第4話 家庭的な味(超改稿)

陸上部のシステムは未だによく分からない。

つまりどういう事かというと。

日程とか部活内容とか。

そういうのが良く分からないのだ。

具体的に何をやっているのかも.....よく分からない。


俺自身が運動が苦手という部分もあるのでそういうのに興味が湧かないせいかもし知れない.....でも。

俺は兎をきちんと応援したい、とは思っている。


俺はそういう事を考えながら掃除機をかけ終えて額を拭う兎を見る。

兎は笑みを浮かべて俺を見てくる。


「窓開けて埃を叩き出したらご飯食べようか」


「.....そうだな。確かに」


「.....?.....どうしたの?何か悩んでる?」


「そうだな.....なあ。兎」


「?.....何?」


「お前は急になんで陸上部に決めたんだ?やっぱり走るのが好きだから?」


それは一応前にも話したけど.....、と言いながら言い淀む兎。

それから俺をチラッと見てから赤面する。

そしてモジモジし始めた。

俺はその姿に、?、を浮かべる。

そうしてから意を決した様に俺を真っ直ぐに見てくる。


「私が陸上したいのは、とある人、を応援する為。その為にやっている。元気溌剌な私の姿を見てその人がまた色々と決意してくれたらなって思って」


「そうだったな.....でもそれだけで今年急に陸上部に入るってのも凄いよな。幸せ者だなそいつ」


「大会のスコアが私は特段優秀とか言われるけど。.....私にとってはそれはどうでも良いって思える。今の私は.....その人を励ましたいだけなの」


「本当に良い奴だなお前」


「.....そんなに良い人でも無いけどね。でもそう言ってもらえて有難いな」


そして掃除機を元の位置に直した兎は俺をニコッとして見てくる。

まあそれは取り敢えず置いておいて。ささ。ご飯食べよ、と兎は言ってくる。

俺はその姿に柔和に返事をする。

それから兎をまた見る。


「怪我をしない様にな」


「怪我はしない様にするよ。大丈夫。有難う」


「.....でもそんなにソイツの事が好きなんだな。お前は。何だか嫉妬する感じではあるな」


「.....うん。彼はきっかけをくれたから。.....何も無かった私に」


赤くなりながらご飯を用意する兎。

俺はそんな姿を見ながら箸を用意する。

すると兎はこう話した。


「でも陸上も手を抜いている訳じゃ無いからね?いつか大きな大会に出て.....日本一になりたいなって思ってるから」


「そうなんだな。それは大きな目標だな」


「.....うん」


でも今は目の前の事だね、と真剣な顔をする兎。

確かにな。それは.....うん。

それは本当に思う。

考えながら俺はそのままランチョンマットを広げる。

応援したい気持ちが更に膨れた気がした。


それから兎が用意したお弁当を広げてみる。

そして目を丸くする。

飾り付けがかわいいお弁当がそこにはあった。


何というか盛り付けも見事である。

片付け以外はあれだけ苦手だったのにな。

ますます主婦になりつつあるな兎は。


「.....盛り付けとか本当に上手になったなお前さん」


「えへへ。そうかな。何か美味しかったら良いけど.....」


「.....美味しいよ。お前の作ったものだからきっと」


そして俺達は手を合わせてタコさんウインナーとか卵焼きとか入っているその一般的な見事なお弁当をそのまま食べ始める。

すると一口と二口を食った途端に涙が止まらなくなった。


家庭的な味に近い。

一般的な家庭の味.....である。

兎が青ざめる。


「ど、どうしたの.....俊樹!」


「平凡過ぎる味だ。.....すまん。それしか表現が表せないが.....」


「そ、それだけでも十分だよ。こんなので泣くなんて思わなかったからビックリだよ.....」


「.....ゴメンな。俺は.....情けないよな。こんなので泣くとか」


「情けないって言ってないよ!.....私は.....俊樹が心配.....心から心配」


そう絶叫しながら俺の元に慌てて回って来る兎。

それから俺を強く抱きしめてくる。


ああそうか。俺はきっと愛も受けずに育っていたから疲れていたんだな、と思う様な感じだった。

そう考えながら俺は涙を拭ってみる。

それ以外にも桃に裏切られたのか分からないがそれが悲しかったんだな、と。

兎を見る。


「.....私.....俊樹の心が心配.....で」


「何でお前まで泣いているんだ。泣く事ないだろ.....」


「ずっと悲惨な目に遭っている俊樹の事.....思ったら泣かずにいられないでしょ。私は.....悲しい」


「.....お前は優しいな。変わらず」


「私は優しいんじゃないよ。俊樹がとにかく心配で、心配で、心配で.....仕方がないだけだよ」


すると。

だから。ねえ、と言ってくる兎。

それから俺を見てくる。


ねえ。前も言ったけど一緒に住もうよ、とも言う。

コイツは。またそれか。

駄目だって言っているのに。

兎の親御さんに迷惑が掛かる。


「そんな馬鹿な事が出来る訳無いだろう。毎回言っているがお前は.....例の件もある。親御さんにも迷惑が掛かるって言っているだろ」


「でももう見てられない。.....桃にももしかしたら裏切られているのに.....この先、何をどう信じたら良いのか分からないでしょ」


「確かにな。それはそうだが.....」


「お金がいっぱいあるのに問題なんて無いでしょ。今だけでも良いから一緒に住みたい。私は女の子だからこの場所で一緒に住むのは問題だけど.....私の親の居る幼馴染の家に来て一緒に住むのは問題じゃないと思うよ」


「そうだが.....」


俺は兎を肩を掴んで離しながら兎を見る。

兎は号泣して泣きじゃくっていた。

いやいや俺より泣いてどうするんだよ。

思いながらもティッシュで目元を拭ってやった。

それから俺はそのティッシュを置きながら返答をする。


「考えておくよ。取り敢えずは今の状況が状況だしな」


「うん」


「良い答えが出るのを期待してくれ」


兎はまた泣き始める。

でもその様に言われるのは本当に嬉しかった。

正直.....どうなるかは全く分からないが。


思いながら俺は眉を顰めながら兎をまた抱きしめた。

もしかしたらだけど。

絵を描けなくなった原因は.....こういうものが原因だったのかもな。

俺の本心は今でも分からないから何とも言えないけど。

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