4:先天的魔法はずるい

ミスティの肩に手を置いたセクター隊長は淡々と語り始める。


「さて、まずお前の『先天魔法』はおそらく“好意の増大”を促す魔法だと考える。これは俺がお前の魔法を喰らった感想と考察ってやつだ。」


ミスティは黙って、ニコニコとした笑みを崩さずに聞いている。


「お前の魔法が効かなかったのはゲイのアイツ、熟女好きなベンディ。そして俺だ。」


「うちは喰らってないっす!抗議するっす!」


トリー戦闘員はそう叫んで椅子から立ち上がるもセクター隊長に軽く睨まれるとすぐに座った。


「俺は胸とケツが良い女にしか興味がねえ。それこそ、お前よりもそこのトリーの方が魅力的に見えてる。顔は40点だけどな。」


「ひでぇっす!女の顔に点数を付けるのは良くないっす!」


「体は120点だぜ?」


「点数の問題じゃないっす!」


セクター隊長がすこし睨むとまたトリーはすごすごと静かになった。


「さて。重要なのはここからだ。前者二人はともかくおれはお前のことを初見で“可愛い女”だと認識していた、なのにこうしてきっちり会話が成り立っている。それは“違和感”をしっかり認識できたからだろう。」


「むぅ。違和感?どんな違和感です?」


レート運搬員は自分がミスティの魔法を受けていると聞いてその違和感に興味を持ったらしく、セクター隊長の話に興味を向けている。


「例えばミスティと殺し合ってる最中の相手は殺意を持って襲っているのに“可愛い”から殺したくないと考える。だがそれは自分の思考と矛盾するわけだからな、違和感はどうしても出てくるだろう。今のは極端な例だが、多少の違和感に気づけば頭に走るノイズみたいな音に気付けるってわけだ。」


「むぅ。つまり思考を誘導できても行動を強制させるほどじゃないという事だな?」


「そうなるな。だからそのことをしっかり認識していればミスティのに操られたりはしない。あくまで受けた奴がお前のことを“良い子”と認識し直すくらいだろうな。」


「それじゃあ、問題はないですね?私が可愛い事は私が一番知っているんで、リアルに誘惑しながら使えば効くってことですもんね?」


ミスティのその言葉は明らかに“全員自分の物にしてやる”という意図が含まれた言葉だった。


「まぁ、ぶっちゃけそういうのはどうでもいいんだけどな?俺の『飛行魔法』やトリーの『隠蔽魔法』と違って完全に対人用なのもうちの部隊でできる事の幅を広げるって意味ならまぁいい感じだしな?」


そう言ってミスティの肩から手を離し、元の位置へと戻る。

セクター隊長が椅子に座り直したことで5人全員が座って向かい合っていることになる。


「そんじゃあ自己紹介も終わった、先天魔法の内容も分かった。後はもうやること決まってるよな?」


「っす!」「むぅ。」「はぁ。」「……。」


「なんだよ、お前らやる気ねえなぁ……せっかく新入りが入ったんだぜ?当然やるだろ!?」


元からアルヴァ隊の3人はお互いに顔を見合わせて、そしてミスティに目線を送る。


「え!?私ですか!?」


「……可愛いフリしてるが、おまえさっきからあんだけ魔法使っておいて今更すぎないか?」


「いや、私は“世界で一番可愛い女の子”なんで……。」


「山より高い自信っすね!?」


「おい!そういうのは後にしろって言ってるだろ!」


「むぅ。言ってないと思うぞ。」


「言ってんだよ!これから新入りの入隊記念パーティだろうが!」


その言葉にミスティだけは喜び、ガタッと椅子から立ち上がったのだった。


「いいじゃん!やろう!パーティ!」


「むぅ。めんどくさい。ゲームでもしていた方が良いと思うな。」


「パーティって言っても最近任務やってないからあんまり良いもの出ないっすよ?」


「……だりぃなぁー。」


「おら!新入りがやりたいって言ったんだからやるぞ!」


「やったぁ!隊長大好き!」


「むぅ。猫かぶり女だな。」


「あーいうのが可愛がられるんすよね、自分には無理っす。」


「……めんどくせぇー。」

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