出会い
その日もいつも通り、馴染みの街で一人飲み歩いていた。
「あのー。すみません、ハイボールおかわりと、冷やしトマト、とチャンジャください。」
二軒目でいい感じに酔ってる時、さっぱりしたトマトも食べたいけど、塩みと辛みがいい感じに欲しくなる。
最高に酒が進む。
(気持ち良くなってきたな...歌いたいな...。)
酔うと歌いたくなるのはどう言う原理だろうか。
次はスナックにでも行こうかなと考えている頃、
「こんな所で何してんのー?一人?」
肩まで伸びたウェーブのきいた髪、白いTシャツから伸びた細く焼けた腕、濃い眉に似合う少しタレ目がちな大きな目がこちらを向いてニコッと微笑む。
「あ!お久しぶりですねー。一人ですよー。」
(あー、この人名前なんだっけ...確か連絡先交換してたよな...。)
最低だと思う。
確か半年ほど前に出会って、一緒に飲んで、ホテルに誘われたけどロン毛が嫌で断った男だ。
正直この胡散臭い感じが好かない。
俺、金持ってますよー。女にも困ってませんよー。って滲み出てると言うか、自らアピールしちゃうところが。
「えー、寂しいじゃん。連絡くれればよかったのに。」
そう言って何の断りもなく隣に座ってくる男。
「いやだって、いつも彼女の相手で忙しいでしょ?笑」
そう、この男は彼女持ち。
その彼女のうちの1人になれという誘いだったのだ。
まあそんなのは当然お断り。
「そんなことないよー?はなちゃんのためなら時間作るよー?」
そう言って男は頬杖をついていたずらに微笑む。
これが女の子に効くと本気で思っているのだろう。
「えー、ほんとー?笑」
まあ何を思うはずもなく、上辺だけの笑みを浮かべてサラッと受け流す。
正直コミュ力は高い方だと思う。
基本どんな人とも会話ができてすぐ仲良くなれる。
でも1度めんどくさいと思うと顔に出てしまう。
今も出てるんだろうなー...。
と思うが、この手の男は大体めげない。
強固な精神を持っていて、ズバッと断ってもなんとかなると思っている。
だからこそ思わせぶりな態度は決してしてはいけないのだ。
「まだこのあとも飲むんでしょ?一緒にどう?
ご馳走するし。」
カッコつけた自信満々の笑みを受ける。
「えー!行きましょー!どこ行きますー?」
まあ、奢りだから行くけど。
タダ酒に勝てるものは、ない。
そして向かった先はカジュアルなバーで、男はウィスキーロック、私はこれ見よがしに可愛いカクテル、スプモーニを頼んだ。
「いやぁ。久しぶりに会えてよかったよ。」
男は肘をついてじっとこちらを見つめている。
単純な女はこんなので騙されるのかぁ。
私はとことんロン毛が嫌いなんだな。そう思いながら、私もですと同調する。
お互いに近況やなんでもない会話をし、3杯目を飲み終わるという頃。
「そろそろ行こうか。」
「はい。私そろそろ帰ります。」
そそくさと帰る支度をする。
男は会計を済ませて外へ出ると、
「じゃあまた会いたくなったら連絡して。今日は楽しかったよ。」
そう言って俺はこっちだからと手をヒラヒラさせて歩いて行く。
(あれ、次誘ってこないんだ。ラッキー。)
「あっごちそうさまでした!ありがとうございます!」
後ろ姿に急いでお礼をした。
絶対にホテルに誘ってくると思った。
こんなスマートな飲み方もできるんだな、あの男は。と少し感心しながら帰路についた。
とりあえずお礼だけしておくか、と連絡先を漁り、また飲みましょうね。とテンプレートを送りつけた。
ここで話を続けさせると後々面倒になる。
この時の私はまだ何も知らなかった。
この人との関わりが、自分の人生を大きく変えてしまうことに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます