第74話 超再生

「すごいお父さん! なにそれ!」


「理屈は僕にもわからない。僕は武器によって身体能力が上がる。でも、攻撃の直後に別の武器に切り替えた時、前の武器の身体能力の向上がまだ残っているみたいなんだ。その残存時間は短いけどその時間内なら、現在装備している武器とさっきまで装備していた武器。その2つの補正を受け継ぐ。特訓の中で偶然発見したことだ」


「確かに、アルドさんの武器は未解明の部分が多い。そういう不思議なことが起こることも考えられるな」


 ミラが興味深そうにアルドの武器を見つめている。


「僕はこの力を“連撃”と呼んでいる。武器の切り替えの時に隙ができる都合上、何も考えずに多用できるようなものではないけれど、決まれば強力な技だ」


「みんなすごいな。クララさんとミラさんは合成魔法を習得してみんなの役に立っているし、お父さんも連撃の力を付けて強くなったし。私も後に続かないとね」


 先程まで自分だけ何もできてないことを気にしていたイーリスだが、もう気が腫れて前向きにとらえられるようになった。今はまだ、合成魔法が使えないとしても、それは逆に言えばまだ成長の余地が残されているということである。


「うん、イーリス。その気の持ちようが大切だ。さあ、先に進もうか」


 4人は先へと進む。そこにいたのは、大樹。葉っぱが三日月の形をしていて、枝をゆっさゆさと揺らして自動的に動いている。


「こいつがボスか?」


 大樹の邪霊。それがアルドたちに気づき、葉っぱを飛ばして攻撃してくる。


「来るぞ! 風封陣ふうふうじん!」


 アルドは疾風の刃を構える。精霊の力によって引き出された新たなる技。それを今ここで使う。


 アルドの足元に円形の魔法陣が展開される。直径はアルドが両手を広げた時と同程度の大きさである。


「みんな、この陣の中に入ってくれ」


「わかった」


 4人はアルドが展開した魔法陣の中に入る。魔法陣の外から出ないように4人が体を密集させる。


 大樹の邪霊が飛ばした葉っぱがアルドたちに目がけて飛んでくる。その葉っぱが魔法陣に入ろうとする時、魔法陣が風を発生させて、葉っぱをアルドの斜め後ろの方向に受け流した。


 バシっと背後から音が聞こえる。葉っぱが背後の岩壁に命中して、それが突き刺さる。かなり深く刺さっているようで、硬い岩石すらも貫通する威力は、人間が食らえばタダでは済まない威力だ。


「よし、みんな。もう魔法陣を出てもいいぞ」


 クララ、ミラが魔法陣から出る。アルドに密着していたイーリスが少し遅れて魔法陣から出た。


「さて、ミラどうする? 相手は樹だけど」


「燃やして終わり。そう単純な話でもなさそうだな。恐らく、こいつがボスの邪霊。今まで硬い邪霊が多かったから、このボスもかなりの耐久性があると想定した方が良さそうだ」


「まあ、やるようにやるしかないね。それじゃあ、まずは私から行かせてもらうよ! 疾風打!」


 クララが魔法で身体能力を強化して物凄いスピードで大樹の邪霊に拳を叩きつける。ボコォと大きな音を立てて、大樹の樹皮を削る。


「あれ……?」


 クララは拍子抜けした。風穴とまではいかないが、木に数センチの穴を開けることに成功した。今までの邪霊が硬かっただけに思いのほか、ダメージが通った実感があるのが逆に意外だった。


「こいつ、そんなに硬くないよ! 倒せる!」


 クララの表情が明るくなる。だが、その表情はすぐに消え去る。大樹の邪霊の傷がどんどん回復していく。クララが大樹に開けた穴もみるみる内に塞がっていき、あっと言う間に完治してしまった。


「こいつ……再生力が高いタイプの邪霊だよ!」


 クララが後ろにいる仲間に情報を共有する。その直後に、クララの足元から大樹の根が飛び出て攻撃してくる。


「うわ……!」


 先端がとがっている根っこがクララの頬をかすめる。クララは咄嗟の勢いで攻撃をかわしたが、もしボーっと立っていれば今頃は致命的なダメージを受けていた。


「クララ、無理をしすぎだ! 下がれ! ラピッドファイア!」


 ミラが大樹の邪霊に向かって魔法を撃つ。邪霊がミラの放った魔法に気を取られている隙に前線に出ていたクララが下がる。


 ミラの放った魔法が大樹の邪霊に命中する。焦げ跡ができるも、その焦げ跡がすぐに回復してしまう。


「防御するでも避けるでもない。そのまま命中させても再生するから問題ないというわけか。威力よりも速さを重視するアタシとの相性は良くないかな」


「そうだ。お父さんの連撃だよ。アレをボスに打ち込もう! みんなでお父さんをサポートしよう!」


「うん。そうだね。私もそれに賛成」


 相手の信仰もよくわかってない状況。どの魔法が効くのかもわからなければ、どんな邪霊にも安定してダメージを与えられる物理攻撃の需要は高い。


「わかった。みんな、後方支援を頼む」


 アルドは疾風の刃を持ち、大樹の邪霊に向かって走り出した。スピードに補正がかかるこの武器。使い勝手はかなり良い。


 大樹の邪霊はアルドの自信に満ちた瞳からなにかを感じ取った。アルドを近づけさせないと、葉っぱを飛ばしたり、根っこを地面から突き上げた李、あの手この手でアルドを妨害しようとする。だが――


「ラピッドファイア!」


 ミラの炎がアルドに飛んでくる葉っぱを焼いた。


「サイクロン!」


 アルドの前方から襲ってくる木の根。それをイーリスのサイクロンによる風の刃で切り裂く。だが、イーリスの狙いはこれだけではなかった。


「クララさん!」


「うん、サイクロン!」


 クララもサイクロンを放つ。イーリスのに比べたら小規模である。それを何に向かって放ったかと言うとイーリスのサイクロンだ。だが、クララのサイクロンは回転が逆。2つの風は互いを相殺する。


 威力が高かったイーリスのサイクロンは残っているものの、その風の勢いはほとんどが死んでいる。でも……風は完全には止んでない。


「お父さん! 私のサイクロンを追い風にして」


「わかった。疾風一閃!」


 風の性質を持つ疾風の刃。追い風をその身に受ければ、その威力は増す。イーリスは風の方向も計算していた。ちょうど、アルドに追い風になるように。


 追い風を受けて普段よりも威力が高い疾風一閃を大樹の邪霊に向かって放った。大樹に大きな切り傷ができる。相当深くて、半分とまではいかないもののそれなりの深い傷は打ち付けられている。


「今だ! “連撃”! 焔の鞭! スプリット!」


 アルドがすかさず武器を変更して連撃を繰り出す。スプリット。威力が高い打撃攻撃。これで大樹を薙ぎ落そうとするも、攻撃が当たる直前。大樹の邪霊の傷がある程度まで修復していた。


「なに!」


 邪霊にきっちりダメージは通る。しかし、最初の一撃の分はほとんど回復されていて、追撃で倒しきれなかった。


「ならば、3連撃だ! 疾風の刃! 旋風……」


 アルドが疾風の刃の最大威力。そこに焔の鞭による補正を上乗せした攻撃をしようとするも、上空から硬い木の実が置いてきて、アルドの頭上に置いた。


「がっ……!」


 頭に石のように硬い木の実が落ちて来てアルドは怯み、攻撃をやめてしまった。連撃の猶予は短い。敵の攻撃で怯んで妨害されてしまっては、適応されなくなってしまう。


「お父さん!」


 さらに大樹の邪霊が追撃をする。木の根を地面から突き出してアルドのアゴにクリーンヒットさせる。アルドはそれで吹っ飛ばされて後方へと思いっきりノックバックした。


「アルドさん。大丈夫?」


 クララがアルドを受け止めた。アルドは少し意識が飛んでいたが、クララの声かけで意識を保てた。


「ああ。ちょっと頭はクラクラするけど、戦えないほどじゃない。それより……連撃の強みである強力な攻撃を連続して叩きこむ。これも回復されながらだとキツい。どうしても連撃の間のわずかな時間でも敵は回復する」


「あの高い再生力。それをなんとかしない限りはこの邪霊は倒せないな。やはり合成魔法で攻めるぞ。アタシとクララが攻撃の主力になる。アルドさんとイーリスちゃんはサポートを頼む」

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