第47話 勇者、いよいよ魔王城へ向かう。

現在の中の人

勇者:マーニ 美女:ソフィ 大男:リック 幼女:ルシア

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 翌早朝、マーニたちは魔王城側の洞窟の出口に立つ。

 ここから魔王城までは、道はないけれども平坦な荒野。緑一つないモノクロームな風景が広がっている。

 最短距離で進めば、半日ほどで魔王城へと到達するだろう。


「本当にみんな行くんだな?」

「無論だ」


 マーニが確認を取ると、リック以外の二人も輝いた目でうなずく。

 それを見たマーニが足を踏み出そうとすると、引き留める声が掛かった。


「お、お待ちください。わたくしも、わたくしめもお連れください!」


 マーニが振り返ると、土下座をするように懇願していたのはブリッツだった。

 さすがに連れてはいけないとマーニが断ろうとすると、リックが膝を突いてブリッツの肩に手を掛けた。


「お前を連れていくことはできぬ。理解してくれ」

「ですが、わたくしも勇者様……いいえ、大隊長様のお役に立ちとうございます。なにとぞ、このブリッツをお連れください!」

「お前の忠義は吾輩も感じ入るものがある。だが今のお前は部隊長の身であろう?そなたが持ち場を離れては、部下が路頭に迷ってしまうではないか」

「ですが、しかし……」


 ブリッツは涙を流しながら、リックとの別れを惜しんでいる。

 マーニは自分の出る幕じゃないと、すべてをリックに任せることにした。


「そなたの任務は魔王の監視。ならば我々が無事に魔王を討伐した暁には、その存在が消失したことを確認し、それを国王陛下へとご報告してくれ。その大役、我々のために勤めあげてはもらえぬか?」

「か、畏まりました、リックハイド大隊長様!」


 ブリッツはすっくと立ちあがり、そのままビシッと敬礼をする。

 その目からは、涙をとめどなく溢れさせながら。


「吾輩は元大隊長だ。では行ってくるぞ、ブリッツ……」

「わたくしの中ではいつまでも大隊長であります! 行ってらっしゃいませ、みなさま。どうか、ご武運を!」




 洞窟を後にしたマーニたちは荒野を往く。

 魔王城への道のりに妨げるものなど何もないように見えたけれど、全然そんなことはなかった。

 魔王城の方向から休みなく放たれる邪悪な魔力は、まるで吹雪でも吹き付けるようにマーニたちの行く手を阻んだ。


「ブリッツさんが言ってたのは、これのことだったのね」

「確かにこれでは、魔王城にたどり着く前に体力が尽きかねん」

「リフレクション!」


 リフレクションの魔法を唱えると、マーニの身体を包む伝説の装備品が薄っすらと輝きだした。そしてマーニの身体は邪悪な魔力を跳ね返し、その後方に影響力の及ばない空間を作り出す。まるで風除けのように……。


「これで進みやすくなったのよね」

「ふふ、やはりマーニ殿が勇者でなければ、魔王城到達でさえも過酷なものであったわけだな」

「腐っても勇者だね」

「腐ってないよ! ひどいよ、ソフィ」


 魔王城に近づくにつれ、邪悪な魔力も威力を増す。

 その威力は、もはや並の耐性魔法や魔法障壁では軽減できないほど。もしもリフレクションが途切れたら、それだけでマーニたちは壊滅しかねない。

 光弾を放つような瞬発的な使い方と違って、永続的にリフレクションの魔法を掛け続けるには魔力を大量に消費する。

 当然、充分すぎるほど持参した魔力の回復薬も、次々と消費され続けた。


「どうする? このままじゃ、魔王城に着くころにはマジックポーションがすっからかんだぞ? 出直すか?」

「でも、洞窟にあった備蓄分の大半をもらってきたから、戻ったって補充できそうもないよ?」

「ふむ、となると早急に回復薬を手配したとしても、再出発は一、二週間後になりかねんな……」


 進むべきか引くべきか。まだ魔王城が見えてこない状況で、一行は究極の選択に迫られる。

 すると、ルシアが提案を持ち掛けた。


「すっからかんでも魔王城にさえたどり着ければ、きっと何とかなるのよね。魔王城には魔力回復の泉があるんだわさ」

「えーっ!? そんな話聞いたことないぞ?」

「はぁ……。あんた、それでも魔王討伐を任された勇者なのかつら?」


 魔王や魔王城のことは事前に充分調べたはずなのに、マーニは魔力回復の泉なんて見たことも聞いたこともない。

 マーニがルシアに疑いの目を向けると、ソフィが思いついたように口を挟んだ。


「あっ、それってひょっとして魔王のこと?」

「ソフィの方がよっぽど勇者なんだわさ。そう、消費した魔力は黒魔法で魔王から吸い取ってやればいいのよね」

「ふむ。それに今から引き返したところで、洞窟に帰り着く前に回復薬が尽きかねぬな。ルシア殿の作戦に問題がないのであれば、このまま進むべきかもしれぬ」

「わかった。これ以上、日数をかけたくもないしね。このまま進もう」


 一行はなるべく魔力を温存しつつ、マジックポーションの消費も抑えつつ行軍を再開する。

 時折、マーニの背後の安全地帯からはみ出してリックが傷を負った際も、魔法を使わずに体力回復薬で済ませる。

 けれどもマーニがリフレクションで魔法を跳ね返しているということは、その分のダメージも魔王に与えているかもしれない。


「これを跳ね返してるだけで魔王を倒せたらいいのにね」

「相変わらずソフィは楽観的だな。そんなに魔王は弱くないだろうし、倒される前に魔力の放出だってやめるだろ」

「それにしても、なんて魔力量かつら。この力、全方位に放出してるみたいだし、これじゃまるで魔力を捨ててるようなもんなのよね……って、止まったんだわさ」


 魔王城が見えてきた辺りで、邪悪な魔力の放出が止まった。マーニはリフレクションを解除して、魔王城への行軍の足を速める。

 マーニの背後で小さくなって歩いていたみんなも、虫かごから放たれた蝶のように生き生きと広がって、それに続いた。

 ソフィとルシアが肩に下げるカバンの中身は、ほとんどが魔王にかけるための弱体薬。魔力や体力の回復薬は、もう数えるぐらいしか残っていない。

 出立時は大量の回復薬が詰まっていた大きなリュックも、中身が空になったのでリックの背中は大きな両手剣だけになってしまった。

 なんとか薬品が尽きる前に魔王城にたどり着いた一行は、決戦の準備のためにしばしの休息をとる。


「もたもたしてると、また魔力の放出が始まるかもしれない。もったいないけど、ここは薬品で一気に回復して突っ込もう」

「心得た」


 各自が必要量の回復薬を飲み終えると、休息も終わり。

 一行はゆっくりと、魔王城の正面にある大扉に向けて足を踏み出した……。


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