第94話 リナルドの弱点

 カエルの邪霊がまた口から紫色の球体を飛ばしてくる。それはミラみがけて飛んできている。リナルドはミラをかばってその紫色の球体を体に受けた。


「くっ……私の信仰は低いが……それでも、何度も邪霊魔法を食らうわけにはいかない。邪霊魔法は信仰が低い邪霊でも使いこなすことができる。相手が信仰が低いタイプなら普通の魔法でダメージを与えることは難しい」


 イーリスを誘拐した邪霊のように信仰が低いのに邪霊魔法を使う邪霊も存在する。邪霊魔法は相手の信仰に依存しやすいので自分の信仰が低くてもそれほど大きな問題ではないのである。


「相手が邪霊魔法しか使ってこないということは信仰が低くて邪霊魔法を使うタイプとみた。ボスクラス相手に普通の精霊魔法が通用するとは思えない」


 精霊魔法は相手の信仰を無視してダメージを与えられるが、威力が他の同格の魔法と比べて低い傾向がある。リナルドも精霊魔法を使えるが、それで相手に致命傷を与えるほどのことはできない。


「リナルド伯! アタシに任せてください」


 ミラが両手に別の色の魔法のマナを溜め始める。それを見てリナルド伯は目を丸くして驚いた。


「なんと……合成魔法を使えるのか」


 合成魔法はかなり高度な技術でディガーの中でも使える者は限られている。事実、ミラたちも習得にはかなり苦労していた。そんな技術をハワード領の人間が持っているはずもなく、リナルドは合成魔法を使える人間がこの近辺にいるとは全く想像していなかった。


「クララはリナルド伯と一緒に敵の攻撃を引き付けてくれ!」


 ミラがクララに指示を出す。だが、リナルド伯は首を横に振った。


「いや、その必要はない。敵の攻撃は私1人で十分引き付けられる。クララも合成魔法を使えるならそれを撃つ準備をしてくれ」


「あ、はい。私も一応使えますけど……」


 リナルドが前に出る。そして、カエルの邪霊の攻撃を引き付けた。軽い身のこなしで敵の攻撃をかわしていくリナルドを見てクララも合成魔法の準備を始めた。


「あの人なら信用できる。私たちに攻撃を向かわせることはしないだろう」


「ああ。お陰でじっくりと合成魔法用のマナを練ることができる。慌てることはない。確実に撃とう」


 カエルの邪霊が舌を伸ばして攻撃をする。リナルドはすかさずその攻撃を受ける。邪霊の攻撃に耐性がある信仰が低いリナルドでも、攻撃を受け続けたらダメージが全くないわけではない。それでも、歯を食いしばって敵の攻撃を耐え続けている。後ろにいる少女に全てを託すために。


