(二)-9

 信雄は握っていた瑞穂の手を離し、台に近づいた。

 そして衣服を一切身につけていない人間の形をした肉塊の本来の持ち主について、苦悶でゆがみ、天井を見つめている目を見開いたままの顔から判断できた。それは大束おおつか咲来さきだった。

 厨房の入口の方でなにかの音が聞こえた。信雄がそちらを見ると瑞穂が嘔吐していた。

 信雄は背後の方が熱いことに気づいた。振向くとピザ焼き用と思しき石窯があった。かなり本格的なものであった。これに火が入っていた。

 こんな状況でそんな心配をしている場合ではないが、夕食はピザの予定だったのか思い、石窯のそばのミトンを手にはめて石窯の扉を開けて中を見てみた。


(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る