第156話 『Imaginary electric charge』
「
告げた瞬間赤い電光を魅せ、距離を詰めてくる
またしても信じられない事象が。今、目の前で起こる。
ルビア……ってことは「赤鬼」の能力者!? どうやって!?
しかも第二霹靂? 仮想電源の第二電荷放出まで会得している!?
と焦りながら考える隙にも軍服の女性は勢いを止めない。
その全身に溢れんばかりの
もう………なんなのよ!!
そっちが赤鬼なら私は―――
「
―――青鬼!!
全く同じ、されど対を成す秘技「鬼人化」を発動し、相手の俊敏を超えた異次元の速度に対応する。
私と相手は電気同士で衝突し拮抗した末、雷電神社の壁を激しく突き破り、雨の降る闇夜へと身を投じる。青と赤の迅雷のままに。
傍から見れば水平に移動する超速の雷が二つ。青と赤にしてそれぞれが零コンマ数秒間に一回激突する。そんなシーンに見えるだろう。
こんなことなら、避雷針ヒールの靴を履いてくればよかった!!
私の刀とレイピアが衝突した際互いで打った電力が大きい影響もあり、同程度反対方向に飛ばされる。
「“あなた……何者なの!? 正直なことを言うと私以上の『雷』使い……実力もその辺の一級より遥かに上…………あなた誰?”」
「“さあ……”」
改めて相手の様子を見ると正確にその外観を掴めた。
軍服の上に放電する猛々しい赤い電流。額に生える二本の艶めかしい赤い角に、犬歯の牙。「第二霹靂」なこともありネコ科の如く縦長の瞳孔になっている。
かくいう私にも角が生えているけれど、額の中心に一本。少し湾曲した青い角が
「“二本の角……見たことないわね。しかも、随分と鬼人化を使いこなせている。反動もなくその性能を十分に発揮できているところを見るに、固有電子の放出とマナコントロールが相当器用なのね”」
感情起伏抑制、怒り憎しみに囚われない精神力など、暴走しないように旬さんの元で訓練し慣れている私はともかく、彼女も「鬼人化」が上手いのか未だにSE「雷電白化」の兆候が見られない。髪が黒いまま。
禁術・鬼人化のトリガーは仮想電源による電荷定格放出と、 悲怒による感情起爆。
戦いに向かう雷電へモチベの上がる応援の言葉をかけてはいけない理由がこれ。
頑張ろうと足掻こうとして感情を暴走させてしまい、結果「鬼」と化してしまうから。そうなれば待っているのは死刑。
「“あなた……感情の制御も並みじゃないわね……”」
本来なら鬼としての“本能”に囚われ、感情が暴走する。その一歩手前として髪が白くなる異能副作用がある。私の髪先が白いのはそういう理由。
私に限らず普通の雷電でも、こんな平然としていられるなんてあり得ない……。
電荷の放出も私のように異能演算能力が高い存在じゃないと、不可能な作業……。
いいえ、そもそも私は「一級異能者」。この世界における異能者としての“強さ”では紛う事なき上位。
その私をここまで圧倒できること自体普通じゃない……。
この女―――明らかに異常……!!
「“貴女がそう思うのならそうなんじゃない?”」
嫉妬するほど美人で、いや――正確にはそう見えてしまうくらい綺麗でスタイルがいいその女性は切れ長の目をこちらに向けてくる。
落ち着いているクールな目付き。微動だにしない表情。まさに冷静沈着そのもの。
「“それはどういうこと?”」
「“別に。深い意味はないけど”」
その謎多き女性は言いながら、どういうわけか鬼人化形態を解除し、普通形態に戻る。たちまち角も牙を消失する。
ここにきて、体内電荷を温存する気……? それとも仮想電源の消費ロス削減?
別の攻撃術式に意識を集中させるため?
さらに戦闘意志はないと表明するように
「“許可無しにここへの侵入は死罪よ。あなた、それを分かっているの?”」
問いかけると、
「許可なら取った。だから攻撃を止めてくれると有難いのだけど」
「“信じられない。その証拠もないのに死罪である罰を帳消しにしろと? そんな方便、信じられるわけないでしょう?”」
「信じてもらわないと困る。私は貴女との対立を望まない」
駄目ね。この人、弱らせてからじゃないと本当のことを話さない気がする。
どうして雷電一族が生きているのか。それを問いただす必要もあるわ。
どうせ鬼人化を解いた今のあなたは私の電光石火についてこられない!!
