第40話 勇者、墓所に踏み込む。
現在の中の人
勇者:ソフィ 美女:ルシア 大男:リック 幼女:マーニ
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「――なにゆえーーっ!? ソフィ、どうして古代文字が読めるんだ?」
街中にある店の看板のように、いともあっさり古代文字を読み上げたソフィ。
マーニの質問にも、いともあっさり答える。
「それはたぶん、両親に教えてもらったから……じゃないかしら」
「ソフィの両親って何をしてる人なのかつら? 考古学者とかかつら?」
「専門家でも解析には時間を要すると聞く。もしやソフィ殿のご両親は、相当に高名な御仁なのではあるまいか?」
「それが……両親の記憶はほとんどないのよね。小さい頃に死に別れたから」
「左様であったか、これは失礼いたした……」
ソフィの答えに一同は沈黙してしまった。
けれども本来の目的を思い出したリックは、改めてソフィに尋ねる。
「ソフィ殿。それよりも、先ほどの文言だ。今一度、繰り返してはもらえぬか? 吾輩、呆気に取られてしまい、聞き漏らしてしまったゆえ」
「えーっと、『初代勇者から順に、魔王討伐時の年齢の十の位を右へ、一の位を左へ回せ』よ。この言葉は役に立つかしら?」
「うん、うん、うん、もちろんだよ。これで財宝への道は開かれたも同然だよ」
興奮気味に頷くマーニに、斜に構えたルシアが醒めた言葉で皮肉る。
「なにが開かれたも同然なのよね。歴代の勇者が魔王を討伐した時の年齢なんて、誰がわかるっていうのかつら? いったい、どれほどの文献を調べれば――」
「23、35、31、28、16、28、18であるな」
「あぁ、変人がここにもいたのよね……」
「僕の歳まで入ってる。まだ討伐してないけど……」
勇者マニアのリックが、即答で答えを出す。
これで財宝への道を開く準備が、思いがけずあっさりと整った。
「ソフィ殿の言葉によれば、まずは右へ二回転であるな」
リックが初代勇者の石像の台座の縁に手を掛けて、ゆっくりと右に回転させるように押し出す。けれどもリックの怪力をもってしても、そう易々とは回らない。
結局、四人で力を合わせて回すことになった。
次は左へ三回転、そして右へ三回転……。
黙々と台座を回す作業に没頭しながら、ルシアがつぶやいた
「この初代勇者の石像を破壊したのが何者か、あたしわかっちゃったのよね」
「えっ!? どうしてわかったの?」
ソフィはルシアの名探偵ぶりに驚きの声を上げる。
ルシアは息を切らしながら、ソフィの質問に答えた。
「だって、台座だけでも四人がかりでこの重さなのよね。この上に石像が立ってたら、とてもじゃないけど動かせやしないかつら。だからきっと、台座を回すために石像を破壊したに違いないのよね」
「あー、なるほどね。そういうことね」
ソフィはルシアの推理に感心すると、残りわずかの台座の回転作業に力を注ぐ。
そして左に八回転させたところで、台座の底からガコンという鈍い音が響いた。
「最後は正面から奥に向かって押すみたいよ」
ソフィが読み上げた古代文字の指示通り、四人で力を合わせて台座を押す。
するとズルズルと台座が奥に滑り出し、地下へと下る階段が現れた。
「やった! のよね」
「ふむ、まず最初の難関は突破できたようであるな」
四人はランプを手に取ると、それぞれに掲げて地下へと降りていった……。
地下の通路は、松明の灯り程度では奥までは届かない。
奥に広がる暗黒空間は、どこまでも無限に続いているように感じられる。
一行は、ところどころにひび割れや崩落の跡がある石畳の通路を慎重に進む。
「真っ暗で怖いわ。なんか出そうじゃない?」
「またかよ、ソフィは怖がりだな」
今回もソフィはマーニの陰で丸くなりながら、隠れるようにその後ろを進む。
そして首筋に水滴が垂れると、「ひぃぁあああ!」と叫び声をあげながらマーニにしがみついた。
さらにそんなソフィに対して、どうせやるなら元の身体に戻ってからやってくれと、マーニが溜息をつくまでがお約束だ。
