第八章 黎明編
第164話 カラーチェンジアメジスト
◇◇◇
異能者最高議会。8月24日。
四年前の第二次防衛戦争の際に討伐した
それが本日未明―――何者かによって奪取された。
それは即ち、適合者さえいればこの世に再び別の
「で―――? 皆様方は何が言いたい?」
皮肉な言い方。異能士上層部のお偉いさんが円形に座る中、その真ん中で佇む伏見旬は上への口の利き方とは思えないような口調で尋ねる。
「4年前の知性影人討伐を伏見旬、御主に頼んだのは失策だった」
とある上流権力者がそう述べる。
「俺のせいで『3つの特別紫紺石』が奪われた、って言いたいの? だとしたら筋違いだよね? 3年より前は影人の適切対処、そのノウハウが存在しなかった時期。そんな世の中に一体どんな全能を求めてるわけ?」
「口を慎め。痴れ者が」
「そっちこそ権力持ってるってだけで偉ぶるのは良くなくない? 異能者階級“特級”の俺らが常にあんたらの味方をしてるとは限らねぇんだぞ」
「貴様というやつは……」
左の年寄り、
今度は別の者が口を開いた。
「オリジン軍へのスパイとして潜入工作してるのは特級異能者がほとんどなのだぞ。それはそれ相応の任務があるからだ。しかし伏見旬、御主のせいで名瀬統也というキラーカードをこちらは手放さざるを得なくなった。今がどれだけ危険な状況か理解しているのか?」
ははは、と旬は笑う。
「分かんない? 統也も茜もヴィオラも、他の特級異能者もそうだ。皆あんたらに従うのはこちら側に俺がいるからだ」
否定なしっと。都合が悪くなるとだんまりか。呆れる旬は溜め息を我慢する。
「大体にしてさ、保管してた知性影人の特別紫紺石―――その3つを隠匿しきれなかったせいで今こうなってるわけでしょ? それを今更、破壊できるのは九神だけでしたって事実に関する無知のせいにしないでほしいんだよねぇ」
「伏見旬、御主も討伐した知性影人の特別紫紺石、その保管を手伝えば状況は違ったのでは?」
「名瀬家の統也じゃないんだからそんなのは無理だって。それに、保管場所ないし不可視結界を看破した相手は特級レベルなんでしょ? どっちにしろあんまり意味なかったと思うよ」
今回このタイミングで特別紫紺石が奪われたのは運が悪すぎる。
相手は狙ってやってんのか。気色悪いが結構狡猾だ。
流石に茜を通して統也へ知らせた方がいいか。
と、旬は思考を巡らせる。
特別紫紺石とは知性影人――IWでCSSなどと呼称されている異能を使用する影人が持つ核のこと。
現代科学ではそれを人間が食えば、影人化の力を得ることが出来ると言われている。
ただし、誰でも影人に成れるという訳じゃない。
異能者以外、そして一定の素質を持っていなければいけない。
「しかも、今はどうしようもないほどに人材不足決め込んでる最中でしょ? 名瀬の王『統也』、二条の魔女『紅葉』、ホワイトのモルフォ『セシリア』とか。最高クラスの異能士はそのほとんどが不在。……どうすんの、まじで。俺もそんなに暇じゃないんだよ。統也が任務終わるまで待てるわけないよね? そもそも任務完了出来るかさえ分かんないのにぃ」
楽しそうに語った旬から察した上層部の1人が口を開く。
「伏見旬め、貴様初めからこうなると分かって名瀬統也を……! 彼に解決させるためにか!?」
「えっ、なんの事?」
旬はニヤケながらあからさまに惚ける。
「舐めた態度が過ぎると、こちらも然るべき報いを受けさせるぞ!」
「うわ、怖っ。―――でも誤解すんなよ? あんたらが本気で対抗したって、俺には敵わない。統也にも勝てない」
それを聞き、ため息をつく権力者たち。
「……事実なことが厄運よな。伏見旬と故人エミリア・ホワイト、両名共に世界の勢力均衡を変更させたほどの例外的異能者。世界転覆など目じゃないのだろうな。特に伏見旬、御主は」
死んだアイツのこと思い出させんなよ、と旬は静かに思った。
「そ。要は敵に回す相手を間違えんなって話。4年前の雷電迫害みたいに大勢死ぬぞ」
語る旬自身もそれは避けたかった。
「ならばディアナ・ホワイトの起源暴走の件はどうケリをつける?」
「現在はホワイト一族の聖封印を利用してなんとか押さえ込んでる状態。あまり刺激すると厄介なんでほぼコールドスリープ状態にしてる。以前杏子が俺にやったみたいに時空凍結とか使える技術者探してんだけど、そっちは見込み無し。――ってなわけでいったんは棚上げ」
「起源を有する十二人、いや今は九人か……のうち三人を御主一人に任せたのは失敗だったかもしれんな」
不平を漏らす権力者の一人。一言に何人出てくんだよ、と旬は思う。
権力者が言う「三人」とはディアナ・ホワイト、雷電凛、名瀬統也のこと。
「そんなに彼女らを処分したいなら、好きにすればいいじゃん。ただしその場合―――俺は三人の味方に付く。それを分かってんだろうな?」
旬は不快感を隠す気もなく言い捨てた。
その後、ポケットにしまっていた黒い布マスクを付けつつその薄暗い議会室から離脱した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます