第73話 連撃の力

「そろそろ最深部が近くなってきたな」


「うん。私とアルドさんがブルーワイバーンと戦った地点まで後少しだね」


 4人がボスがいると予想される最深部前の通路。最深部のフロアの直前に丁度阻むように邪霊の姿があった。


 オレンジ色の石と透き通った青色の岩。その2つの石が宙に浮いていて、それぞれの石の色と同じもやもやを纏っている。


「これはエレメント系の邪霊か。あの石みたいなのがコアで、周囲のもやは攻撃しても意味がない。そこに気を付けて戦おう」


 ミラの忠告に頷く3人。2つのコアはガシっとくっつく。コアの接合部の色がオレンジと青が混ざり合ったような色になっている。それ以外はオレンジのコアに近い場所はオレンジのもや。青に近ければ青のモヤとなっている。


 コアは魔法を飛ばす。炎と冷気の合成魔法。デュアルスパイラル。オレンジ色と青色のレイザーが二重螺旋構造となり、アルドに放たれた。


「みんな、離れて!」


 アルドは3人に指示をする。そして、敵のデュアルスパイラルを攻撃に受けてしまう。


「ぐっ……」


 アルドの左肩に命中してなんとか受け止めるものの、そこから数センチのえぐれたような傷ができてしまう。アルドはそこを右肩で抑えてなんとか耐える。


「お父さん! 大丈夫?」


「ああ。みんなに怪我がないならそれで良い。信仰が低い僕でもこのダメージ。みんなは注意してくれ」


 特にイーリスに命中すれば命の保証はないくらいの威力である。アルドは相手の魔法攻撃を全て一身に引き受ける覚悟を持つくらいではないと残りの3人を守れないと判断した。


「あれは恐らく合成魔法だ。そんな何回も連発できるような魔法ではないが、用心に越したことはない。クララは前衛で、イーリスちゃんは後衛でクララの援護だ。アタシはアルドさんを回復させる」


「わかった!」


 ミラはアルドに回復魔法のアパトを使い、霊障を回復させようとする。それなりの深手であるため完治には時間がかかってしまう。その間に、敵をフリーにしているとまた合成魔法を撃たれる可能性がある。


 こちらに有効打があるかどうかはわからないが、とにかく相手の妨害をしないことには状況が悪化するばかりである。


「ヒュドロ!」


 クララが水を飛ばす魔法で攻撃する。すると、青いコアが赤いコアを飲み込んで1つの巨大な青いコアに変わる。クララのヒュドロが青いコアに命中する直前でその水は凍ってしまいコアに攻撃が届かなかった。


「防がれた!?」


「リーフスター!」


 イーリスが追撃で攻撃をしかける。葉っぱを飛ばす緑の魔法。しかし、今度は青のコアがオレンジ色のコアに変わり、イーリスの葉っぱを燃やし尽くした。


「ダメだ。全然攻撃が効かないよ。どうするのクララさん!」


「魔法を使うってことは、相手もそれなりの信仰があるはず。実際、アルドさんに高威力の魔法を撃てたのがその証拠だよ。だから、魔法が効くはずなのに効かない。これは相手に属性魔法に対する耐性があるから……そして、あの動きを見るに……相手は属性魔法の耐性をある程度コントロールできるみたい」


「魔法の耐性をコントロール? そんなことできるの?」


 イーリスは魔法の属性の重要性を理解している。1年前には、実力者のヴァンですら相性が不利な相手には手も足も出なかったし、属性を強化したり弱化するフィールドではその影響はバカにはならない。


 オレンジ色の巨大なコアが割れて、その片割れが青く変色する。そして、再び合体してもやもやを形成する。


「イーリスちゃん。よく聞いて。オレンジ色のコアは炎。青色のコアは冷気を司るんだと思うよ。それでうまい具合に属性魔法に対して防御しているんだと思う。そして2つのコアが合体している最中は――」


「合成魔法を撃たれる危険がある!?」


「うん。だから……私たちは相手に防がれようとなにしようと魔法を撃ち続けるしかない! 行くよ、サイクロン!」


 クララが魔法を唱える。2つのコアの前にオーロラの防御癖が出現してクララのサイクロンを防いだ。


「あれは、ジェフ先生が使っていたオーロラカーテン! 危ない。あいつ、合成魔法を使う条件整えていたんだ」


 赤と青の魔法を使えるこの邪霊。その合成技であるオーロラカーテンを使える道理はある。


「イーリスちゃん。マナをしっかり溜めて。あのオーロラが消えたら、強力な風魔法を撃ってね」


「うん、わかった」


 イーリスはマナを引き出しつつ、杖でコアに狙いを定める。そして、オーロラカーテンが消えた瞬間に――


「サイクロン!」


 コアに向かって魔法を放つ。イーリスは魔法に特化しているからクララのものよりも強力である。最初にクララの魔法を囮にして、本命のイーリスの魔法を叩きこむ。この作戦が功を成し、コアにイーリスのサイクロンを直撃させた。


「やった!」


 風の刃がコアにヒビを入れる。だが、コアの破壊にまでは至っていない。


「イーリスちゃんの魔法でも仕留めきれない!?」


「やっぱり、このダンジョンの邪霊は硬いね」


 2人の連携攻撃が決まっても倒しきれない厄介な敵に2人は途方に暮れていた。だが、ここで状況は好転する。


「よし、完治した」


「助かった、ミラ。クララ! イーリス! 待たせたな」


「お父さん!」


 アルドの回復も終わり、4人全員が戦える状況。相手のコアにもヒビを入れることができている状況で一気に優勢になる。


「ミラ。どうしよう。合成魔法を使う?」


「いや、こいつの信仰自体はそこまで低くないはずだ。アルドさんに大ダメージを負わせてイーリスちゃんの魔法でもきっちりダメージが通っているのが証拠だ。それならば、合成魔法のリスクを負ってでも、信仰無視の魔法で攻める理由はない」


「じゃあ、私の邪霊魔法を……」


 コアが再びデュアルスパイラルの魔法を発射する。それはクララとイーリスの方に向いていた。


「危ない! カスケード!」


 クララはすかさず水のバリアの魔法を貼る。だが、デュアルスパイラルはバリアを貫通してクララに命中する。


「きゃぁ!」


「クララ!」


 アルドとミラがクララにかけよる。イーリスは突然のことに固まってその場に立ち尽くしてしまった。


「大丈夫。バリアで威力は相殺できた。後少しで倒せそうな時に倒れてられない」


 クララは痛む体に鞭を打って立ち上がる。だが、現実はそんなに甘くなかった。


「あ、見て! コアのヒビがちょっとだけ再生している」


「え?」


 イーリスがコアを指さしている。確かに先程イーリスがつけたヒビが回復している。


「このコア。時間経過で回復するのか? どうすれば良いんだ」


「ミラ。クララを頼む。イーリス。僕をサポートしてくれ。強い魔法は撃たなくていい。出が早い魔法で相手の注意を引くだけで十分だ」


「え? うん。いいよ。お父さん」


 2色のコアが徐々に再生していく。完全に再生しきる前に更なる追撃をしなければ、この戦いは更に厳しいものになる。


「ウィンド!」


 風の基本的な魔法。威力は低いが、味方を巻き込まずに比較的、出が早い。イーリスのウィンドを防ごうと青のコアが水のバリアのカスケードを発動させた。


 アルドは疾風の刃を出して構える。勝負はバリアが消える一瞬。


「今だ! 疾風一閃!」


 攻撃速度が速い疾風一閃をコアに叩きこむ。しかし、コアがほんの少し削れただけで大きなダメージはない。やはり、アルドの攻撃では威力不足かと……否、それは違う。


「焔の鞭……! スプリット!」


 アルドは攻撃直後、すぐに別の武器に持ち替えて攻撃を繰り出した。その攻撃は、コアの上部に命中してそこを大きく欠けるほどの打撃攻撃を見舞った。


「え……アルドさん、こんなに強い攻撃を!?」


「す、凄いお父さん」


 このまま鞭で追撃をするかと思いきやアルドは再び疾風の刃に持ち替える。


「旋風刃!」


 威力が高い旋風刃をコアに叩きこむ。旋風刃が巻き起こす風でコアはバラバラになって2度と修復不可能になってしまった。


「い、一体何が起きたんだ……」


 驚嘆するミラ。アルドは3人に向かって微笑んだ。


「僕だって、みんなが合成魔法の練習している中、何もしてなかったわけじゃないさ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る