第2話 鏡の中の異世界へ
気が付くと悠は、大きな石造りの神殿の真ん中に立っている。足元は何やら細かな文字が刻まれ、周囲は水で囲まれており、頭に上には先ほどと同じ鏡がはめ込まれていた。
「ついに召喚が成功したぞ!」
髪の長い銀髪の男性が嬉しそうな声を上げた。
「ちゃんと伝説通りの力があるか疑問だがな」
金髪に深い緑色の瞳を持った青年が真面目な顔で悠を見つめていた。
「王子! 失礼ですぞ!」
周囲は慌てて王子を諫める。
「あの……」
「ああ聖女様! よくぞ召喚に応じてくださいました!」
先ほどの銀髪の男性が言葉を被せてきた。
「失敗続きでようやく……ようやく……うぅ」
感極まったように泣き始めた。悠は男の人が本気で泣いている姿を初めて見てオロオロとしてしまう。
「……ほら」
先ほどの王子が、泣く男性を無視してそっと悠の方に手を伸ばした。水面を渡る為に必要だと思ったのだろう。悠は少し躊躇したが、素直に相手の手をつかんだ。悠が水に落ちないよう、優しく引っ張ってくれたのがわかる。どうやら口ほど悪い人間ではないようだ。
悠が召喚陣から降り立つと、王子と銀髪以外がさっと跪いた。
「聖女様……お、お名前をお伺いし、しても……」
鼻水をずびずびとすいながら銀髪の男が尋ねる。
「あ、宮坂 悠です。……それで、聖女って?」
悠は跪いた人々にそれをやめるよう頼み、なぜ今、悠がここにいるのかを教えてもらった。
「この世界は今、魔物の瘴気が充満しているのです!」
これだけでわかるだろうと言わんばかりに、銀髪の男ローレルが大袈裟にみぶりする。だが悠には何のことだかサッパリわからない。
「まもの? しょうき……? 」
「……え?」
ポカンとした顔のままの悠をみて、ローレルはオロオロし始めた。王子ギルベルトが小さく息をはいて説明を引き受ける。
「この世界には魔物という怪物がいる。そいつらが吐く息は瘴気と言って、吸い込むだけで酷い病にかかってしまう。そしてその病を浄化……治すことが出来るのは聖女だけだ」
(責任重大じゃん!)
「他に聖女はいないんですか!?」
「いるさ。だが異世界から召喚された聖女は特別だとされている。伝説ではな」
言い捨てるようだった。
悠を召喚したのはアリステリア王国。すでに王は瘴気に倒れ、王妃は亡くなっていた。ギルベルトの弟もついに昨日、瘴気によって動けなくなってしまった。
「王妃様は聖女でもいらしたのです。その身を削って国民を助けておられました……」
その場にいた全員が暗い顔をした。
(この王子……お母さんを亡くしてるんだ……)
ギルベルトの瞳が少し揺らいだのがわかった。
王子ギルベルトと大神官ローレル、それから宮廷魔術師や神官たちが多くの力を注ぎ、やっと召喚できたのが悠だった。
「すでに我々だけでは手に負えないほど瘴気が広がっているのです……どうかお力をお貸しください!」
全員の真剣な瞳が悠を見つめる。
「でも、元の世界でそんなこと……」
「いえ! 出来るからこそ召喚されたのです!」
そうは言われても悠には自信がない。
困った表情の悠を見て、ギルベルトが助け船を出すように静かに言った。
「まずは力を試そう」
「王子……!」
また王子が失礼なことを言ったと周囲は焦っていたが、悠は少しだけホッとした。彼らの期待に応えられる気がしなかったからだ。試せばそれがわかるだろう。
(でも、がっかりするだろうな……)
それをとても申し訳なく感じてしまった。
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