ナルシストで何が悪い!

カメンノカルメン

プロローグ:中央都センベンテルン

1:運命の分岐点A


人間は古代より未知を探求し続けてきた。

未知を既知へと変えることで根源的な恐怖、未知への恐怖を打ち倒してきたのだ。

そう、言葉とは恐怖へ打ち勝つ武器なのだ。

しかし言葉はいつも、人間のすれ違いを生み、そして人間が持つ特別な“心”という臓器を傷つけてきたのだ。

 

Destiny

Fate

Fortune

Lot

Portion

Doom


例えば、これらの言葉は全て日本では“運命”と呼ばれている。

それはなぜなのか。

運命という言葉に人間はどのような情景を思い浮かべたのか。


運命

宿命

幸運

抽選

定め

吉兆


その情景を、言葉の意味を無理矢理日本語に当てはめ直せばこうなるだろう。

だがもしもこれが他の言語であればまた違う意味へ翻訳されるだろう。

言葉というシステムは常に完璧足りえない。

だから人間は争い、悩み、傷つき合うのだ。



それが夢だというのなら。

どれだけよかっただろうか。


「は、春お姉さま……。」


アルビノの少女は目の前の少女を“春お姉さま”と呼ぶ。

この小さな箱庭で育った小さな白百合は黒百合を欲して声をかける。


「……どうしたの?桜。」


黒い髪を腰まで伸ばした少女。

切れ長の目も、スラリと伸びた足も。

透き通るような声も。

全てが彼女を“美しい人”として飾り立てる。


「……いいえ。まずは教室へ行きましょう。」


白い髪、色素の薄い瞳。

小柄な体も少し垂れた目元も、すこし怯えたような声も。

すべてが彼女を“可愛い人”として飾り立てる。


「……。」


二人は決して言葉を発さず、優しく触れるか触れないかという距離感で歩いていく。

そうしてやってきた教室。

周囲の視線が二人へと向けられている。


「お姉さま。春、お姉さま。」


アルビノの少女は鞄から一輪の薔薇を取り出すと、不安そうに春を見つめていた。


「……なぁに?桜、どうしたの?」


「お姉さま。私と、付き合って、恋人になってください!」


周囲の声なき声が感嘆の叫びをあげる。


「……。」


目を閉じた春がゆっくりとその瞼を開き、一歩前に歩み出る。

軽く抱き寄せるように回された腕が桜の腰を捕らえ、二人の体がそっと触れ合う。

目を閉じた桜の唇に春がその優しい唇を落とすと共に、大きな歓声が上がる。


「――――!」


そうして。


そうして。



「最悪な夢見ちまった……。」


ブルーム・ミスティ。

ブルーム工房に勤める14歳の少女。

それは、この異世界に生まれ落ちてしまった。


「クソッ!なんでまだこんな前世の夢見るんだよ!……クソ!」


異世界転生者イレギュラーだった。

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