触った気になっているだけです

「システ…ム?」

頭が真っ白のまま復唱する。

真っ白な幼子は鉢の奥から横へ移動し座り直した。ちょこんと正座し、譲を真っ直ぐに見る。

「はい。この、しょうひん名『ロサセアエ』はとくべつなしょくぶつです。わたしはその気もちをだいべんし、いくせいのお手つだいをします」

6歳程度の見た目で、辿々しく説明をくれる。譲は体勢を戻すと、即座にスマートフォンに手を伸ばした。

『ちょっとーまだ学校…』

「ナル!おまえが送ってきた花やべーんだけど!?幻覚性がある!!」

繋がった瞬間畳み掛ける譲に、流石の誠も一瞬黙した。

『なぁに言ってんの~?また飲んでるー?可愛い姪っ子からのプレゼントなんだから、ちゃんと育ててよね!じゃあ授業始まるから!』

「おいちょ…ッ、 チッ」

通話の切れたスマートフォンに目を落とす。流石に学生の本業を邪魔は出来ない。

勢いに任せて顔を背けていたが、再び鉢を振り返るのが恐い。だが無情にも、

「主さま」

それは声を掛けてきた。現実逃避は叶わなかった。ギギギ、と嫌がる首を無理矢理動かすと、白い幼子はやはりそこに座っていた。

「さっそくですが、のどがかわいています。お水をいただけますか?」

何も理解が及ばないまま、譲はフラフラと水を取りに行く。マグカップに水を注いで戻ると、幼子は一瞬目を見開いてから柔らかに微笑んだ。

「ありがとうございます。でも、もう少したくさんほしいです。ゆそうで土がかわいてしまいましたから」

水を欲しているのは植物だ。幼子ではない。気付いた譲は少しだけ恥ずかしくなったが、幻覚であれシステムであれ、そんなものに照れる必要はないと自分に言い聞かせた。

鉢に水を注ぎながら、譲はそろそろ現実を受け入れるべく口を開いた。

「…ぁーっと、その…んで、おまえは……何だ?」

「ロサセアエの育成補助システムです」

「そうじゃなくて…」

何と言ったら良いものか。鉢を調べてみるが、普通の鉢だ。機械が取り付けられているようにも見えない。システムという言葉を信じ、ヤバい幻覚でもファンタジックな存在でもないとするなら、何処かにタネがある筈だ。急に現れた事からみても物理的な身体はないだろう。であれば投影装置のようなものがある筈だが、見当たらない。

「………」

恐る恐る手を伸ばす。頭に手を置いてみると、確かに触れた感覚がした。

「!? 身体が、ある?」

「ないです。わたしはものをもち上げたり、いどうさせたりはできません。主さまがさわった気になっているだけです」

それはやはり幻覚という事ではないだろうかと眉を顰める。この幼子が自分だけの幻覚なのかどうかも解らないが、譲はひとつ言っておかねばならないと決した。

「『主さま』はやめてくれ。人聞きが悪い」



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