第45話 勇者、実家を出る。
現在の中の人
勇者:マーニ 美女:ソフィ 大男:リック 幼女:ルシア
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「兄貴ぃ、どうだった? 財宝は……って、なんだかみんな、めっさボロボロじゃない。なんかあったの?」
「あぁ、うん。財宝は見つからなかったけど、魔物と魔獣をやっつけてきた」
自分の身体を取り戻したマーニは自宅に戻るなり、疲れた声と一緒に呪力の結晶を妹のシフォンに手渡す。
初代勇者の石像から通じる地下のことを話すと面倒になりそうなので、魔王の討伐を完遂するまでは秘密にしておこうとみんなで口裏を合わせておいた。
だから、マーニからの報告はこれですべてだ。
「あれ、出かける前の兄貴は、なんだか話しやすくなっていい感じだなーって思ったんだけど……。やっぱり気のせいだったわ。兄貴は、やっぱり恥兄ぃだわ」
「こいつ……」
シフォンは、兄のマーニに対しては相変わらずの毒舌ぶり。
そんなシフォンはみんなの疲れ切った様子を見て、心配そうに声を掛けた。
「とりあえず、みんなお風呂入った方がいいよ。ルシアちゃんはあたしと……って入ってくれないか」
「別に構わないのよね」
「え? いいの? でも、みんな反対なんでしょ?」
「いいよ、一緒に入ってくればいいじゃないか、シフォン」
「ルシア殿が良いのであれば、構わぬのではないか?」
「わたしとも一緒に入ろっか、シフォンちゃん」
「え? え? 急にどうしちゃったの? みんな……」
行きと帰りでみんなの身体に劇的な変化があったことなんて、シフォンは知る由もなかった……。
「じゃぁ、もう行くのね、マーニ。気を付けるんだよ?」
「見事魔王を討伐して、国王陛下にご報告をして来い」
「行ってまいります。父さん、母さん」
さすがにいつまでもくつろいでいるわけにもいかないので、風呂と遅めの昼食を済ませた一行は魔王城に向けて旅を再開する。
リック、ソフィ、ルシアが先に外に出て、後を追うようにマーニが玄関から踏み出そうとすると、シフォンがそれを呼び止めた。
「……ちゃんと、無事で帰って来てよね。でないと、また……三年前みたいになっちゃうから……」
「あぁ、必ず生きて帰ってくるさ」
「生きてるだけじゃだめだよ。絶対に怪我しないで帰ってきてよ……」
「あぁ、もちろんだ。じゃぁ、行ってくるよ、シフォン」
またしばらくの別れになりそうなので、マーニはシフォンに歩み寄って両手を大きく広げる。
そしてシフォンをそっと抱きしめ――。
「むぐっ……」
跳ね上げた勇者の兜の顔面を、シフォンの拳が射抜く。
「調子に乗んな、恥兄ぃ」
「はい……行ってきます……」
『勇者の里』も離れ、一行はひとまず街道へと進路を定める。
ここまで来たら『魔王討伐のしおり』も必要ない。後は魔王山のふもとにある、登山道入り口に向かうだけだ。
たぶんこのまま進めば、三日ほどで到着するだろう。
勇者の財宝の話題もいい加減に飽きた頃、ソフィが伸びをしながらつぶやいた。
「んー、それにしても久しぶりだったなぁ……」
「久しぶりって『勇者の里』のこと? ソフィ『勇者の里』に来たことあるの?」
ソフィの意外な言葉にマーニが反応した。
ローカルな共通の話題が芽生えて、二人の会話が弾む。
「う、うん。だってわたし、あの村の出身だもの」
「ほんとに? うーん、だけどちっちゃな村だからなぁ。ソフィみたいな美人に遭遇したら、覚えてないはずがないんだけどなぁ……」
「あ、出身って言うか、生まれがあの村だっただけなの。わたしが幼いうちに、すぐに村を出ちゃったし」
「そっか、どうりで」
「だけど、ずいぶんと変わっちゃったんだね、あの村」
「え? そうかな? 僕が小さい頃から何もない、つまんない村だよ」
会話が今一つ盛り上がらない中、前を歩いていたルシアが首を突っ込む。
「それにしても『勇者の里』から魔王城って、思ったより近いのよね。だったら最初からここに伝説の装備品を保管しておけば、すぐに魔王が倒せたのよね」
「しかしながら、伝説の装備品は国宝。奪われては大変であるから、致し方ないのであろう」
「確かに。人並以下だった僕の魔力が、今じゃ人並外れたレベルだもんなぁ……。国王に向けて魔法をぶっ放す奴だって、現れないとも限らないしな……」
「ぐぬぬぃ……。もしもあたしがまた勇者の兜を被る機会があったら、絶対マーニに向けて全力の魔法をぶっ放してやるんだわさ!」
あれ以来戦闘の機会がないので、マーニの実力は未だに発揮できていない。
けれど試し撃ちをしてみた感じ、ルシアが勇者だったときの魔力よりも今の自分は上回っていると、マーニは自負している。
「『勇者の資質を持つ者が伝説の装備品を用いれば、魔王など恐るるに足らず』っていう伝承は、本当だったみたいだな……」
そして三日後の朝。一行は予定通りに魔王山のふもとへと到着した。
