名前、嬉しいです

「えーっ!か わ いー!!」

誠の感想はそれに尽きた。

膝に乗せ、頭をグリグリと撫で回している。誠にも恐らく同様に見えているだろう事が確認出来、譲もひとつほっとした。

誠は育成補助システムから一連の説明を聞いた後、「人工精霊じゃん!すご」と端的な理解を示した。柔軟な姪に叔父は僅かに畏怖を抱いた。

「ジョーさん。名前!名前決めた?」

「植物に?ロサセアエ、なんだろ」

「この子もいるじゃーん!」

「名まえ…」

ぼんやりと呟いた育成補助システムは、やがてキラキラした目で譲を見詰めていた。それに気付いてしまい、苦々しい顔で幾つか口に出す。

「ヤマブキ、シロ、キイロ…」

「色禁止!」

口を尖らせる姪に片眉を吊り上げる。面倒そうに逡巡した後。

「………マオ」

「マオちゃん?可愛いじゃん!」

「マオ…」

システムが復唱すると、その頭部に「ポン!」と花が咲いた。鮮やかなオレンジ色のヤエヤマブキだ。

「わ、ビックリした。えーすごー」

「しかくてきにわかりやすくおつたえするため、ロサセアエのかんじょうのへんかにおうじてマオに花がさきます」

「そうなんだー。可愛いし便利ー」

誠に撫でられエヘヘと笑っている。

「名まえといえば、なぜユズルさんのことをジョーさんとよぶのですか?」

「だって絶対ユズルって顔してないじゃん。ジョーさんの方がポイもん」

「そうなのですか?」とマオは首を傾げる。

マオには解らないが、一般的に見て譲は強面だ。鋭い目付きに愛想のない表情。ぶっきらぼうな物言いも含め、『譲』という響きがもたらす柔らかな印象にはそぐわない。

「そう呼ぶのはナルだけだ」

「あたしをナルって呼ぶのもジョーさんだけだよ」

一言も二言も多い誠から言を引いて成。意趣返しだったが、誠はナル呼びを気に入ってしまった。譲の姉から「あんたたちなんでコードネームで呼び合ってんの」と笑われた事もあるが、今更直せなくなっていた。

「なかよしなのですね」

「えへへ~これからはマオちゃんも一緒~」

朗らかに微笑むマオと誠を横目に譲は嘆息した。

「ありがとうございます。名まえ、うれしいです」

「名前って大切だよね~。あたしのお母さんは千早っていうんだけど、ほんとそんな感じなの。まんま過ぎて笑っちゃう」

「まんま過ぎて笑えなかったから、俺が『譲』なんだよ」

「あー!そうなんだなるほどね!!ウケる!」

一番のまんまポイントは性格だが、親から受け継いだ目付きは姉も同様だ。誠にも受け継がれている。誠と千早は二人揃って「あたしのツリ目はチャームポイントだから!」と言っているが、怒らせた時の迫力は物凄い。

「マオ、はどういう字をかくのですか?」

「カタカナだカタカナ」

マオの質問に被せ気味に答える。

「あたしが当てるなら真に糸偏の緒かな~」

譲が当てた字は「白」。色禁止と言われた手前、誠にはバレなさそうな読みを選んだ。部屋を漁れば元ネタが出てきてしまうが、誠には興味がない筈だ。大丈夫だろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る