3話 急展開
翌日、報告も兼ねて傑に声をかけた。
大切な話があると。
その話というのは、もちろん涼とのことだ。
どんな反応が返ってくるのか楽しみな反面、ちょっと怖い。
「話?いいよ。じゃあ話しながら帰ろう。」
いつもと変わらず至って普通な傑。
そんな傑を目の前にして、まだ僕は自分の気持ちに整理をつけられていなかった。
涼とのことをどうやって話そう。
もし引かれたらどうしよう。
ーー友達ですらいられなくなったら?
夏の暑い日というのに、冷や汗が出てくる。
汗が頬を過ぎって、涙のように伝い落ちていく。
「雪也?どうした、置いてくぞ?」
「すぐ行く!」
急いで荷物を押し込み、恋焦がれて止まない大きい背中を追いかける。
後ろ姿だけでも、こんなにもドキドキするなんて、本当に僕って単純。
並んで通学路を歩くが、会話はままならない。
きっと僕が話を切り出さないからだ。
傑は元来多くを語らない性格で、僕の話を否定することなく頷いて聞いてくれている。
それがなんとも心地よいものなのだ。
チラッと横目で傑を盗み見るが、何を考えているのかわからず、相変わらずの顔の良さだ。
どのタイミングで話すべきか1人で悶々と悩んでいると、傑が先に口を開いた。
「そうだ、話って?」
「えっと…、」
いざ話そうとすると、上手く言葉が出てこない。
しかし、一縷の望みにかけて僕は思い切って打ち明けた。
「僕、涼と付き合うことにしたんだ。」
何を言われるのか怖くて、真正面から目を合わせられない。
今どんな顔をして僕を見ているの?
傑の目には僕がどう映っているのかな。
ぎゅっと目を強く閉じて覚悟をした時、頭上から声が聞こえた。
「来て。」
突然ぐいっと腕を引っ張られ、連れられるがまま早足でついて行くように歩く。
え、何!?
「ちょっと傑待って、どこに…っ」
「黙ってついてきて。」
腕をほどこうにも、握られている力が強すぎてどうしようもできない。
どこに行くのだろう?と何度も予想してみるが、易々と思いつけるほど頭が回らなかった。
僕は思考を放棄して、諦めて傑に身を委ねた。
少し歩くと、一軒の大豪邸の前でようやく足が止まった。
ここって、傑の家だ。
おしゃれな雑誌でよく見る、海外の住宅デザインの、いかにもパリのような家。
広い庭は隅から隅まで手入れが施されていて、小さい頃は沢山の思い出を作った。
春は満開の桜を見て、夏は花火を楽しんで。
秋はどんぐりを拾って、冬は一緒にココアを飲んで…懐かしい。
いや、今は思い出に耽っている場合じゃない。
「あの、傑…どうしてここに?」
「いいから入って。」
有無を言わせないような、ピリついた空気を感じる。
今までにない傑の重苦しい雰囲気が、地雷を踏んでしまったと僕を後悔させるには遅くなかった。
怖い態度が変わらない傑に引っ張られて、部屋へ案内される。
高そうなふかふかのソファに座らされたが、気まずくて感覚を忘れそうになる。
お手伝いさんに運んでもらった紅茶を飲みながら、傑は僕を見据える。
心なしか目つきが鋭く、睨まれているような気がする。
「付き合ったのはいつ?」
「えっと、昨日だよ。」
あんなにも意気込んで望んだことなのに、今ではここから逃げ出したい一心だ。
早く終わってほしいと思いながら、写真立てに目をやる。
「ふぅん、あいつとヤったの?」
「え!?」
そんな言葉が返ってくるとは思わず、驚いて僕は勢いよく立ち上がった。
そのせいでテーブルの上の紅茶がだらだらと溢れ、赤い絨毯を汚していく。
「やっ…るとか、そんな、」
言葉に詰まって声が出せずにいると、じりじりと傑が僕の方に向かってくる。
あんなにも好きでたまらないはずなのに、何故か危機感を覚えて、傑から離れようとした。
しかし走ることが苦手な僕は、すぐに傑の手の内に捕まってしまった。
「俺はあいつよりも大切にしてきたのに。」
「んぅっ!?」
意味がわからないまま、ふにっとした感触を唇の上で感じた。
お互いの唇が触れ合い、隙間から舌が強引にねじ込まれる。
僕達、何してる、の?
「んんんっ!」
口内を蹂躙され続け、5分程経っただろうか。
傑は満足したのか、ようやく解放された。
上手く息を吸えなかった為、自然と肩から呼吸をする。
口周りのよだれを拭きながら、苦し紛れに涙目で訴えた。
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