第95話 いざ海底ダンジョン
イーリスはアルドから受け取った手紙を読んでいた。
ミラから手紙が来たことがイーリスにバレてしまったからにはアルドもそれを隠すわけにはいかなかった。
イーリスはハワード領に行きたがっていない。その詳細な理由はアルドにはわからない。イーリスにもただなんとなく嫌だということしかわかっていない。
イーリスが手紙を読んでいるとみるみる内に表情が強張っていく。
「イーリス。無理をする必要はないぞ」
「なに言っているの! お父さん! 行こうよ。ハワード領に!」
イーリスの意外にも乗り気なその発言にアルドは拍子抜けをした。アルドとしてもミラたちを助けたい気持ちの方が強かった。
でも、イーリスが嫌がっているならそっちを優先してあげたいと親心で思っていた。その矛盾する2つの思いで頭をぐるぐる悩ませていたけれど、イーリスが乗り気ならば話は別である。
「イーリス。本当に良いのか? ハワード領にはあんなに行きたがらなかったのに」
「大丈夫だよ。私行ける!」
「それに学校のことだってあるのに」
「そんなの後で良いよ。ミラさんたちが困っているのに見捨てることはできないよ!」
イーリスが力強く主張する。拳をぐっと握りしめて自分自身を奮い立たせている。
「それに……なんとなくだけど、リナルドって人がいないならなんとかなる気がするから」
「そうか」
こうして、アルドとイーリスはペガサス馬車に乗り、ハワード領へと向かった。
◇
ハワード領にたどり着いたアルドたちはミラたちが宿泊している宿へと向かった。そこの宿のミラたちの部屋に向かうと2人が待機していた。
「アルドさん! 来てくれたんだね!」
ミラが嬉しそうに立ち上がり、アルドに駆け寄ってくる。
「イーリスちゃんもありがとう」
クララがイーリスの頭をわしゃわしゃと撫でた。久しぶりの再会に一同は和やかな雰囲気となった。
だが、いつまでもそうしている場合ではない。ここに来た目的はダンジョン攻略であり、それは危険を伴うこと。ここから先は真剣にならなければならない。
「アルドさん。この近くのダンジョンの邪霊はかなり強かった。とても硬くてまともにダメージを与えることできないくらいにな」
「そうそう。私たちの攻撃なんてまるで効いていない風だった。リナルド伯はそんな邪霊たちを次々と倒していくくらい強かったんだけどね」
ミラの説明にクララが同調して補足した。話を聞くだけでもアルドとイーリスは驚いてしまう。
「そんな……ミラさんとクララさんでもダメージを与えられないなら、私とお父さんで……」
「その辺は大丈夫だと思う。硬いと言っても魔法攻撃が効き辛かったり、逆に物理麺が硬かったりで、物理攻撃主体のアルドさんや、邪霊魔法が使えるイーリスちゃんと協力して邪霊の弱点を突いていけばなんとかなると思う」
クララはただ単に敵の強さに絶望していたわけではなかった。きちんと活路を見出していて、それはアルドとイーリスと年単位での付き合いがあってコンビネーションも磨いてきたからこそ感じる手応えである。
「なるほど。僕はまだそのダンジョンの邪霊と戦っていないけれど、クララがそう言うんだったらそうなんだろうと思う。またみんなで協力してダンジョンを攻略しよう」
「そうだな」
ミラがフフっと微笑んだ。絶望的な状況でも頼れる仲間が来てくれるのは心強いことである。
「ところでジェフさんは来てくれるのか?」
ミラが書いた手紙にはジェフにも救援要請をしたとのことだった。アルドはそのことを指摘してみる。ジェフがいれば戦力として申し分ない。
「先生は到着が遅れるそうなんだ。先生が来るまで待っていても良いけれど……アルドさんたちが来てくれたんだったら少しでもダンジョン攻略を進めた方が良いと私は思っている」
ミラは自分の考えを述べた。アルドもうんうんと頷いてそれに同調した。
「確かに。ただじっと待っているだけよりかはその方がマシだね。それじゃあ、早速準備を整えていこうか」
こうしてアルドたちは海底ダンジョンがあるとされている海へと出向くことになった。浜辺沿いを歩いていくと近くに岩礁がある。その岩礁の中に洞窟があり、その洞窟の中は海底へと続く海があった。
「ここがダンジョンの入り口だよ。この海の中にあの女がいる可能性がある」
クララが岩礁の洞窟内の海を指さした。イーリスが興味深そうに海を覗き見る。
「例の女はずっとこのダンジョンの中にいるの?」
「ああ。そうだな。リナルド伯が雇ったディガーを定期的にここに見張らせている。そこでここに出入りしたということはなかったから恐らくはまだここにいるはずだ」
「そうなんだ。それにしてもこの海の中にダンジョンがね……」
アルドは海面を覗く。深い深い青い海の底。そこがダンジョンに繋がっている。
「それじゃあ、そろそろ行こうか。準備は良い? ギルス!」
クララが青の魔法を唱える。この場にいる全員が水中で呼吸できるようになった。
「これで呼吸できるようになったのかな?」
イーリスは少しおびえながら海に顔を近づけている。
「そうだね。ちょっと海の中に顔を突っ込んでみてよ」
クララに言われてイーリスはおそるおそる海面に顔を突っ込んだ。イーリスの顔の周囲が泡で囲まれて呼吸ができるようになった。
「うわ! すごい! これ、顔も濡れてない!」
「そうでしょ。すごいでしょ。私の魔法」
「では、行こうか。アタシが先頭に立つ。みんなは後から付いてきてくれ」
ミラがずぶんと海の中に飛び込んだ。クララもその後に続いた。
残されたアルドとイーリス。イーリスはまだ少し怖そうにしてアルドの近くにそっと寄り添うように近づく。
「お父さん。あのね……一緒に入って欲しいな」
「わかった。イーリス。僕にしっかり捕まっていて」
「うん」
イーリスはぎゅっとアルドの体に抱き着く。アルドもイーリスの体を支えながら、イーリスと一緒に海の中へと飛び込んだ。
ザバンと水しぶきが立つ。アルドとイーリスの全身が大きな泡に包まれた。
同じく泡に包まれているクララとミラもアルドたちを待っていた。
「この魔法を使っている最中は水の中でも会話はできる。とりあえずダンジョンはこっちにあるからついてきて」
クララとミラが泳いで先に進んでいく。
「そういえば、イーリスって泳げるんだっけ?」
「あ、うん。その……お父さんは覚えていないかもしれないけれど、泳ぎ方をお父さんに教えてもらったことがあるから」
アルドが記憶を失う前。まだ妻の浮気が発覚しなくて、まともな親だった頃にイーリスはアルドに泳ぎを教えてもらっていた。
「そうか。それじゃあここから先はバラバラでも大丈夫だね」
「そうだね……」
イーリスは少し寂しそうにしながらもアルドから離れて自力で泳ぎ始めた。アルドもイーリスの後に続いて海底のダンジョンへと向かった。
クララとミラは海底にある大きな洞窟の入り口の前に立っていた。
「ここから先がダンジョンだ。水中での戦いに慣れるために今の内にここで魔法や技の試し打ちをしておくと良い。地上と少し勝手が違うからな」
ミラのアドバイスに従ってアルドとイーリスはそれぞれ技と魔法を出してみる。
「疾風一閃!」
「ブリュレ!」
アルドは水中でも技を出すことができた。しかし、イーリスは炎の魔法を出すことができなかった。
「あ、やっぱり炎の魔法は海の中じゃ出ないんだ……」
「ああ。そうだな。アタシとイーリスちゃんは赤の魔法を使える。だから、その辺は注意しないとな」
「逆に私は青の魔法だから、水の魔法の威力が上がる。フィールドの補正効果はここでも有効だから覚えておいて」
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