第39話 勇者、先祖を訪ねる。

現在の中の人

勇者:ソフィ 美女:ルシア 大男:リック 幼女:マーニ

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「この地はまさに吾輩の聖地。いつか来ようと思いつつも、なかなか訪ねることが叶わなかった地。今日の吾輩は今までになく、胸が高鳴っておる」

「まさか……。本当にここに、勇者の財宝が眠ってるっていうのか?」


 浮かれた速足でリックに連れてこられた場所に、マーニは驚きを隠せなかった。

 ここはマーニが知り尽くした場所。というか、マーニにとっては幼少の頃に遊び場にしていた場所だ。あの姉に、稽古をつけてもらっていた場所でもある。


「この殺風景なところはなんなのかつら。辛気臭くて嫌な感じなのよね」

「それは当然であろう。なにしろここは歴代の勇者様方が眠る墓所なのだから」

「ちょ、ちょっと、お墓って、なんてところに連れてきてくれたんだわさ!」


 墓場と知った途端に、ルシアがソワソワし始めた。

 それを見たマーニは、ルシアをからかってみせる。


「なんだ? 墓場って聞いて怖くなったのか?」

「な、なに言ってるのかつら。お墓がなんだっていうのよね。こんなお墓なんて、へへんのへーん、なんだわさ!」

「これ、無礼なことを言うでない! ここに眠っておられるのは、代々我が国を魔王の手から守ってくださった方々なのだぞ」

「だ、だからって、あたしまでお墓参りに、付き合わされたらかなわないって話なのよね。そ、そんなのマーニの親戚一同でやったらいいのよね」


 踵を返して帰ろうとするルシア。けれども声も膝も震えているその様子は、墓所を怖がっているだけなのが一目瞭然だ。

 そして、墓所を怖がっているもう一人の人物がここに。

 そのソフィは勇者の鎧をカタカタいわせながらも踏み止まり、ルシアに向かって引き留めの言葉を掛けた。


「で、でもルシアちゃん。ここに勇者の財宝が眠ってるかもしれないんだよ?」

「ぐぬぬ……わかったのよね、こうなったらとことん付き合ってやるんだわさ!」


 開き直ったルシアは薄手のローブを翻して、ズカズカと墓所に踏み込んでいく。

 けれどもそのルシアの肩を、リックがその大きな手で掴んで引き留めた。


「これ、ここは墓所であるぞ。財宝を探す前に、挨拶をせねば失礼であろう」

「はぁ、めんどくさいのよね。そんなの適当でいいんだわさ」

「でも、ルシアちゃ~ん。失礼なことすると、歴代の勇者様に呪われちゃうかもしれないよぉー?」

「ムキーッ! わかったのよね、やればいいのよね、やれば。まったく、マーニの先祖は心が狭いったらありゃしないのよね!」

「それは本当に呪われてから言ってくれよ……」


 ソフィの脅しで従順になったルシアに苦笑しながら、リックが墓参の手順を説明する。ルシアも今回は、渋々ながらそれに従った。


「まずはここで手を清め、六代目勇者様の墓から順に、五代目、四代目と参るのが作法だ。おい、聞いておるのか?」

「はい、はい、聞こえてるのよね。なんでこんな面倒なこと……しかも六基もお墓があるなんて、まとめて一つにはできなかったのかつら」

「ルシアちゃん、の・ろ・い」

「あーっ、もう、わかったのよね」


 マーニは七代目勇者。つまり過去には魔王を討伐した勇者が六人いる。そしてそれぞれに墓が立てられ、その墓石は雄姿を称える石像となっていた。

 リックの言いつけ通りに六代目勇者の墓に手を合わせたルシアが、訝しげに石像を見上げる。するとその顔が突然緩みだした。


「へー、これが六代目なのよね。クールなイケメンって感じで、ちょっとかっこいいんだわさ」

「ふぅ~ん、ルシアちゃんって、こういう人がタイプなんだね。意外~」


 勇者の兜の前面を跳ね上げたソフィが、表情をいやらしくニヤニヤさせながら、興味津々でルシアをからかう。

 ルシアはそんなソフィに向かって愚痴ってみせた。


「スケベ顔のあんたと違って、六代目は優しそうなんだわさ。どうせ魔王討伐に付き合わされるなら、六代目の時がよかったのよね」

「えーっ!? わたしってスケベ? ひどいなぁ……」

「あぁっ、スケベなのはあっちのマーニのことなんだわさ。今だってあたしの身体で、何を考えてるのかわかったもんじゃないのよね」

「そっかぁ。良かった、わたしのことじゃなくって」


 ホッとしたソフィは、ちらりとマーニに憐れみの目を向ける。

 マーニはどうしてそこまで言われなきゃならないのかと面白くない表情で、六代目勇者の台座に刻まれた言葉を読み上げた。


「ふん! 座右の銘が『信ずるは己のみ』なんて、キザッピーじゃないか」

「ふん! 間違いなくあんたと違って、デリカシーも包容力もあるって断言してやるのよね!」