私は前触れなしに超速接近、青き迅雷として間合いを詰める。
「“せぇぇぇい!!”」
ジャンプした上から青霊刀「神罰」を力の限り切り下ろす。もちろん帯電させ威力を高めてある。
しかし―――何故か相手は防御態勢を取らない。防御する姿勢の片鱗さえ見せず、ただ黙ってじっとしている。
そして攻撃されている状況など事も無げにゆっくりと目を瞑る。赤い瞳を閉じる。
神速が基準の世界。振り落ちる雨が空中に留まるような減速感覚の中。
彼女の軍帽に「神罰」の刃が触れるか触れないかの寸前―――――。
その軍服女性は右手を
「虚数術式・
瞬間、
触れる寸前だった「神罰」の刃先から伝わる猛烈な反発力。刃が向かう方向とは逆転した方向へ凄まじい反転力。赤い電気の強力な斥力により弾かれた。
バチィィィィィ――――――――――――!!!
常識外れなほどに強く乖離され、後ろに後退させられる。
「“私…………今、何を受けた!?”」
虚数術式……? 虚域の異能起動式? そんな馬鹿な。高度過ぎる術式技術で、異能演算ないし処理能力が高い私でも到達していない能力域なのに――。
そう狼狽えていると、
「もういいでしょ。私、貴女と殺し合いをしに来たわけじゃないの。可能なら穏便に済ませたいのだけれど」
「“どういうこと? あなた……何しにここへ来たの? 一体何を知っているの?”」
彼女は何を思ったか私と同じくらいの長さの黒髪を後ろへ払うと、ため息を吐く。
「ふぅ………。貴女、統也を振ったんでしょ? なら、貴女こそ何しにここへ来ているの?」
「“どっ、どうしてそれを!”」
唐突に出された「統也」という言葉を聞いた時から私の心臓が爆速で稼働し始める。
そもそもどうしてこの状況で、統也の名前が出るの?
彼女……統也の知り合い?
「振ったなら統也が嫌いってこと? 少なくとも好きではないのでしょう?」
「“そんなことは……!! ただ、関係を壊したくない人が居たから……素直に喜べなかっただけよ!”」
「ふーん、本当はまだ好きってこと?」
「“……あなた、さっきから何が言いたいの? 私に何を言わせたいの?”」
「私は彼が好き。この世の誰よりも。きっと一生。……誤魔化す必要もないし言わせてもらった」
その場の雰囲気に合わない、まるでヤンデレのような発言を無表情で告げてきた。
「それと彼、貴女に拒絶されて多少なりともショックを受けていたけど」
「“待って…………どういうこと!? あなた本当に何者なの!!”」
どうしよう。今知ることが不可能な彼の事情を知っているあなたが憎い。
嫉妬で狂いそうなほど。
私だって好んで彼の告白を断ったわけじゃない。
ディアナと私と彼の三人で過ごした時間は宝物だった。私にとってかけがえのない大切な時間だった。
みんな幼少から仲良く旬さんの指導を受ける弟子であり、幼馴染であり、家族だった。
多分、ディアナは恋愛とかそういう難しい思想は持っていないと思う。けど、私が統也と付き合えば、必然的にディアナは私達二人と隔絶した状態になる。それは避けられない。
それが物凄く怖かった。
賢く、頭の切れる統也がそれに気づかなかったはずはないけど、それでも「私を恋人にする」という道を選んでくれたことは本当に嬉しかった。心の底から幸せな気持ちになれた。
でも……! ディアナも同じくらい大切なの!!
二人とも大好き。この世の中で一番大切。
世界なんかよりも二人を愛している。
どっちかなんて選べない。
―――「あたしと凛がいれば敵なしだねっ! 凛が異能『雷』、あたしが『光』……併せて『雷光』! かっこいいでしょ!」
そんなかつてのディアナが言ったセリフを幻のように聞く。
「“私は、あなたのような得体の知れない存在には屈しないわ!”」
「そう……言っても分かんないのね。ならほんの少し痛みを」
雷電の女性はミステリアスな雰囲気で真紅き目を逸らす。
「許してね、統也……」
そう呟きながら。
「“くっ!!”」
この人、謎が多すぎる上、赤い電気を扱う不可思議な存在。
もしかしたら私たちの敵かもしれない。
ここで―――必ず仕留める!!
「“第一月夜術式・臨界発動――――”」
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