第37話 勇者、実家に帰る。
現在の中の人
勇者:ソフィ 美女:ルシア 大男:リック 幼女:マーニ
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「あ、あの……。ごめんくださーい……」
おどおどした震え声で、ソフィが玄関のドアを開く。
するとすぐに陽気な明るい返事と共に、足音がパタパタと奥から近づいてきた。
「ハーイ! どちらさまですかぁー?」
奥から現れた長い黒髪をポニーテールにした少女は、キラキラとした茶色の瞳で玄関に向かって駆けてくる。
けれどもそこに勇者の姿を見つけると、ジリジリと後ずさりを始めた。
「お母さーん、末代までの恥がきたよぉー」
そのまま少女は駆け出して、奥へと消えていった……。
「ひどい言われようであるな……」
「あたしも今になって、ちょっと悪いことしたなーっていう気になったのよね」
「ひょっとして、あれがさっき教えてもらった妹さん?」
「そうだよ……。あれが二つ下の妹のシフォンだ」
家族の前でもソフィが勇者マーニライトとして振舞えるように、大体のことはさっきマーニが説明しておいた。
けれど、どんな展開になるかなんて未知数。後は臨機応変に対処するしかない。
みんなで玄関に立ち尽くしていると、すぐにマーニの母親が駆け寄ってきた。
「マーニ、無事なのね! 良かった、心配したんだからね……」
マーニの母親は勇者の鎧の上からソフィを抱きしめると、ポロポロと涙を流し始めた。それを見つめるマーニは胸が痛む。
けれどこれは想定内。事前に打ち合わせておいた通りにソフィが芝居を始めた。
「か、か、母さん。な、なんだかデマが広まっちゃってるみたいだけどさー。何も問題はないよー。ほ、ほら、この通り、僕は自由さーぁ」
「デマ? デマなの? あんたが国王陛下に向かって魔法を撃ったせいで、国家反逆罪で処刑されるかもしれないって、村中大騒ぎになってるのよ?」
「や、やだなー。ぼ、僕は魔王討伐に向かってる最中だよー? 処刑されるなら、こうして旅を続けてるはずがー、ないじゃないかぁー」
ソフィは台詞を絞り出すのがやっと。その言葉には感情の欠片も感じられない。
それでも今のところは騙し通せているみたいで、マーニの母親は涙を拭きながら安堵のため息をついた。
「そうよね。良かった、デマで……。それでマーニ、こちらの方々は?」
「あ、あ、うん。魔王討伐に一緒に行ってくれることになった、仲間たちだよー」
「あら、あら……それは、それは。さぁ、さぁ、みなさん長旅でお疲れでしょう。ひとまず、居間でおくつろぎくださいな。すぐお飲み物をご用意しますんで……」
マーニの母親から歓待の言葉が掛かって、一行はホッと胸を撫で下ろす。
唯一、間取りを知っているマーニを筆頭に、家の中へと入っていく一行。
するとマーニの母親が、息子に向かって呼びかけた。
「マーニ、みなさんを居間にご案内してあげて」
「うん、母さん、わかったよ」
「えーっと、私、あなたを産んだことあったかしら?」
うっかり返事をしたのはマーニ本人だった。自宅に戻った安心感のせいで、今の自分が幼女のような姿だったことも忘れて……。
「あーっ、いえ、マーニのお母さん、わかりました……ってか、お邪魔しますっ」
強引に誤魔化したマーニは、ソフィの背後に回り込んで居間に向けて押し出す。あくまでも勇者について行く風を装って。
リックとルシアも冷や汗をかきながら、二人の後に続いた……。
「イヤよ、イヤよ、いつバレるかヒヤヒヤしながら話すのはもうイヤよ」
居間に入ってドアを閉めるなり、ソフィが喚き散らした。
今はソフィに頑張ってもらうしかないので、珍しくリックも優しく振る舞う。
「なかなかの名演技だったではないか。どれ、鎧を外すのを手伝ってやろう」
「あ、そうだね。僕も手伝うよ」
労をねぎらうように、ソフィが着ていた勇者の鎧をみんなで脱がせる。
そこへマーニの妹のシフォンが、お盆に飲み物を乗せてやって来た。
