6:過去から来た女
「ごきげんよう、いい夜ね?」
そう言って現れたのは黒檀のような漆黒のドレスに身を包んだ女だった。
長い黒髪に、灰色の瞳。
切れ長の目はまるで全てを見透かすかのような傲慢さで男を見下していた。
「……おいおい、嘘だろ?」
ハーベンブルックはそんな“美しい人”が目の前に現れたことよりも、その女の胸元に光る金色のネックレスに目を奪われていた。
「ウサギの紋章、金色のメダリオン……なんで12貴席がこんな所に、こんなタイミングで現れるんだよ……!」
「お姉さまから手を離しなさい、クズ。」
――ダァン!
そう一言言うと、女はいつの間にか取り出していた金色の拳銃で男の手を撃ち抜いた。
――ドサッ
重力に従ってミスティの体が地面に落ちる。
「もっと優しく下ろしなさい、このクズ。」
――ダァン!
「なんなんだよ、なんでお前みたいなのが出てくるんだよ!」
「私の最愛の人に手を出すからよ。……やっぱりこれお姉さまにあげたほうがよさそうね。」
そう言って取り出したのは銀色のメダリオン。
ウサギが描かれたそれはまさしく、今女が持っているものと同じ紋章だった。
「このガキを選任騎士に……!?そんなこと許せるわけ……!?」
――ダァン!
――ダァン!
――ダァン!
瞬く間に両手足を撃ち抜いた女はハーベンブルックのこめかみに銃を突きつけた。
「あなた、12貴席に対して何口答えしているの?誰かの選任騎士であろうと所詮“選ばれただけ”の人間でしょう?貴席に歯向かっていいと思ってるの?」
「が、あぁ!」
「ダメに決まっているでしょう?」
――ダァン!
「さて、邪魔者は始末したし、お姉さまをベッドに運ばないと。」
そう言って女はミスティの首に銀のメダリオンをかけ、横抱きにしてベッドへと運んだ。
「お姉さま。」
ベッドで横になっているミスティの髪を撫でながら女、シェリーは一人愚痴をこぼす。
「お姉さまはこの世界で何がしたいんです?」
自分は貴席に産まれたおかげで好き勝手出来た。
それこそ、望めばなんでも与えられるくらいには。
だがミスティは違う。
パン屋の娘でしかない彼女は。
「あの頃のようにはならないのですか?」
――ギィィ
扉を開けてブルーム工房を去るその後ろ姿には哀愁が漂っていた。
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