未来を変える1人
あれから成瀬とは何度か会っていて、それでもこれといって進展などはなく、ただただ一緒に時間を過ごす関係でいる。
その中で知ったことは、意外と純粋で、正直で、クソ真面目ということだ。
普通に人情があって良い奴、今はそう思っている。
恋愛として好きという感情があるかと言えば、まあ無いかもしれない。
でもそれが気楽だ。
最近は自分の将来についても話すようになった。
特にやりたいこともない私は、話を半分興味無さそうに聞いて、焦らなくてもいいよ。と、ありのままの私を受け入れてくれる感じが成瀬の1番心地よい部分だった。
ただ。このままではいけないとも思ってはいる。
そこで今日は成瀬の知人を紹介してもらう事になっている。
昔一緒に働いていたが、今は何やら研究員をしているという。
「はなが興味ありそうな内容だから」
と今回の話が来た。
正直のところとりあえず話だけ聞くか。というスタンスなので、食事の方が楽しみである。
そんなことを考えている間に待ち合わせのレストランに到着した。
シックで薄暗く、かなり落ち着いた雰囲気だ。
店内は静かで、ゆっくり話はできそうだ。
通されたのは店内奥の少し離れた席で、半個室になっている。
恐らく周りにも声が聞こえない程の距離感に少し違和感を覚えた。
わざわざこの席を予約したのだろうか。
そこには少しラフにジャケットを着こなし、短髪の黒髪をセンターで分けた男が座っていた。
「初めまして。どうぞかけてください。」
と爽やかに笑ったその男は、少し切れ長な一重と上がり気味に整った眉が印象的だった。
「初めまして。水本花です。本日はお時間いただきありがとうございます。」
席につき、挨拶をすると、そんなかしこまらないで下さいよ。と笑顔で返された。
「改めて、初めまして。私は横山直也(よこやまなおや)です。成瀬とは前の職場で良くしてもらってて。」
「はい、伺ってます。」
横山は昔仕事で成瀬に助けてもらった話や、仲良しエピソードを楽しそうに話した。
そのうちオシャレで量の少ない料理も届き、食べながら話の続きを聞いた。
「それで、今はどんなお仕事を...。」
あまりにも勝手に盛り上がっていたので、肝心な今日会う事になった本題を忘れているのではと心配になり思わず口を開いた。
「ああ、そうだね、そろそろその話もしなきゃね。」
横山は少し含みのある言い方をする。
私は心のどこかでなにか引っかかるものを感じた。
「僕は主に管理の立場なんだけどね、大まかに言うと国から依頼を受けて細胞の研究をしている会社なんだよ。だから大変さももちろんあるけど。やりがいのある仕事だよ。国のためになるしね。」
「なるほど...でも私なんの知識も技術もないので研究とかできませんよ、?」
飽き性で色々手を出しては、大して身になる前に辞めてきたツケが回ってきたか、毎回自分には無理だと諦めざるを得ない。
「まあもちろん研修は受けてもらうけど、未経験でも大丈夫だよ、教育体制もちゃんと整ってるんだ。資格も取れるしね。」
「はぁ。」
正直未知の世界すぎて自分がその職に就く未来を想像は出来なかった。
恐らくそれが顔に出ていたんだろう。
横山は察したように続けてこう言った。
「ここで決断する必要はないし、もちろん詳しい話をするには会社に来てもらって、人事から説明をしてもらうんだけど、正直お金は稼げる。そしてやりがいもある。何より国の未来の発展のための仕事だ、君が世界を変える1人になるんだよ。」
私が世界を変える...?壮大すぎてそれこそ実感が湧かない。
それでも、お金が稼げるのは、いいなぁ。
そう、私は現金な女である。
飲み代のためにその辺で出会ったおじ様達と飲めるくらいだ。
「あの、1度会社にお伺いしてもよろしいですか?詳しい説明をお願いしたいです。」
ここでお金の話をするのはさすがにまずいので、いくら貰えるのかだけでも聞いておこうと人事の方に会うことにした。
「もちろん!気になることはなんでも質問してくれたらいいから。よろしくね。」
横山さんはいい人だ。私の事を思って色々説得してくれたんだろう。
成瀬さんの紹介というのもあって、それはより丁寧だったと思う。
ただ申し訳ないのは、お金の話しかささっていない事だ。
まあまだ確実に働くと決まった訳ではないし、気楽に行こう。
話のまとまったところで、まだ食べ足りなかったので、追加でお高いステーキを注文してもらい、お腹いっぱいになって店を後にした。
成瀬にはメールでお礼を入れておいた。
この横山との出会いは、また私の人生のひとつの節目となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます