第45話 邪霊武器の拡張
「いえーい!」
クララとミラがハイタッチをする。それを見てイーリスもアルドに向けて手を差し出して、なにか言いたそうな顔をする。
「イーリス。よくやったな」
アルドは程よい加減でパシーンとイーリスとタッチをした。
「いえーい!」
イーリスも笑顔になり、喜びを表した。クララとミラもイーリスに近づく。
「すごい! 流石イーリスちゃん」
「ああ、アレが例の邪霊魔法か。初めて見たな。もの凄い威力だ」
ミラはイーリスの肩にポンと手を置いた。
「あ……でも、あの邪霊魔法は……相手によってはあんまり効かないので……」
「そうか。相手に安定して通用する精霊魔法とは逆に性質か」
凪の谷に封印されていた精霊が姿を現した。イーリスと同じくらいの背丈の黒髪の少年だった。
「ふう……ありがとう。あのゴーレム。街にまで侵攻しようとしていたから、それを食い止めるためにここに封印せざるを得なかったけど、みんな大丈夫だった? ここ風魔法が使いづらくなっちゃうけど」
「私は大丈夫だったよ」
イーリスは精霊の質問に答える。それを聞いて精霊はほっと胸をなでおろした。
「そっか。それじゃあ、キミたちの力を引き出してあげるね」
精霊はイーリス。クララ。ミラにマナを注ぎ込んだ。そして、アルドの雷神の槍も強化をする。
「お兄さん。それ持っている武器ってものすごい邪霊の力を感じるね」
「ん? まあ、そうだね。これは特別に作ってもらったものなんだ」
「高純度の邪霊武器か。なるほど。あ、そうだ。これあげるよ」
精霊は黒い本をアルドに手渡した。
「これは?」
「大昔の鍛冶屋が書いた邪霊武器の製法だよ。昔は今と違って、お兄さんみたいな高純度の邪霊武器を使っている人もいたんだ。まあ、その武器を使っていた人たちは長く持たなかったけれどね」
「どうして、精霊がこれを持っているんだ?」
「そうだね。まあ、僕もこう見えて、お兄さんの何十倍も生きているからね。人間から奉納品をもらうこともあるんだ。と言ってもこれは奉納品という体で梵書されかけたのを僕に預けたってところかな」
アルドが使っている高純度の邪霊武器は時代と共に危険性が問題視されて製法すら闇に葬られようとしていた。しかし、当時の鍛冶屋がその製法を守るために精霊に預けていたということだ。
「さて、僕もまたどこかで邪霊の被害が出てないか世界を見て回るよ。それじゃあね」
精霊はそれだけ言い残すとどこかへと消えていった。ダンジョンに邪霊の気配が消えたことで、凪の谷に来ていた多くのディガーたちは落胆してしまった。なにせ今回の報奨金はかなりの高額である。わざわざ遠くから来たディガーもいたことだ。
アルドたちはディガー協会にダンジョンのクリア報告をして、報奨金を受け取った。
「ふう、これだけあれば当面は生活に苦労しないかな」
クララが切実にそんなことを言う。
「お前、専業で食っていけてないのか?」
聞き覚えのある声が背後からした。この声の持ち主である青年は呆れた様子でアルドたちを見回している。
「なに? 悪いの?」
クララがヴァンに睨みをきかせる。助けてやったのに嫌味でも言いに来たのかと掴みかかろうとするが——
「アンタたち程の実力者ならその内専業でも食っていけるようになるだろう」
目を伏せがちにしてそう語るヴァン。クララはその発言に少し毒気を抜かれて拳を下した。
「まあ、なんだ。そのありがとう。アンタらがいなかったら、相棒は今頃やられていたかもしれない」
ヴァンのパーティメンバーの剣士風の青年。彼が怪我をしていて、ヴァンは治療のために下山をした。
「あの人大丈夫だったの?」
イーリスが心配そうに訊く。女子供が嫌いなヴァンは少し嫌そうな顔もしながらも答える。
「一応は無事だ。命に別状はないし、数日もすれば復帰できる。お陰様でな」
「そっかー。良かったねー」
イーリスはヴァンに無邪気な笑顔を向ける。ヴァンは嫌いなはずの女子供に少しだけ、ほんの少しだけ愛着が沸いてしまった。
「とにかく、この俺ですら勝てなかった相手を倒したんだ。アンタらにはもっと上を目指してもらわないと困る! じゃないと俺の立つ瀬がなくなるからな」
「呆れた。この期に及んで自分のプライドが優先か」
ミラがため息をつく。そんなミラの発言を無視してヴァンは続ける。
「それと! アンタらのお陰で相棒の命は救われた。そのことで大きな借りができた。いつかこの借りを返してやる。それだけを伝えに来た」
ヴァンがビシっとアルドに向かって宣言をする。そして、踵を返してディガー協会を後にするのであった。
「なんだったんだろうねアイツ」
「さあ。まあ、最初に会った時に比べたらマシな男になったんじゃない? それでもアタシは好かないけど」
クララとミラは冷静にヴァンを評価した。
◇
精霊から受け取った鍛冶屋の技術書。それを持ってアルドはルドルフの工房を訪ねた。
「おお、お前さんか。いらっしゃい。へへ」
すっかり常連客として認知されているアルドにルドルフが媚びるような笑みを浮かべた。
「ルドルフさん。この本を知っていますか?」
「ん? お、おお! その本は……現存していたのか? アルドさん。アンタ、これをどこで……いや、出どころはどうでもいい。これをワシに譲ってはくれないか?」
ルドルフの食いつきの良さにアルドは一瞬戸惑ってしまう。
「もちろん、タダでとは言わない。お前さんのその雷神の槍。そして、現在修理に出ている疾風の刃。それらもこの製法を使えばある機能が付く」
「ある機能?」
「ふふ、それは出来てからのお・た・の・し・み・じゃ。ふぁっふぁっふぁ」
ジジイの無駄なチャーミングの言い回しにアルドは引っ掛かりを覚えるも首を縦に振った。
「まあ、僕が持っていても仕方のないものですし、お譲りしますよ」
「ありがてえ! ありがてえ! それじゃあ。早速武器の改造をさせてもらう」
アルドは雷神の槍をルドルフに手渡そうとする。
「おっと。だから、それをワシに渡そうとするな。お前さんは平気でも、ワシはこれの取り扱いに失敗したら大変なことになるんじゃから」
「あ、すみません」
「そこの台においてくれると助かる」
アルドは言われた通りに雷神の槍を台の上に置いた。
「うーむ……どうやら、この高純度の邪霊武器。昔の人はこう呼んでいたらしい。イノセント・アームズと」
「へー、そんな呼び方があったんですね。確かに普通の邪霊の素材を使った装備と呼び名で区別がつかないのは不便だとは思ってました」
「そうじゃのう。ならば。このルドルフ製の武器をイノセント・アームズと呼ぶことにしよう。ファッファッファ」
「あのー。ルドルフさん。盛り上がっているところ申し訳ないんですが、僕もそろそろ防具が欲しいいんですけど」
アルドも前衛に立って攻撃を受ける機会が増えてきた。信仰が低いから邪霊の攻撃に対して耐性があるものの、イーリスが防具によって救われたのを見ると、やはり自分も防具を装備して少しでも生存率を上げておきたいと思ってしまうのだ。
アルド自身もパーティの防衛の
「えー防具……ワシ、あんまり防具作るの得意じゃない」
「えー」
「まあ、防具が欲しければ他のやつに頼んでくれ」
なんとも形容しがたい気持ちのまま、アルドはルドルフの工房を後にした。
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