「いらっしゃいませー。あ、兄貴は自分で持ってきてね。って、なにやってんの?兜だけ被っちゃって」
「こ、これは……その、脱げないの。兜だけ……」
「ぷっ。ダハハハハ、なにそれ、かっこわるー。やっぱ末代までの恥だわー、これから恥兄ぃって呼んでやろっと」
シフォンは腹の底から笑いながら、飲み物をお盆からテーブルへと移していく。マーニを除いた人数分を。
そして思い出したように、シフォンはソフィに伝言を伝える。
「あ、そうだ、恥兄ぃ。お母さんがね、すぐにお風呂沸かすから、みなさんもどうぞだって…………ん? そっちの子……」
「ん? 僕?」
飲み物をテーブルに置いたところで、マーニに刮目するシフォン。目をジーっと凝らして、睨みつけるように見つめている。
マーニはその態度に不安になりながら、用心深く妹のシフォンを見つめ返した。
「んー……あなたって……」
「え、えっと……なにか……?」
身体の入れ替わりを悟られたんじゃないかと、マーニは行動を振り返ってみる。
けれどもそんなはずはない。まだまともに言葉も交わしてないんだから、気づかれるはずがないと、マーニは内心で自分に言い聞かせる。
それでもシフォンはジッとマーニを見つめたまま。しかも顔の右から、左からと、様々な角度から観察している。
そして意を決したように、シフォンが口を開いた。
「なに、なに、なに、なにこれー、すっごく可愛い! お人形さんみたーい!!」
シフォンはマーニに抱きつくと、その小さな頬っぺたに自分の頬を合わせて、スリスリと頬ずりを始めた。
続けて、マーニの小顔を抱きかかえるように胸に押し付ける。
そしてさらには吐息交じりで、マーニに好意を示してきた。
「あぁん、お肌もキメが細かくてツヤツヤぁ。張りもあってプニプニぃ。もう……お部屋に飾って毎日眺めていたいぐらい……むふぅっ」
「い、いや、それはちょっと……」
「あぁぁん、もう。こーんなに可愛い子と一緒に旅してるなんて、恥兄ぃが羨ましすぎるぅ。ねぇ、お名前はなんていうの?」
「ル、ルシア……」
「ルシアちゃんかぁ……。あふぅん、いいお名前。ねぇ、ねぇ、一緒にお風呂に入ろう? いいでしょ? 洗いっこしよ? あはぁぁん、もう、どこから洗ってあげちゃおっかな。ねぇ、いいよね? ルシアちゃぁ~ん」
「え、あ、あぁ、シフォンがいいなら、僕は別に……」
マーニの同意の言葉に、みんなから一斉にツッコミが入る。
「ダメでしょ!」
「それは許可できぬ!」
「最低だわさ!」
まさかの猛反対にシフォンの方が驚く。
納得のいかないシフォンは、ソフィに食って掛かった。
「なんでダメなのよ、バカ兄貴。女同士なんだからいいじゃない、ケチ兄貴」
「いや、それは、その、えーと、その人は男……」
「えっ? 男の子なの? この子」
「いや、そうじゃなくて……。身体は女の子だけど……心は男っていうか……」
「確かに僕なんて言ってるもんね。でもそのギャップがまたかわいいっていうか、もうたまらんんん! 早くお風呂行こ、お風呂!」
ハッキリしないソフィの言葉じゃ、シフォンの勢いは止められない。
しかもマーニも乗り気なのか、シフォンに手を引かれるままに席を立つ。
するとマーニの耳元に口を寄せて、ルシアが小声で囁いた。
「……あんたの身体にはあたしも入ったことがあるから、恥ずかしい秘密も全部知ってるのよね。一緒にお風呂に入るなら、村中に言い触らしてやるんだわさ……」
「……な、なんだよ、僕の身体の恥ずかしい秘密って。そんなものないぞ……」
「シフォンさーん。実はマーニのオチン――」
「あ、あー、やっぱりお風呂は一人で入ろっかなー、あははー」
マーニは速攻でシフォンの手を離すと、電光石火でルシアの口を塞いだ……。
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エピソード終了時の中の人
勇者:ソフィ 美女:ルシア 大男:リック 幼女:マーニ
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