第32話 剣士、夢破れる。
現在の中の人
勇者:リック 美女:ルシア 大男:マーニ 幼女:ソフィ
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幼少期のリックは、母親から読み聞かされる勇者の冒険譚で眠りに就いていた。
それもほとんど毎晩だ。
母親がたまに別な話にしようとしても、それを拒んで勇者の話をねだる。次に何が起こるのか、とうの昔に暗記してしまっているというのに……。
リックがこれほど強く勇者に憧れたのは、母親の「うちも勇者の血を引いてるかもしれないよ?」という軽い一言からだった。
お絵描きをすれば勇者の絵。
口ずさむのは勇者を称える歌。
そして友達と勇者ごっこをすれば、勇者の役は絶対に譲らない。
将来自分は勇者となって魔王を倒すんだと、就学前のリックは固く信じていた。
そんなリックが生まれて初めての挫折を味わったのは、その直後のことだった。
――自分は勇者にならなきゃいけないのに、魔法が使えないじゃないか……。
リックにとって、これはショックだった。
冒険譚の中の勇者は、強力な魔法で敵をなぎ倒していく。火炎を放ち、凍らせ、天からいかずちを落とす。
そんな、勇者なら当たり前の行いを、自分ができないなんて……。
けれども魔法が使えるかどうかは生まれ持っての定め。後天的な努力でどうにかできるものじゃない。
考え抜いた末、リックが至った結論はシンプルなものだった。
『魔法が使えない分を、圧倒的な剣技で補えばいい』
家が裕福ではないと気付いていたリックは、庭で一人黙々と木の枝を振る毎日。
目の前に魔王を思い浮かべながら、来る日も来る日もそれを斬りつけた。
「リック。お前、剣術を覚えたいのか?」
「は、はい、父上」
「そうか、ならば隣町に有名な道場がある。そこに通ってみるか?」
「よ、良いのですか!?」
道場に通えることとなったリックは、そこで剣の修練を積み始めた。剣術を習得したい理由は胸の内に秘めたまま……。
学校へ進学する年頃になると、いよいよ現実が見えてくる。
リックの二度目の挫折はその頃だった。
「勇者って、勇者の家系に生まれないとなれないらしいぞ」
友人の軽い一言でリックは動揺した。
幼い頃に母親から聞いた『勇者の血を引いているかもしれない』という言葉は、とうの昔に冗談だったと自覚していた。なにしろ魔法が一切使えないのだから。
それでも勇者になろうと努力していたリックにとって、血筋のせいでそれが無に帰すことは耐え難い現実だった。
しかし多くの書籍を読み漁り、調べれば調べるほどに、友人の言葉が真実なのだと思い知る。
「『諦めなければ夢は必ず叶う』などという言葉は嘘ではないか!」
それでもリックは勇者になる夢を諦めきれなかった。
リックの部屋の本棚には、勇者に関する本が累々と並び増えていく。
本棚が埋め尽くされると、さらに新しい本棚をこしらえる。
リックの研究は続く、勇者の血を引かぬ者が勇者となる方法を求めて……。
そんなものが存在しないことは、とっくにわかっている。それでも研究を続けているのは、ただの意地だ。現実逃避だ。そして、もはや日常だ。
――自分は絶対に勇者になることはできない。
わかっている。そんなことは、わかりきっている。
だから自分の今の夢は、『勇者殿のお供をし、魔王討伐の手助けをすること』になっている。そういうことにしている。そう自分に言い聞かせている。
けれども三十を過ぎた今でも、本棚の書籍は続々と増え続けている……。
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エピソード終了時の中の人
勇者:リック 美女:ルシア 大男:マーニ 幼女:ソフィ
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