2:アルヴァ隊

センベンテルン衛星都市、ミッドスケア。

中央都からおよそ50キロ離れた場所にあるこの都市では、エルフとの戦闘のために訓練に励む軍人の姿が見られた。

軍の詰所は“詰所”と呼ぶには少し大きく、その一室では3人の軍人が机の上の円盤を見ていた。


「むぅ。赤の7、黒の3だな。」


「んじゃあ俺は赤の5、黒の9辺りにするかな。」


「それじゃあ回すっすよ!」


3人の中で唯一女性の軍人が机の上の円盤を回す。

クルクルと回るその円盤の上には2つの金属球が転がっており、それはやがてカタカタと音を立てて止まる。


「赤の3、黒の9っす!」


そう、これはルーレット、いわゆる賭博だった。


「おっしゃあ!」


「うげっ!……むぅ。仕方ない。ほい。」


恰幅のいい男が痩せ型の男に銀貨を投げ渡すのを見ると女は呆れたように愚痴を漏らす。


「隊長まだ帰らないんすかね?ルーレットももう飽きたっすよ?」


「むぅ。そうは言っても今日は新兵の入隊式なんだから優秀な戦闘員が欲しい所だな。」


「無理だろ。戦闘員ってのはつまるところメダリオン持ちだろ?選任騎士か、かなりの才能を持った上級士官だろ?新兵にはいねえよ。普通は上から回されてくるもんだぜ。」


「うちの隊長は上層部から嫌われてるっすからねえ……。」


――ズダァン!


そんな会話に興じていると、何かが落ちてきたかのような衝撃と音が詰所を揺らした。


「お!隊長帰ってきたみたいっすね!」


「むぅ。ちょうどゲームもひと段落着いたところだし、タイミングはいいな。」


「……はぁ。どうせまた何か問題起こしてきたんだろ?だりぃな。」


3人が詰所の前に出ると、すでに人だかりができていた。

その中心には一般的な灰色の軍服ではなく黒い軍服に身を包んだ無精ひげの男が立っていた。


「おぅ!お前ら出迎え御苦労!土産もあるぜ!」


そう言って無精ひげの男は片手で抱えていた“荷物”を投げ捨てた。


「隊長!それ普通に可愛い女の子じゃないっすか!ついに人攫いまでしたんすか!?」


「むぅ。銀のメダリオン、選任騎士を拾ってきた?そういう事だな?」


「やめてくれよ隊長!俺の仕事がまた増える!?」


“荷物”は金髪の少女だった。涙でぐちゃぐちゃに顔を汚しているが、端正な整った顔であることがうかがえる。

どこにでもいる平民の姿をしている少女をさらってきたとしか言いようのない光景に3人はそれぞれ頭を抱えるのだった。


「いやいや、入隊式に混ざってたんだから新兵だろ?他の奴に持ってかれる前に持ってきた俺を褒めろよな!」


「どう考えても厄ネタじゃねえか!選任騎士が!新兵として!平民の姿で!?入隊式に居るわけねえだろうが!よしんば実際に居たとしても絶対攫ってきちゃいけない奴だろうが!」


「終わりっす!もう終わりっす!12貴席に目を付けられたらもうおしまいっす!隊長差し出して逃げるっす!隊長の首で我慢してもらうっす!」


気絶していたのか、ぐったりとしていた“荷物”が顔をあげる。


「うわぁ!?見てるっす!見られたっす!」


――キィィィィィィンン!


「こんな可愛い女の子になんて事してんすか隊長!?」


「……へぇ。なかなか面白いじゃねえか……いいもん拾ったな。」


そう言った隊長は再びミスティを抱えると、詰所へと連れ込んだのだった。

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