5:シャワーくらい浴びろ
センベンテルン軍・ミッドスケア詰所内。
薄暗い室内にはチーズや焼いた肉の匂いが充満していた。
むせ返るようなたばこの臭いとアルコールの揮発した臭いは軍服にも染みつきそうなほど濃厚で、この部屋で行われたことをありありと想起させるほどの物だった。
「ん、んぅ……?」
ミスティは目覚め、周りを見回して何をするべきか考える。
「ベンディが居ないな……?」
たばこの灰を胸元に乗せたまま眠るセクター隊長。
肉にかかっていたソースで袖口を汚したレート運搬員。
そして零してしまったのか、体中からアルコールの臭いを撒き散らしているトリー戦闘員。
「……とりあえず体あらお。」
詰所のシャワーで汚れを落とし、支給された灰色の軍服に着替える。
「……可愛くない。」
統一された軍服に何を求めているのか。
「でもまあ、アタシの可愛さはこんなんじゃ隠しきれねえな?」
鏡の前でポーズをとる。
「うん、可愛い!」
再び部屋に戻ると、3人もすでに目が覚めていた。
どうやら3人で部屋の片づけをしていたらしく、机の上はもう綺麗になっていた。
――キィィィィィィンン!
「お前挨拶代わりにそれ使うのやめろ?」
「何のことですか?私が可愛いって?」
「むぅ。軍服も似合いますね。」
「っすね。なんかこうして軍服姿を見ると仲間になったって感じがするっす!」
「ほら、みんなさっさとシャワー浴びてきてください?」
「むぅ。」「っす。」
おとなしく二人が出ていくのを見送ったところでセクター隊長がミスティに声をかける。
「お前のそれ、便利だな。」
「そうですか?」
「あいつら片付けはするくせにシャワー浴びたりは後回しにする奴らだからな。助かる。」
――キィィィィィィンン!
「隊長も、シャワー浴びてくださいね?たばこ臭いんで。」
「わざわざそれ使わなくても行くよ。ったく……。」
そう言ってセクター隊長もシャワーを浴びに行ったところでベンディも戻ってきた。
「おっ!ミスティだけか?」
「悪いんだ―、一人だけ片付けせずに出て行って―。」
「おいおい、俺はお仕事だぜぇー?お前らと違って一仕事してきたんだ、片づけくらいでそうガミガミすんなよ?」
「仕事?連絡兼斥候だっけ?」
「あの破天荒な隊長がミスティを連れ込んだからな。書類仕事全部俺に押し付けてくんの!」
「うわー、可哀そう……でもそんな書類いるの?」
「ミスティちゃんなぁ……選任騎士のメダリオン持ってるのに軍の方で確認できないわ、そもそも軍に入隊してないわ、そもそも入隊式の目撃者は全員“可愛い人が来たけど空から連れ去られた”しか知らないわ……お前もあれか?隊長と同じタイプか?」
「大変なんだね、連絡員兼斥候兼事務員なんて……頑張って!」
――キィィィィィィンン!
「それやめろ馬鹿!」
「可愛い私を見て元気出して頑張ろうね!」
「……面倒な女が増えたな。」
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