第44話 迅雷
「全員まとめて始末してやる! ディスパース!」
ファイヤードゴーレムの両手から複数の岩石が散り散りになって飛んでくる。散らばっていく岩石の弾丸。それから守るようにアルドはイーリスの前に立った。
「クララ! ミラ! 気を付けて」
クララは岩を拳で破壊する。マナで強化された拳は、強度、硬度が上がり、岩をも砕ける。
「ライメイ!」
ミラは雷の魔法を放った。天空から雷が落ちて、岩に命中した。とどろく音と共に岩がバキィと破壊された。
「この程度の岩!」
アルドは雷神の槍を構えて雷を纏う。
「
アルドは槍で岩を突いた。岩石はその衝撃で破壊されて岩がバキバキに破壊される。
ボトボトと岩が破壊された岩が地面に落ちて、アルドたちは攻撃をしのぐことに成功した。
「なるほど。ではこれならどうだ。クルセイド!」
先程、ヴァンを倒す際に使った赤の魔法。5つの炎が十字架の形を形成して、それがアルドに向かって放たれる。
今ここで避ければ後ろにいるイーリスに炎が直撃してしまう。そう判断したアルドは覚悟を持って腕で体をガードしてファイヤードゴーレムのクルセイドを受け止めた。
「くっ……ぐうう!」
「お父さん!」
イーリスが前方のアルドを心配する。アルドの腕をジリジリと炎が焼いていく。アルドは信仰が極端に低いからこそ、大きなダメージは免れてはいるが、クルセイドも威力が高い赤の魔法である。アルドも食らえば霊障を受けるのは免れない。だが、アルドが攻撃を引き受けてくれたお陰で、他の3人が攻撃を受けるのを免れた。
「アパト! アタシがアルドさんの霊障をなんとかするから、クララは前線に立って。イーリスちゃんは強力な魔法の準備を!」
「わかった!」
「え、えっと……」
クララはアルドの前に出て最前線に立つ。だが、イーリスは急に強力な魔法を撃つ準備をしろと言われても困ってしまう。確かに、イーリスが現状では最も威力が高い攻撃手段を持っている。ミラも信仰が高い魔法使いではあるが、イーリスには及ばないし早撃ちが得意なタイプなので、じっくりと強力な魔法を放つのは実は不慣れなのである。
イーリスが得意とするサイクロン。威力、攻撃範囲共に安定している。だが、ここの地形的に風の魔法は威力が減衰してしまうから非常に扱い辛い状況である。かと言って、赤の魔法はまだ未成熟だ。ならば、できることは邪霊魔法か、植物の魔法である。
イーリスが悩んでいる間にも戦闘は続いている。クララが接近戦で巨大なファイヤードゴーレムに応戦している。まともに殴りあえば、パワーがあるのはゴーレムの方でクララが不利になってしまう。クララは
「オラァ!」
ゴーレムが叩きつけるようにパンチを放つ。クララが避けるも、ゴーレムのパンチは谷を揺らすほどの一撃だ。
「うわっと」
ゴーレムのパンチの振動を受けてイーリスがよろめいてしまう。とりあえず、マナを練り上げるイーリス。丁度、その頃、アルドの霊障も取り除かれて戦線復帰できる状態となった。
「ありがとうミラ」
「ああ。こちらこそ、攻撃を引き受けてくれてありがとう」
アルドも無事でイーリスは安心した。そして、リラックスした気分で魔法を放つ。
「行くよ! リーフスター!」
イーリスはワンドから鋭い刃の木の葉を放った。イーリスが放つリーフスターはかなりの威力ではあるはずだが……ゴーレムの特性として斬撃はあまり効かない。斬撃の特性も持つリーフスターはファイヤードゴーレムには通用しなかった。
「なんだ今のは……」
ゴーレムはリーフスターが当たった箇所、左肩を右手で触った。ダメージとしては大したことがない。しかし、威力が明らかにおかしい。もし、自分が斬撃に強い岩の体でなかったとしたら、深いダメージを負っていたことが感覚でわかった。