「まぁ、まぁ、まぁ、ケンカしないで。わたしはマーニのこと、充分にかっこいいし優しいと思ってるわよ」

「そ、それは、ほんと?」


 マーニは一目惚れしているソフィから誉め言葉をもらって、小さくて柔らかい頬を真っ赤に染める。

 それを見ていたルシアは、嫌味を含めながらソフィをからかってみせた。


「へぇ……、あんたの好みって、こんな冴えない男だったのよねぇぇえ?」

「全然好みじゃないわよぉ。ただ顔は悪くないと思うし、優しさだってこれだけあればと思ってね。わたしの『充分』って、許容範囲がかなり広いけどね」

「はぁ……なんだか告白もしてないのに、振られた気分だよ……」


 六代目に手を合わせ終わった一行は、続けて五代目の参拝に移る。

 そこには筋肉質でガッシリとした体格ながらも、眼鏡をかけた理知的な雰囲気を漂わせる石像が立っていた。


「ふーん……これが例の五代目勇者なのよね。暑苦しい体形だけど、思ったよりも賢そうなんだわさ」

「相変わらず貴様は無礼だな。五代目勇者様は、歴代最強と言われておるのだぞ。幼少の頃は武闘派であったものの、魔王討伐を果たした後は学問に傾倒し、ここにある『魔王討伐のしおり』の編纂など、様々な功績を残した偉大な御仁なのだ」

「ふーん、でもやっぱり五代目勇者は大馬鹿者確定なんだわさ。この台座の銘文を読み上げてみるといいのよね」

「どれどれ、『魔王討伐成功の謝意を五代目勇者に捧ぐ』ですって、ぷっ」


 ソフィは台座に刻まれた文字を読み上げ、そして噴き出した。

 さすがのリックも決定的な証拠を突き付けられたようで、神妙な表情で台座を見つめる。


「いや、しかし、これは……。もしや、六百年もの昔には『捧ぐ』の意味合いが違っていたのではあるまいか?」

「はい、はい、これじゃただの自画自賛なのよね。マーニもこんな愚か者の血を引いて、哀れとしか言いようがないのよね」


 ご先祖様を拝むたびにマーニの心が削られていく。

 四代目、三代目……と参拝を続け、初代勇者の石像にたどり着いた時には、マーニの精神力は尽きかけていた。思わず回復薬をグイっと一飲みする。


「うーむ、これはいかがしたことか……」

「ひどい有様なのよね」

「だ、誰がこんなことしたのかしら」


 みんなが初代勇者の石像を見上げ……ることなく、つぶやく。

 何しろ初代勇者の石像は足首を残して、その体が粉々に破壊されていたからだ。

 マーニは自分の知っている言い伝えをみんなに話した。


「初代勇者の石像が破壊されたのは何百年も昔らしいんだ。復元も試みたらしいけど、初代勇者なんて遥か昔の人物だからその容姿もすでにあやふやでさ。結局そのまま復元されることもなく、台座だけが残されてるって話だよ」

「左様であったか……。初代勇者様のご尊顔を拝めなかったのは残念だが、気を取り直して勇者の財宝を探すとしよう」

「待ってました、なのよね!」


 長い長い前置きを終えて、やっと本来の目的に取り掛かる。

 けれどもそれは、いきなり暗礁に乗り上げた。


「文献によれば、この初代勇者様の台座こそが財宝への鍵。この台座を操作することによって、道が開かれるとあったのだが……」

「どうやって操作するんだ?」

「それは、台座に刻まれていると文献に書き記されておった」

「あ、ここ、なんか書いてあるのよね……って、解散。これ古代文字なんだわさ。こんな失われた文字を読める人なんて、一握りの考古学者ぐらいなんだわさ」


 一気に興味を失くしたルシアが、台座に背中を預けて腰掛ける。

 古い文献を随分と読み込んでいるリックも、古代文字までは解読できずに敢え無く断念した。

 マーニが恨めしそうにボソリとつぶやく。


「そりゃそうだよな。気軽に立ち寄った僕らが簡単に開けられるなら、とっくにみんなに知れ渡ってるはずだもんな」

「逆に考えれば、古代文字の解析さえ可能であれば、まだ財宝が眠っている可能性もあると言えまいか……?」

「だけど学者を呼んできたら国に知られて、財宝は全部没収されちゃうに決まってるのよね。所詮、儚い夢だったってことかつら」

「初代勇者から順に、魔王討伐時の年齢の十の位を右へ、一の位を左へと回せ」


 ソフィが何やら独り言をつぶやいている。

 最初は誰も気に留めなかったけれど、一瞬の後にみんなで大声を張り上げた。


「なにゆえーーっ!? ソフィ、どうして、どうして古代文字が読めるんだ?」


 驚愕の声をあげるみんなをよそに、ソフィはキョトンとした顔をしていた……。


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エピソード終了時の中の人

勇者:ソフィ 美女:ルシア 大男:リック 幼女:マーニ

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