5話 夏休み

暑い炎天下の下、砂浜で忙しなくカニが動き回っている。

定期的な波の音がざぷんざぷん鳴り響き、たくさんの人がバカンスを過ごしている。

僕達もその中の1人だ。


学校は夏休みを迎え、涼と一緒に海にやって来た。

見渡す限り綺麗な青色で、パラソルに包まれのびのびと過ごせそうだ。

第1に涼に上手くいったことを報告する為に。

そして単純にせっかくの夏休みを満喫する為だ。

泳げないんだけどね。


「やっぱり人多いね、でも皆楽しそう。」


「雪也は楽しんでる?」


「もちろん!」


手に持っているバニラアイスを口に含み、シャリシャリとした優しい食感を舌で味わう。

アイスが残り1つとなったところで、そばにあるメロンジュースに入れて、自家製クリームメロンソーダを作った。

うん、すごく美味しい!


「そういえば。雪也、おめでとう。」


「?」


何か大切なことを思い出したかのように、涼が目を見開く。

涼の碧い目と海の色の美しさが重なって、キラキラと輝いて見えた。


「傑のことだよ。本人から聞いた。」


「えぇ!?」


もう傑から話をしてくれていたのか。

仕事が早すぎて僕は驚きを隠せなかった。

そして、素直に祝福してくれている涼に感謝を伝える。


「本当にありがとう。涼のおかげで上手くいったから!恋のキューピッドだね。」


心からの笑みを涼に向けると、照れくさそうにしながらぽつりと彼は呟いた。


「恋のキューピッド、か。」


「どうしたの?」


生憎人々の声が大きくて、涼の言葉を聞き取れずに聞き返したが、なんでもないよと上手くかわされた。


「そうだ、俺もクリームソーダ作りたいから、ジュース買ってくる!待ってて。」


涼は早足に逃げるかのように飛び出して行った。

背中が遠くなるまで見届けていたが、どこに紛れてもあの1本1本が見える綺麗な金色の髪が羨ましい。

ぼーっと群衆を目で追ってクリームメロンソーダを飲んでいると、どこからともなく上から声が聞こえてきた。


「ねえ君、1人?」


ここまで来てナンパする人もいるんだなとしみじみ1人で思い耽っていると、ひょいとガタイのいいお兄さん2人組が、僕の目の前に現れた。


「あの、?」


「君だよ君、クリームちゃん!」


クリームちゃん?

僕の髪色が淡いクリーム色だからか、よくわからない呼び方をされる。

屈託のない笑みで白い歯を見せた2人組は、中々立ち去ろうとしない。


え?これもしかして僕がナンパされているの?


「えっと、」


「1人なら俺達と遊ぼうよ。」


何か企んでいるような、悪い顔が見に見える。

絶対ついて行ったら駄目な気がすると本能が叫び、上手く断る理由を探した。

けれどそう都合良く出てくるわけでもなく、1人の腕が伸びてきた。


ーーこわい、どうしよう?


ぎゅっと目を瞑り終わりを悟った時、怒っているような声が聞こえた。


「あの、俺の恋人に勝手に手を出すの辞めてもらえます?」


ぱっと上を向くと、般若のような怖い顔をした涼がジュースを持って立っていた。

今にも手に持っているジュースを男の人達にぶっかけてしまいそうな勢いだ。


「うわあっすみません!ほら行くぞ!」


慌てて走っていく彼らを横目に、涼はどすんとビーチベッドに腰を掛ける。

怖かったので、すごく助かった。


「ありがとう、涼に助けられてばかりだね。」


「ううん、ああいう奴らってガチホモが多いから危なかった。」


ガチホモ…?ガチホコ…?

聞いたことのない単語が出てきてよくわからなかったが、危なかったことには間違いない。


「ごめんな、恋人って言ってしまって。」


隣にいる涼の横顔を盗み見る。

遠くの風景を眺めながら、悲しそうな目をしていた。

なんだかすごく申し訳なくて直視できない。


「ううん、涼とはずっと友達でいたい。僕にとっては大切だから。」


きっとこの言葉で傷つけているんだろうな、とチクッと心が傷んだ。

悲しそうな表情の中、ちょっぴり嬉しそうに微笑んだ涼。


僕達は少しの間、波の音を聞きながらお互い言葉を交わすことは無かった。

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幼なじみの男の子じゃだめですか? 有栖 @arisssu2525

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