2:ブルーム工房の少女
中央都センベンテルン。
人間の住む最も大きな国センベンテルンの首都であり、多数の衛星都市から人も、物も集まる経済の中心部。
そのメインストリートにその店はある。
「ブルーム工房のおいしいパンはいかがですか!」
小柄な体。
握れば折れてしまいそうな細腕と、150センチ程度の小さな体は見るもの全てに“可愛い”という印象を抱かせる。
「あ、もう無くなっちゃった……少々お待ちください!」
そう言って少女は店の中へ戻る。
深い緑の瞳はぱっと見で黒く映るが、傍で見ればその美しい緑の反射に目を奪われてしまうだろう。
「ママ!パンの追加お願い!」
「ほんとにもう、ミスティが売るとあっという間ねぇ……。」
恰幅の良いおばさんがそう言ってパンを籠へ移していく。
少女の発した声は活舌がよく、それでいて甘えるような優しい響きの声は聞く者の意識を少女へ向けるだけの力があった。
「フフン!アタシは“世界で一番かわいい女の子”だからね!」
「はいはい、かわいい、かわいい。ほら、パンは入れたからまた出ておいで。」
腰まで伸びた金の髪も、きちんと櫛を通されて美しい陽光をキラキラと反射する。
キチンとした身だしなみは、見るものに良い印象を与える。
「たくさん売ってママに楽させてあげないとだもんね!」
「そんな事気にしなくていいのに、私はミスティが幸せならそれで……。」
――バタン!
「もう、聴かずに出ていくんだから……。」
外では再びミスティがパンを売り始める。
「お待たせしました!ブルーム工房のおいしいパンですよ!」
(人は結局、五感で物事を理解する生き物だから。)
「はい!3つですね!」
(可愛く振舞って、可愛く自分を作って。)
「2つですか?それとも3つ?4つも買っていただけるんですか!?ありがとうございます!」
(そうしていればみんなが私を“可愛い”って褒めるんだ。)
「はい!2つですね!」
(そうだよ。)
「あれ!?もう無くなっちゃった!?ごめんなさい!もうおしまいです!」
(今世のアタシは“世界で一番可愛いアタシ”になるんだ!)
期待していた客たちに“ごめんなさい”と頭を下げて店に戻っていく少女。
ミスティ。
“世界で一番かわいい女の子”を自称する、正真正銘可愛らしい女の子だ。
これはそんな少女の運命を示した物語であり、転生してきた少女という宿命の物語でもある。
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