第161話 もう一人の特級異能者
「でもよく気が付いたものね。私が和葉の姉だなんて」
「オレに『イイ男』などと言う人は大変珍しいですから。血は争えないという事ですかね」
「ははっ! 中々面白い男だな」
そう陽気に語るがオレは少しも面白くない。
少し系統は違うがオリジン軍の軍服も大体はこんな装い、と思いながら近寄ってくる紅葉を見る。綺麗にその隊服を着こなす。
身長は170cm強くらい。女性にしては結構高いな。
どことは言わないが部分的に豊満ながらも痩せているボディと、クリーム色のセンター分けロング髪が胸まで……おそらく凛より短く里緒より長い。
「それで、影人調査部隊の大隊長様がオレに何の用です?」
「ごめんごめん、単なる興味だ。気を悪くしたなら申し訳ない」
大隊長様と皮肉ったせいか、謝らせてしまった。
「……でも君、この中で一番強いんだろ?」
少し神妙な笑みを浮かべ尋ねてくる。
「はい……? 和葉先生から何か聞いたんですか?」
「いやいや、違う違う。ただの私の勘だ」
「勘?」
そんな馬鹿な。
「確かに名瀬統也って人のことは初めから妹より聞き及んでいた。でも君がそうだとは知らなかったよ?」
「では、どうしてオレだと?」
「私がこの場でスピーチをしたとき、ステージの台へ上がったね? その時だ。その時すぐに分かったよ。君が一番強いってね。ああ、この人が名瀬統也か、と」
嘘か誠か目が合ったあの時に気付かれたと。
「強さという言葉をどう解釈しているかによって一番は変わるのでは?」
「あーもう、そういう難しい御託はいい。……でも不思議なことに……私、別にこういう勘が優れてるわけでもない。けど何故か君は手強いって分かった。まるで運命のように」
陽気な口調にミステリアスな笑み。不思議だろ?という顔を向けられる。
「結局何が言いたいんです? 自分は消耗して疲れているのでもう帰宅したいんですが、戦場事務報告なら済ませましたし」
「まぁそう急ぐな青年。今から私と、楽しく話そうじゃないか」
さすがにいつか所属する隊の長に逆らう気にはなれなかった。
*
オレと紅葉は並んでテントに入っていく。
「えっ……紅葉隊長……この少年は……」
防音呪詛が付与されたグリーン迷彩のテント、その入り口付近、オレを見つつ焦り気味で声をかけてくる小隊員。
「ま、気にするな。私の婿ってところさ」
「え゛」
冗談のつもりだろうが何も可笑しくない。現に隊員の一人がショックを受けたような顔をしている。
大きめのテントの入り口をめくり、中に入るとそこは遺体の仮設安置所のような場所だった。
「すまないね、人払いするのも面倒で。まぁここならあまり人も寄り付かない」
オレは黙って浄眼を使い、刀果、リアを探した。
何故だろうと。そう思いながら。
冷めた言い方をすれば、彼女らが真にオレの仲間だった訳でも、オレにとって言うほど大切だった訳でもなかった。
それでも、オレはこの
そうして台の上に並ぶ、顔隠しを受ける遺体の中、彼女らのマナを見つける。
横たわる刀果の遺体の前で歩むのを止める。自分が今どんな顔をしているのか分からないが、オレは彼女を見る。
「君の馴染みかい?」
「ええ、そうです」
「君……本当は彼女らの死に悲憤していないね。……悲しんでない。むしろ納得がいっていないと顔が告げている」
「そうでしょうか」
「ああ……私でよければ話聞こうか?」
何故か分からないが、オレは今とにかく愚痴りたい気分だった。彼女はそれに気が付いたのだろうか。
オレは何のストレスも掛けないまま感情に任せて口を開く。自重精神は皆無だった。
「ここにある遺体……刀果は疑いようもない善人でした。オレみたいな人間にも優しく接してくれた。リアもそうです。オレが嘘つきだと知っても、態度を変えることはなかった。……そんな報われるべき人間が昨日、確かに命を落としました。オレには分からないんです。何故彼女らが死ななければいけなかったのか」
「それは理屈の話ではなく、どうして彼女らが死んだか、という命運的な話かな?」
「ええ。……オレには分かりません。彼女らが死んでいい理由も、オレが彼女らを助けられなかった理由も」
すると「んー」少し考えこんだのち。
「どうしてだろ。君自身がこの上なく強いからなのかな? 君は自分だけでなんでも出来ると思い込む癖がある―――そういう風に見える」
彼女は言いながら近くのパイプ椅子に腰を下ろす。
「かもしれません」
「けど、強い人間はあくまで強いだけ。万能な訳じゃない。要は君、強過ぎるんじゃないかな? 他人が理解出来るような常識的な認識も曖昧になるほど、君自身の基準が高くなってしまっている。それは君が殆どの人間を下せてしまうほどに強いからだ。強いのは決して悪いことじゃないさ。でもだからといって、君が全世界の人を救えるわけじゃない。どうしたって優先順位は生まれてしまう。……そうよね?」
「ええ、まあ。言いたいことは分かります」
「だから。今君に必要なのは、誰かを守ろうとすることじゃない。誰かをより強くしてあげること、なんじゃないの?」
ああ、そうだな。そうかもしれない。
「その考えは……無かった。自分が全てをやろうと、そう思っていました」
この紅葉とかいう女性。妹とは大きな溝があるほどに人間が出来ている。異能士としても。人生の先輩としても。
戦闘面も。間合いの取り方が適切。この際に至ってもオレが攻撃する可能性を捨てていない距離感。これも評価が高い。
バレないように浄眼で彼女を見る。マナの特質を確認する。
二条家の異能『
それは――――「空間制御方式」であるということ。
重力mg自体を操作するのと、その要素・重力加速度gを操作するのは全く別の行為。
空間制御方式は言わずもがな「空間」の一定規律を操作可能な高等能力。空間という三次元へ干渉する。
御三家名瀬であるオレや杏姉が使う異能『檻』も紛れもなくその一種。
しかも飄々としていて陽気、この様な態度ながらとても思考がしっかりしている。ただセクシーなお姉さんというわけではなさそうだ。
そもそも相当に実力を有していなければこの性格で大隊長として支持を得ることは不可能。
正直得体の知れない女性だと感じざるを得なかった。
この後「君のような逸材は珍しいから、必ず
言われなくても、という意味のことを丁寧語で述べておいた。
*
その数日後のことだった――――。
我が国、北日本国に「名瀬杏子」「三宮拓真」に次ぐS級異能士が爆誕したのは。
最強たちと名を連ねたその存在は「空間の歪み」――「時空の曲率」を操作する様式から「
他が認めるセクシーさ。名瀬杏子に並ぶ異能規模から。
物理学における歪む原理を持つその女性のシンボルフレーズは『異能も胸囲も高破壊力』。
名は――――二条紅葉。
2021年8月22日午前×時×分。二条紅葉、S級異能士として認定――――。
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