魔王山。命名の理由は、単純にこの先に魔王城があるから。
その登山道の入り口には、勝手に一般人が踏み込まないように兵士が常駐して見張っている。
「これは勇者様、長旅お疲れ様です。そちらの三名は同行の方でございますか?」
「あ、うん。とりあえず四人で向かう予定だよ。通してもらってもいいかな?」
「もちろんでございます。ただいまご案内役を呼びますので、しばしお待ちを」
今までは自由気ままな旅だったけれど、ここまで来ると雰囲気が物々しい。さすがは最前線だ。
すぐに案内役の二名の兵士がやってきて、マーニに向けてビシッと敬礼をする。
「上の洞窟までは、我々がご案内させていただきます!」
「お荷物もお持ちいたしますので、ご遠慮なくお預けください!」
「それには及ばぬ。我々の荷物は我々で何とかするゆえ、貴殿らは道案内を頼む」
「はっ! 畏まりました。リックハイド元大隊長殿」
ここからは、結構な勾配の登山道を半日かけて登る。
すると見えてくるのが最後の洞窟。この洞窟は初代勇者の戦闘の際に、魔王が放った魔法が貫いて出来たと言われている。真偽のほどは怪しいけれど……。
「もう夜か。かなり険しい坂だったな」
洞窟に到着した頃には日が暮れていた。
ここまで先導してくれた兵士は、洞窟の入り口に立っていた見張りに申し送りを済ませて去っていく。そして新たな兵士が、今度は洞窟の内部を案内してくれた。
「こちらは体が鈍らないように、鍛錬場となっております」
「ほほー」
「こちらは調理場です」
「いい匂いなのよね。お腹がペコペコかつら」
洞窟内はその形状を利用して、いくつもの部屋が設けられている。
あるところは食堂として大勢の兵士が雑談を交わし、またあるところでは数人の兵士が仮眠をとっている。まるでアリの巣のようだ。
そして案内役に連れられるままにマーニたちが最後に案内されたのは、厚手の布の垂れ下がる小部屋だった。
「部隊長殿! 勇者様方をお連れ致しました!」
「…………」
垂れ布の向こうから返ってきたのは一瞬の沈黙。
そしてその直後、バァサッという大きな音と共に垂れ布が跳ね上がり、中から一人の男が飛び出してきた。
「ようこそ、お出でくださいましたぁっ!」
男は素早くマーニたちに目を配ると、見つけ出したリックに向かって敬礼した。
「大隊長殿ぉ。お待ち申しておりましたぁ!」
「久しいな、ブリッツよ。あの時はゆっくりと言葉も交わせず、すまなかったな。だが今日の主客は吾輩ではなかろう? その敬礼は勇者殿に向けよ」
「そうでした。勇者様、長旅お疲れ様です。わたくしは魔王監視部隊の部隊長を務めております、ブリッツと申します。ご用の節は何なりと、また魔王討伐にご入用なものがございましたらご遠慮なくお申し付けください」
ブリッツはマーニへ向き直ると、改めてビシッと敬礼した。
続けてブリッツは、一同に向けて現況の報告を始める。
「実は……二日ほど前より、魔王城から放たれる邪悪な魔力の量が、尋常ではないほどに跳ね上がっておりまして……。斥候を出そうにも、我々では魔王城に近寄れない状況となっております」
「なんでまたそんなことに……。まさか、結界を破ろうとしているんじゃ?」
「二千年間破られなかった結界が、今さら破壊されるとは考えにくいですが……」
魔王の考えなんて誰にもわからない。
前回の復活だって三百年も昔。それを体験した者は、もうこの世に存在しない。結局みんな、あれやこれやと推論を語ることぐらいしかできなかった。
「勇者が近付いてるのを察知して、威嚇してるんじゃない?」
「あたしらにビビッて、パニックを起こしてるんじゃないかつら」
「普通であれば力を蓄え、決戦に備えそうなものであるが……」
「とにかく、そのような状況でありますので、行軍の際はお気を付けください」
「ありがとうございます」
「今日はもう日も暮れましたので、どうぞこちらでご一泊ください。あ、食事もすぐに用意させますので」
ブリッツの計らいで、マーニたちは最大級のもてなしを受ける。
とはいえ、ここはタクティア王国の西の最果て。出された食事は簡素なものばかりだった。与えられた寝室も、ベッドを四つ並べただけの窮屈な空間。そのベッドもフカフカとは程遠い。
それでもさっき案内された時に見かけた夕食や、布一枚敷いただけの床で睡眠をとっていた兵士を思えば特別待遇もいいところだ。
明日はいよいよ魔王城に向けての行軍、みんな早めに寝床に潜り込む。
ランプを消し、真っ暗になる室内。
するとマーニが、みんなにポツリとつぶやいた……。
「――やっぱり……明日は僕一人で行く」
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エピソード終了時の中の人
勇者:マーニ 美女:ソフィ 大男:リック 幼女:ルシア
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