3:シェリーという女

センベンテルンのメインストリートから2本隣の路地。

人が住む住居が立ち並ぶ、所謂居住区といった場所。

そこにミスティはいた。


「ごめんくださーい!」


――ガチャ


鍵を開け、中から現れたのは黒いドレスの美女だった。


「いつもありがとうね。」


「こちらこそ、シェリーさんにはいつもご贔屓になってます!」


そう言ってミスティは籠からパンを12個包んだものを手渡す。


「ねぇ。」


シェリーは甘えるような声でミスティを引き留めると、中へどうぞと言うように手を差し出す。


「中でちょうど紅茶を淹れたところなの、飲んでいかない?」


「えっと、そろそろ帰らないと……。」


「私の所で配達は終わりでしょう?少しくらい、いいでしょ?」


このシェリーと言う女性の事がミスティは苦手だった。

黒髪ロングで切れ長の瞳、灰色の瞳がまるでこちらを見通しているかのような不思議な雰囲気のあるこの女性はこうしていつも引き留めていくのだ。


「……おいしいクッキーもあるわ?頂き物だけど、砂糖もたっぷりで紅茶によく合うの。」


「……いやぁ、申し訳ないですけど、まだ店に戻って片付けがありますし……それにお姉さまに迷惑をかけるのもちょっと申し訳ないというか……。」


そう言うと、シェリーは驚いた顔でミスティの手を取った。


「あら私達同い年よ?」


「えっ14歳なんですか!?」


「えぇ、そうよ?見えない?」


見えなかった。

自分の小柄な体と、スラリと伸びたシェリーの体格はまるで大人と子供だ。

特にその。


「フフ……大丈夫よ、胸なんてすぐ大きくなるんだから、ね?」


視線で胸に目がいったのがバレたのだろう、だが。


「別に胸なんて!……小さくても、それはそれで可愛いし。」


「やっぱりたくさん食べないと、おやつもね?」


「……はい。」


なんだかうまく乗せられたような気がするが、シェリーの部屋でそのまま紅茶とお菓子を頂いた。


「ねぇ、運命って何だと思う?」


「はい?」


シェリーは突然、そんな質問を投げかけてきた。


「運命って、結構残酷な言葉だと思わない?」


「残酷?」


「だってそうでしょう?自分の選んだことが、自分の意志で選んだはずの事がそんな言葉で片づけられるのよ?」


抽象的すぎる話。


「運命、って言ってもそれがいつも悪い意味でつかわれるわけじゃないでしょう。例えば、そう、大事な友達と出会ったことが運命ならそれは“よかったこと”じゃない、ですか?」


答えになっているのかも、少し自信がない答え。

しかしそれを聞いたシェリーは驚いたような顔をしていた。


「っ!……そうね、そうよね。よかったこと、なのよね。うん。」


少し顔を赤くしたシェリーはカチャカチャと茶器を片付けはじめた。


「あ、御馳走様でした。また明日、パン、持ってきますね?」


「え、えぇ。お願いね。」


少しだけ、様子のおかしいシェリーさんの家を出て、ブルーム工房に変える道すがら、ミスティは色々と思い出しながら、感傷に浸っていた。

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