ロサセアエ

炯斗

はじめまして、主さま

インターフォンの画面越しに、和やかな笑顔を向けられる。

「片桐ユズルさま宛にお荷物です」

「荷物?」

覚えがない、と暫し黙す。配達員は一度視線をずらし、すぐに笑顔を向け直した。

「江ノ瀬マコトさまから。内容は鉢植えのようですよ」

「…あぁ」

そう言えばそんな事を言っていたと思い出す。持ち帰らせるのも気の毒だし、取り敢えず運び入れて貰う事にした。



先週の事を思い返す。

──確かあれは土曜日の14時頃だった。


「やっほージョーさん!可愛い姪っ子が遊びに来たよー!」

勝手にズカズカと上がり込んで、ただでさえ騒々しい声を元気に張り上げる。その騒音は部屋主の頭にガンガンと響いた。

「…帰ってくれ…」

「うわ何また二日酔い?弱いんだからそんなに飲んじゃダメだよ!」

「俺が酒弱いは通らねーんだよ…。いやマジで静かにしてオネガイ」

二日酔いの頭に若い女ガキの声はキツイ、と譲は優れない顔色で眉間を押えた。

「もー!」と返した誠は辺りを見渡して、「部屋も散らかし過ぎー!」と騒ぎ立てた。

「オマエノテンションハイマホントツライ…」

消え入りそうなその声は姪には届かなかったかも知れない。誠はニヤリと笑って、譲の座るベッドの端に体重を掛けた。

「部屋に緑のひとつでも置いたらいいと思って、注文しておきました」

「はあ?」

「植物の面倒くらいみられるでしょ?」

ぼふん!とベッドの端に沈み込んだ姪に溜め息を吐く。

「おまえなぁ」

母親が家に居ない事が多い誠は、昔から叔父の家に入り浸っていた。渋々合鍵も渡してあるし、私物も少なからず置いたままにされている。また荷を増やされる事に呆れはしても今更それに怒りは沸かない。

「あたしも受験とかありますので~、ジョーさんの面倒ばっかみてられないのデース」

「おまえんとこエスカレーターだろ偉そうに」

誠は小中高一貫の女学院に通っている。とても信じられないが、超が付く程のお嬢様学校だ。

「寂しい?」

「イイエ」

真顔で即答する譲に誠はニヤニヤと笑みを返した。

「来週くらいには届くと思うから、ちゃんと世話してね!」



──で、これか。

届いた鉢植えは恐らくヤマブキ…のように見えた。全く詳しくはないが、それでも見たことがあるような枝葉だ。

「観葉植物じゃねーのかよ」

ぼやきながら、取り敢えず場所や形を整える。室内に鉢植えで花というのもどうかと思う。

「葉も愛でて下さい、主さま」

「!?」

しゃがみこんで鉢を見ていた譲はそのまま静かに尻餅をついた。いつの間にか、鉢の奥に真っ白な幼子が座っていた。

「え、な…?」

言葉にならない。

「はじめまして、主さま。私はこの木の育成補助システムです。これから宜しくお願いします」

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