 ミラの2つの色のマナがキレイに混ざり合う。そして、合成魔法を放つ準備ができた。


「リナルド伯。どいてください」


「ああ」


 リナルドを巻き込まないようにミラが指示をする。それでリナルドは察してさっとその場を離れた。


「合成魔法! トゥインクルレッド!」


 精霊魔法と赤の魔法を合成した魔法。トゥインクルレッドが炸裂する。精霊の力を纏った炎がカエルの邪霊を焼いていく。


「ぐ、ぐうううう!」


 カエルの邪霊が苦しさで低い唸り声をあげる。物理攻撃を反らす粘膜も魔法の前では無力でかなりのダメージを負ってしまう。


「よし、効いている!」


 ミラの魔法でもかなりのダメージを与えられたが、それでも邪霊を倒すには至っていない。そんな中、後からマナを練り始めたクララも合成魔法を撃つ準備ができた。


「これで終わりだ! ブリリアントスノウ!」


 精霊の冷気がカエルを襲う。温度変化に弱いカエルの邪霊。さっきは熱されて急に冷やされることで体にダメージが与えられると共に体に負担がかかる。


「あ、があっぁあああ」


 カエルの邪霊はその場にベタァと倒れ込んでしまい、じわじわと煙をあげて消滅していく。


「ふう。助かった。ミラ、クララ、ありがとう。今回は私の手にはあまる相手だった。君たちを連れてきて正解だったよ」


「いえいえ。そんな……アタシたちだけでも勝てない相手でした」


 リナルドの強さは本物で、それはクララやミラの防御面のもろさを補うほどである。事実、リナルドが敵の攻撃を引き付けて居なかったら合成魔法を放つことができなかった。


 ボスの邪霊が倒されたことで精霊は解放された。精霊はリナルドたちにお礼を良い、彼らに力を分け与えてまたいずこへと去っていく。



 ダンジョンを攻略した後、クララとミラはリナルドとつながりができた。クララとミラはどうして、このハワード領に来たのか。その理由を説明することにした。


「なるほど。その防具鍛冶による被害を食い止めるために、君たちはここに来たわけか。事情はわかった。私からもその防具鍛冶の情報について集めよう」


「ありがとうございます」


「私としても自分の領地で好き勝手されるわけにいかない。そんなの辺境伯の名折れだ」


 こうして、ミラとクララはリナルドと協力関係を結んで防具鍛冶の女の情報を集めることにした。


 それから数日後――


 リナルドに呼び出されたミラとクララ。リナルドから衝撃的なことを告げらる。


「防具鍛冶がどこにいるのかわかった。やつはハワード領にある海のダンジョンの中にいる」


「海のダンジョン!? それじゃあ、早速そこに行きましょう!」


 ミラが前のめりになり、リナルドと共に行こうとする。しかし、リナルドは渋い顔をしている。


「ま、待て。ダンジョンは海底の中だ。そんなところ人間がいけるような場所ではない」


「それなら大丈夫です。私が青の魔法を使えます。その中には水中呼吸できるようになる魔法があります」


「…………そうか。では、君たちだけで行ってきてくれ」


「は? どういうことですか?」


 クララが眉を下げて困り顔をする。


「私も辺境伯という立場だ。色々と雑務が忙しいのだ。クララ。ミラ。君たちの強さは私が保証しよう。2人だけできっとなんとかなるはずだ」


 リナルドの様子がどうもおかしい。ミラはなんとなく察してしまった。リナルドは泳げないと。だから、雑務を言い訳にこのダンジョンを避けているのだ。


 しかし、相手は立場がある人間。泳げないことを指摘してメンツを潰したらなにをされるかわからない。貴族とはメンツを大事にするもので、泳げないことを隠しているのにそれを暴くのはどうかと思ってしまう。


「わかりました。では、私たちだけで行ってきましょう」


「そうしてもらえると助かる」


 リナルドと別れた後、ミラとクララは宿に戻り今後のことを話す。


「ミラ。リナルド伯ってもしかして、泳げないんじゃ」


「ああ。アタシもそう思った。でも、それを指摘するのは彼の名誉を傷つけることになる」


「だよねー。困ったな。私とミラでダンジョンを攻略できるかな」


「まずはやってみるしかないだろう。リナルド伯がダンジョンに立ち入れない以上はアタシたちだけでなんとかするしかない」


「……もしかして、防具鍛冶が海底のダンジョンに潜っているのって、リナルド伯から逃げるためなんじゃ」


「その可能性はあるな。だとしたら、やつは相当計算高い。かなり厄介な相手だぞ」


「まあ、私たちだけでなんとかなるんだったら、それでいいか。行こう。ミラ」


「ああ。まずはダンジョンに潜らないことには始まらないな」


 こうして、ミラとクララは海底ダンジョンへと潜っていった。しかし、そこの邪霊は強かった。


「ダ、ダメだ! 私たちだけじゃとてもじゃないけど攻略できない」


「これは救援が必要かな」


「でも、ミラ。リナルド伯に相談しても多分ダメだよ。それにハワード領にはロクなディガーがいない。そいつらを仲間にしても足手まといにしかならないよ」


「いや、アタシたちには仲間がいるじゃないか。アルドさんとイーリスちゃん。後、ついでにジェフ先生も」


「あー。戦力としては申し分ないけど……アルドさんとイーリスちゃん来てくれるかな……」


 イーリスがハワード領に行きたがっていない現状。もしかしたらアルドたちは来ないのかもしれない。


「とりあえず、ダメ元で手紙を送ってみよう。話はそれからだ」

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