第一部:人間の国

前編:アルヴァ隊の新入り少女

1:乱入者の入隊式

センベンテルン軍本部。

それは中央都センベンテルンの中心部に存在する巨大なコロシアムに付帯した施設である。


「はい、それで……どのような御用でいらしたんですか?」


ちょうどその施設の入り口で今まさに職員と一人の少女が話し込んでいる。


「はい!軍に入りたいんですけど、どうすれば入れますか!」


そう言っているのは腰まで伸ばした金の髪と深緑の瞳を持つ小柄な少女、ミスティだった。


「えーっと、新兵の募集は常に行っているわけではなくて、こっちの募集要項の通りに……。」


「ダメなんですか?」


――チャリ


ミスティの首元にはウサギの紋章の付いた銀のメダリオンがかかっている。

これは選任騎士を示すものであり、その権力は一般的な人間では到底歯向かえないものでもあった。


「う゛!……なんで選任騎士がこんなところに来るんですかぁ……?」


「おかしいなぁ、軍の人っていっつも人が足りないって文句ばっかり言ってるのに……おかしいなぁ。」


「う゛う゛う゛うぅぅ!わかりました!わかりましたから!今、ちょうど新兵の入隊式をやっているのでそこに行って指示を伺ってください!」


「あっりがとー!」


――キィィィィィィンン!


「はぁ、可愛い人だったなぁ……ウチの上司もみんなあんな可愛い人だったら良かったのに。」


ミスティを一目見た軍人たちが彼女の後姿を愛おしそうに見つめている。

軍服姿の人間しかいないはずのこの場所に村娘のような格好の彼女は明らかな異常だというのに誰もそれを気にしない。


「さて、入隊式は広場かな?」


コロシアムの中心、広場のようになっているところには20人ほどの真新しい軍服に身を包んだ人が並んでいた。


「お、あれかな?」


ミスティはその並んでいる中にこっそりと混ざる。

もちろん、軍服など来ていないから明らかに目立っている。


――キィィィィィィンン!


「お前たち!これからお前たちはセンベンテルン軍の一員として各部隊に入隊することになる!並べ!」


「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」「はーい!」


一人明らかに覇気の足りない声が混ざったが、誰もそれを気にしていない。

いいや、気にしてはいるものの、声をかけることが出来ずにいた。


「さて、それで?お前はどこのダレ様だ?えぇ?」


20人の新兵の前に立っていた男はミスティに対し、そんな風に声をかけたのだった。


――キィィィィィィンン!


「初めまして!ラビット・ミスティって言います!軍に入りたくて来たんですけどここに来ればいいって言われて……ダメですか?」


「さっきから何度も……この気持ち悪い魔法はやめてくれ、頼むから!」


――キィィィィィィンン!


――キィィィィィィンン!


――キィィィィィィンン!


「何のことですか?よくわかんないです。」


ミスティは自然に、何も知らないかのような態度を取りながら周囲に同意を求めるように目配せしていく。


「教官殿!こんな可愛らしい少女をイジメるのは良くないと思います!」


「ただでさえ年季の入った軍服が威圧感を出しているのに高圧的な態度をとるのは良くないと思います!」


「お前ら馬鹿みたいにこの女の魔法にかかってんじゃねぇ!」


教官だけは、まるで何も起きていないかのようにミスティを睨みつけていた。


「え、なんで?」


「俺は女に興味が無いからな!貴様の魔法も効かんわ!」


ドン、と胸を叩きながら教官はそう言い切ると、ミスティの目の前に立つ。

しかし、ほぼ同時に黒い影が二人の頭上から舞い降りたのだった。


「おぉ!なかなかイイのがいるじゃねえか!貰ってくぜ?」


一瞬のうち、それこそ瞬きの間にミスティの体は宙に浮き、ゴゥ、と言う音と共にコロシアムを後にしていた。


「……あの馬鹿!勝手に連れて行きやがって!」


残されたのは教官の、忌々しそうな顔を浮かべた後ろ姿だけだった。

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