4:ハンティング・デイ

センベンテルンメインストリート。

ブルーメ工房。

既に店は閉まっており、店内の明かりも見えない。


「遅くなっちゃったな……。」


ミスティは店の裏に回り、裏口から店内へ入る。


――ガシャァァァァン!


「ふざけんじゃないよ!あの子は私の娘!赤の他人に“はいそうですか”って渡せるものじゃない!」


そんな叫びが店内に響いた。


(強盗……じゃない!?犯人の狙いはアタシか!?)


ミスティは音を立てないようにしゃがみ、身を隠して二人の会話に聞き耳を立てた。


「はぁ、めんどくせぇな。選任騎士がこうしてやってきているんだからわかるだろ?俺だって仕事なんだよ、オーナーからのな。」


「だから!なんで12貴席があの子を欲しがるんだって話だよ!」


(12貴席……この国の貴族、だったよな?)


「だーかーらー!メイドの1人がガキ産んでいなくなるから新しいメイド、それも可愛らしい女の子を探してるんだよ!平民ごときが嫌がったって連れてくんだからさっさとそのミスティってガキ、差し出せって言ってんだよ!」


「いやだね!大体、なんでメイドが子供を作ってんだい!普通メイドは子供を産んで独り立ちさせた後の女がやるもんだろうに!どうせその貴席が孕ませたんだろう!そんなところにミスティを連れて行かせるか!」


「はぁ……しょうがねえなぁ。」


――ガシャァァァァン!


「が、あぁ!てめぇ!」


ママが信じられないような汚い言葉を発した。

それを聞いて、まさか、殴られたのかと思ってミスティは二人の言い争う場所まで出ていった。


「ママ!?」


「馬鹿!ミスティさっさと逃げな!」


「お、ちょうどいい。探す手間も省けたな。」


ミスティはここで初めて男の姿を見た。

パーティにでも居そうなドレススーツ。

しっかりと折り目の付いたスラックスに高そうな革靴。

そしてその恰好のきらびやかさとは不釣り合いな無骨な剣。


「剣……!?」


「そんじゃあもうお前に用はねえよ。死ね。」


男は流れるような動きでママの首を刎ねた。


「骨ごと……!?」


血が飛び散り、ミスティの顔に触れ、その生暖かい印が。

ママの死を証明していた。


「は……!?なん、何で?」


「さて、もうここに未練はないだろ?さっさと俺に付いてきてもらおうか。」


男はその血にまみれた手をミスティに差し出した。


「……アタシはブルーム・ミスティ。世界で一番可愛い女の子なんだよ!」


「はぁ?」


「お前みたいな量産イケメンがホイホイ手に入れられるほど安い女じゃねぇんだよ!」


――キィィィン


「俺はラット・ハーベンブルック。よろしくなお姫様……!?」


男は突然自己紹介を始めたかと思うと、慌てた様子でその場を飛び後ずさった。


「……『先天魔法』……か?いや、それにしたってこんなの聞いて……いいや。」


男はミスティをしっかりと両目で捕らえて言った。


「それなら殺してしまった方がいいな。」


「ハッ!お前にアタシが殺せるかよ!」


方や長身痩躯のきらびやかな男。

方や小柄で可愛らしい少女。

二人は薄暗い店内で、互いに相手の命を狙って相対したのだった。

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