そして、理解した。このパーティで最も厄介なのがイーリスであると。イーリスの魔法は一発逆転の切り札になりえる。だから、アルドが必死にイーリスを攻撃から守っていたんだと推察した。その推察は間違ってはないけれど、正解でもない。アルドはイーリスのことを大切に想っているからこそ守っているのである。その親子愛については邪霊であるファイヤードゴーレムには理解できなかった。
ならば、やることは1つである。
「ラピッドファイア!」
ゴーレムは一瞬の隙をついてイーリスに向かってラピッドファイアを放った。ミラが得意とする高速で火の玉をぶつける魔法。威力はそこまでではないが、信仰が高いイーリスには大きなダメージになりえる。
「な!」
アルドはすぐにイーリスを庇おうとする。だが、間に合わない。
「あっ……」
イーリスに攻撃が命中する。
「イーリス!」
アルドはすぐにイーリスに駆け寄る。イーリスは片膝をついて倒れてしまうも、息はある。ハァハァと肩を上下させてから立ち上がった。
ローブの特性。装備者のマナの残量が多ければダメージをある程度軽減させる。そのお陰で、なんとか致命傷は避けられたが、それでもイ-リスの肌に火傷の霊障が残っている。
「アルドさん! イーリスちゃんの治療はアタシがやる! 心配なのはわかるけれど、今はみんながやれることをやろう!」
魔法が使えないアルドがいてもイーリスの霊障を取り除けない。アルドがやることは前線に立って敵の攻撃を引き受けることである。
「よくもイーリスを……!」
アルドの闘志に火がついた。そして、雷神の槍がバチバチとスパークする。
ファイヤードゴーレムは心の中でほくそ笑んだ。なぜならば、狙い通りにイーリスを攻撃したからだ。威力が低い魔法でイーリスと、それを治すためのミラ。その2人の行動を縛れているのである。アルドの怒りなど誤差だと言わんばかりに再び魔法を放とうとする。
「今度こそ始末してやる! ディスパース!」
開幕に放った岩石の散弾。全員が万全の状態ならば避けられてしまうが、今はイーリスが負傷して、ミラがそれを治している状態。誰かしらに強いダメージが与えられるであろうという考えで放つ。
それは戦術としては正解に見えるが、ある計算が1つ抜けていた。
「迅雷!」
雷神の槍のバチバチとしたスパークがアルドの体にも伝わる。全身が雷のバチバチとしたエネルギーに覆われたアルドは、目にも留まらぬ速度で岩の散弾を1つ叩き落とした。
そして、超高速で移動して、また1つ、また1つとたった1人でディスパースを攻略したのだ。
「なッ!」
ファイヤードゴーレムは目を丸くして驚いた。まさかたった1人で全ての弾を打ち落とされるとは思いもしなかった。
「くっ……」
アルドはその場に崩れ去る。なんとか槍を杖代わりにして倒れるのを防いだ。雷神の槍の能力である迅雷で身体能力をかなり底上げした。だが、この能力の反動で全身に激痛が走ってまともに立てなくなってしまう。この反動は邪霊の攻撃による霊障ではないために、アパトの魔法では治すことはできない。
「バ、バカめ! その能力を俺を倒すために使えば良かったのに! 仲間を守るために使ったせいで、お前は、俺を倒す機会を失った!」
「フッ……ウチの娘を舐めないでくれ」
アルドはニヤっと笑った。そして、アルドの背後に万全の状態のイーリスが立っていた。
アルドが敵の攻撃を防いでくれている間にイーリスの治療が終わった。そして、イーリスもマナを練り上げて体に最大限にまでなじませている。この状態で放つ魔法が弱いわけがない。
「ガロウ!」
イーリスが現在使える最強の邪霊魔法。ワンドから狼の霊体が飛び出て来て、それがファイヤードゴーレムの体を貫いた。
「がっ! バ、バカな……!」
イーリスはラピッドファイアを受けて、相手も信仰が高いタイプだと理解した。だから、信仰が高い相手に有効な邪霊魔法を放ったのだ。
ゴーレムの体はバラバラになって崩れ去った。やがてその岩の体は消え失せて、大きな石片を残すだけとなった。
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