


「.....俺は.....お前に好かれているなんて思わなかったから。そんなに前から」


「最低だよね。.....私。彼女の居る男の子を好きになって.....諦められないからって」


「想うだけなら最低とは言わないと思う。寧ろ.....それだけ俺を想ってくれていた、って事だろ。俺は嬉しい気持ちになった」


「俊樹は優しいね」


涙を拭いながらも啜り泣く兎。

俺はその姿を見ながら缶コーヒーを開けた。

それから空を見上げながら冷たい甘いコーヒーを煽る。

そして冷たい感触に、ほう、と息を吐く。

すると直ぐに兎が俺を見てきた。


「私は俊樹を好きになってもどうしようも無いって知っているから。貴方は桃に告白されたからその時点で私は諦めるべきだった。.....だけど.....諦められなかった。桃は最低だとしても私は更に.....最低だよ」


「兎.....」


「何か好きって気持ちは押し殺せないから。.....私は.....こんな形で知られるとは思わなかったけどね。御免なさい」


「.....そうか」


「でもこんなウジウジした気持ちは.....もしかしたらこうやって桃にバラしてもらって良かったかもしれない」


「一応、桃には厳重注意したけどな。どっちにせよ最低だから。今は桃とは付き合えないと思う」


「そうなんだね」


ペットボトルにくっ付いている水分を指で拭う兎。

そしてペットボトルを見つめる兎。

俺はその姿に真正面の風の靡いている木を見る。


今日は天候が良いな、と思える。

すると.....いきなり兎が俺の肩に頭を置いてきた。

は!?


「な!?」


「.....ゴメン。ちょっとだけ頭を置かせて」


「.....あ、ああ.....うん」


「私はかなり前から俊樹が大好き。.....絵を描かなくなってからの俊樹も絵を描いていた頃の俊樹もずっとヒーローだって思って好きなの」


「.....」


「だからいつかまた絵を描いてくれると思って頑張ってるの。私」


俺は赤くなりながら鼻を擦って、そうか、と返事をする。

すると兎は、俊樹は頑張り屋さんだから。.....だから桃と付き合っても陰から支えようって思っていた、と言ってくる。

その言葉に、そうだったんだな、と返事をする。

そうして答えると、桃と俊樹の関係は、おめでとう、って言わないとって思ったけど言えなかった、と涙声で話した兎。


「それどころか今は.....桃が浮気して良かったって思っている。最低だね。私」


「.....それは.....」


「俊樹。ゴメンね。忘れるまで時間が掛かるかも」


「.....」


そうだな.....どうしたものかな。

俺は思いながら肩に寄り添ったままの表情の窺えない兎を見る。

すると兎はいきなり蓋を開けてスポドレを飲んだ。


それから俺の口に勢い良く突っ込んでくる。

俺は、!!!!?、と、おう!?、と唖然としてしまった。

そしてまたそれを舐める兎。

は!?


「えへへー。間接キス」


「阿呆!?お前!?」


「何だか話を聞いてもらって良かったと思う。それに何か.....私。元気になった」


「.....元気になったって.....」


「.....これぐらいなら良いよね。じゃあいただきます」


この野郎、と思いながら俺は真っ赤になる。

そんな俺の唾液の付いたスポドレを全て飲んでしまった兎。

そして、このペットボトルとっとこうかな、と話し始めた.....コラ!

俺は真っ赤になる。


「お前な!?」


「うん。よし。.....決めたよ」


「.....え?何を.....」


「こうなった以上。私は桃から君を奪おうかな」


「.....はぁ!!!!?」


俺は愕然とする。

やっぱり桃は信頼出来ないし。

だから私は君を奪う、とニヤッとする兎。

好きな人だから、とも.....いやいや!それじゃどっちが悪女だか。


それから、うーん、と腕を伸ばして背伸びをする兎。

その時に脇が見えてしまい。

また赤面する俺。

すると兎が何かを見つけた様にする。


「あ」


「.....?」


とある方向を見る兎につられて俺もそっちを見る。

そこに.....横道が通っている高校の制服の女子?が木の影に居るが。

それからあろう事かその女子にキスをした男子が居る。

よく見ると見える男子は横道だった。

俺達はビックリしながらその姿を見る。


「へえ。横道君って.....お付き合いしていた女子が居たんだ」


「変だな。.....そんな事を窺わせる事は一言も言ってなかったぞ」


え?、と言いながら俺を見てくる兎。

それから俺は考える。

そんな素振りすら一回も無かった。

何が起こっているのだ?

アイツ彼女が居るなら言えば良いのに、と思う。

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