「ひぃぁあああ!」
「はい、はい、また水滴か?」
「ち、違う……マーニ、ほら、あそこ……」
「ひぃぁあああ!」
今回ばかりはマーニもつられて悲鳴をあげた。
ソフィがかざした松明に照らされたのが、白骨化した遺体だったからだ。
リックはその遺体を丹念に調べ始めた。
「ちょ、何やってるんだ? 放っておいて先に行った方がよくないか?」
「いや、そうはいかぬ。死因次第では、この先の進め方も変えねばならぬからな」
「で、死因はわかったのか?」
「この遺体は、おそらく六百年以上前のもの。ここまで古いとハッキリしたことは言えぬが、骨が複数不自然に失われておる。これは動物……いや、即死したところを見ると、魔獣に襲われたのかもしれぬな」
あっという間にそこまでわかるものかと、マーニは感心した。
けれどルシアは信じられなかったらしくて、見立ての根拠をリックに尋ねた。
「なんでそこまでわかるのよね? ハッタリかつら?」
「失礼な奴め……六百年以上前の遺体だというのは、甲冑の様式から推測できる。死因はこの骨の様子から、何者からかの襲撃を受けたのは明白。魔物であれば不自然に骨を持ち去るとは思えず、動物の類が咥え去ったと見るのが自然。そしてこれほどの業物を持つこの者の腕ならば、ただの動物ごときでは即死に至らぬというが吾輩の見立てだ」
「どうして、この人が即死したってわかるの?」
「それは、カバンに詰められている薬品が答えだ。空き瓶が一つも無く、使われた形跡がない。つまり回復薬を使用する暇もなく絶命したということに他ならない」
見事なまでのリックの観察力。マーニは改めて感心した。
けれどもその見立てのせいで、今度はソフィが震え出す。
「だったら、ここには魔獣がいるっていうの? こんな暗闇で襲われたら、避ける暇なんてないじゃない。帰ろう? ねぇ、帰ろう?」
「心配いたすな。先頭は吾輩が務め、しんがりはマーニ殿が見ておる。それに実戦経験には乏しいとはいえ、ルシア殿の剣技も様になってきておるからな」
「お、おだてたって、騙されないのよね。あたしだって死にたくないかつら」
怯えるソフィとルシアを安心させるために、マーニは懸命に励ます。
「大丈夫、魔物も魔獣も魔王が倒されると、呪力が届かなくなって消滅するんだ。だから当時の魔獣は、今はもう消え去ってるから心配いらないって」
「本当に?」
「あぁ、本当だよ。それにここは一本道だから、襲われるとしたら前からだ。前方だけ気を付けてればいいんだから、油断することだってないさ」
「わかった、もうちょっとだけ行ってみる……」
なんとかソフィをなだめて先に進むと、すぐに道が二手に分かれた。
「なにゆえーーっ! 僕の言葉を速攻で否定するように道が分かれるとか、ひどすぎるでしょ」
「しばらくは魔獣以前に動物の気配すら感じられぬ。もう少し進もうではないか」
「で、どっちに行くのよね? 二手に分かれるのかつら?」
「いや、それは危険だ。ここは土地勘のあるマーニ殿に、進路を決めてもらおう」
「土地勘って……。僕が知ってるのは地上だけだよ」
そう言いながらも、マーニは一歩前へ進んで左右の通路を見比べる。
松明をかざして左を見ると、道幅が広く感じられる。けれども足元のひび割れが激しい。そして右を見てみると、道幅が少し狭くて闇が深く感じられる。
マーニは分岐路の中心で、腕組みをして悩み始めた。
「うーん、どっちに進むか……。責任重大だな……」
「もう、どっちでもいいから、早く決めてくれないかつら」
「右……いや、左……。んー、右かなぁ……待て、待て、やっぱり左の方が……。うん、決めたぞ、進むべき道は――」
その瞬間、足元がゆらりと揺れたと思ったら、直後に轟音を伴った激しい崩落がマーニを襲った。
「下ぁぁぁあああ!」
耳をつんざく音と共にマーニの足元にぽっかりと空いた穴は、悲鳴と一緒に一瞬でその小さな身体を飲み込んでしまった……。
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