第155話 『Counterattack by Rubia』

「あれ……? 鍵が開いている!?」


 私は動転しながらも扉をゆっくりと開ける。


『はあ? 本来は雷電一族特有のマナ電子を流し込んではじめて開けれる特殊扉じゃねーのか?』 

「ええそう。そして四年前からの雷電一族の生き残りは私しかいない。私の他に開けれる雷電ひとが居るわけがない」

『いや……それは―――』


 嫌な予感を感じ取り、雪子が何か言いかけたけど私は急いで通信を切ってオフにする。

 私以外の雷電一族が居るはずはない。あり得ない。あの迫害事変で生き残っているのは紛れもなく「私だけ」。


 そっと息を殺し、内部へ侵入する。

 吹き抜けへと上がり索敵していく。右クリア……左クリア。

 

 それにしてもどういうこと? 神社兼聖堂であるこの場に鍵をかけていないはずもない。

 ……なのにどうして? 誰かが入り込んだ? あり得ない……。

 

 吹き抜け二階から一階の周辺を観察していく。

 面倒ね……。


 私はその場で両目にマナを送り込む。

 雷電一族という事情上初めから「赤い瞳」だけど、丁度今その瞳にひし形の枠模様が生じているはず。

 雷電でも500年に一度発症するかどうかの貴重な才能。磁場や電気の流れを読み取れる特異的な眼「雷鳴眼ルギアサイト」。


 それで一つ奥の部屋、広間の向こうに怪しいを見つける。

 人間も生体磁気という微弱な磁力を持つ関係により、この雷鳴眼で視認できる。壁を越えてその存在をある程度なら視認できる。


 雷電一族しか通過できない特有結界を潜り抜け、この「蒼社」の特殊扉まで開けた? そして内部に入り込んだ? 

 ……再三言うけどあり得ない。

 しかもダークテリトリーへの無許可侵入。

 普通ならどれも死罪に値する禁忌。

 

 奥の部屋に静かに移り、吹き抜けの上からその人物を観察する。

 何やら探し物をしている様子。

 奇遇ね。私と同じことをしに来たの?

 

 後ろから確認できる、腰までの長い黒髪や大まかな容姿体格から、どうやら女性のようで―――。


「っ―――」


 待って? あれは軍服!?

 しかも、肩にある標……統也が所属するオリジン軍の標章エンブレムと同じ紋章。


 彼女、一体何者!?


「…………」


 私は息を殺して吹き抜けから飛び降りる。その女性に向かって青霊刀「神罰」を抜き、切りかかる。



 先手必勝。背後……貰った!!



 相手の女性が私の刀による斬撃の餌食になる瞬間。





 バチバチバチッ―――――――!!!






 え――――――――――――?





 赤――――――――――――?





 目の前は真っ赤だったけれど私の脳内は真っ白になる。

 青霊刀「神罰」の青い刃は彼女の体を斬るどころか、相手の細剣レイピアによって防がれていた。


 相手は瞬時に私の気配を察知したか、振り向き私の攻撃を防御していたのだ。

 そしてそのレイピアには信じられないモノが流れていた。



「赤い電気――――!? どういうこと!?」



 否応でも瞠目してしまう。

 明らかに赤色に帯電するレイピアの刃。鋭くも赤々と光る電気の流れ。発動に前触れがない……つまりどう見ても“異能”による発電現象。


 迅速な対応、私もオリジン模造青霊刀「神罰」の持ち手についているトリガーを引く。オリジン武装――仮想演算機構をインプットしている携行兵器。

 身体から吸われた魔素マギオン――マナで私の『月夜ツクヨ術式』を強制稼働。青い電撃を発生させ、その威力に対抗する。


 相手の女性が振り向き、もう一つ分かったことがある。


「しかもあなた―――瞳が赤い!? まさか雷電一族!?」 


 それにその顔……どういうこと……!??


 一気に後ろへ距離を取る私の頭は混乱に混乱を重ね、支離滅裂、ぐちゃぐちゃになっていた。

 しかし今に至っても相手[瓜の切口の反対]は一言も喋らない。

 赤を放電させるレイピアで刺突してくるだけ。その表情に冷徹を浮かべるだけ。

 

「―――」


 それを青霊刀で防ぎ、すぐさま反撃の一手。


「は……ッ!!」


 レイピアは刺突専用武器のため避けれればカウンターを取れる。また尺が長いため近接戦の細かな動きには向かない!

 しかし、その一般的な概念は無視するかのような素早い剣さばきで相手女性はそれにも対応してくる。


「くッ! なんて剣の速さなの!!」


 反射と予備動作、予測行動が常人のそれじゃない! 

 しかもこの人、まるで表情が揺るがない……機械みたいに……!


「はぁぁぁぁぁ!」


 速い切り替えしで刀を横に振るも相手はレイピアで軽く受け流し、鋭く尖った攻撃をしてくる。

 まさに赤く煌めく電気と閃光を魅せてくる。


 この女性……動きが尋常じゃない。速すぎる――!


 明滅する青と赤の電撃を、刀と細剣レイピアにより衝突させ合う。その度に剣と刀とは思えない重厚な音が広がる。

 激しく電気エネルギーが散る中、相手は一切怯む様子がない。


 駄目……このままだと私が先にバテる!!


 月夜ツクヨ術式―――――



「『雷刃ライジン』!!」


 暗闇の中。そのまま一直線、刀に流れる電撃に乗るイメージで彼女に切りかかる。

 私の「青電」によりコーティングした電気の刃。電気の空気推進で剪断力を高めた刃。

 青き電気の一閃攻撃。


 彼女にその攻撃が当たる直前―――


 相手の女性は軍服をなびかせ、静かに口を開く。

 それだけの動作で、彼女は物凄い気迫を押し返してくる。静穏ながら鋭い「赤」――


 相手は言う。



「天照術式―――――『雷刃ライジン』」



 それは一瞬のこと。私の青い一撃と彼女の赤い一撃が凄まじい電気散乱と共にぶつかり合う。

 

「どっ……どうして!?」


 もう私の脳は吹き飛びそうだった。理解できないことの連続。

 眼前で繰り広げられる刀とレイピアの衝撃。青と赤の放電のクラッシュ。

 でも、どうしてかそこにある出来事が全部が夢のよう。フワフワしていた。

 雷電一族の奥義の一つ「雷刃ライジン」をどうしてこの女は当然の如く知っているの?


 もう認めるしかない。

 この女性はどう考えても雷電一族。間違いない。


 そこまで考えていた時、互いの衝突、電気エネルギーの飽和に耐えられなくなった空間が限界を超え、爆散状態に変容する。


「きゃぁっ!!」


 吹き飛ぶ私。


 一応戦闘服で来たものの、ここまでの戦闘になるとは想定しておらず「避雷針ヒール」の靴を持ってきていない。

 避雷針ヒールとは雷電家が開発した利便道具で、体に溜まりすぎた電荷、電圧を地面へ下ろし、電位差を緩和する靴のヒール。それが無いと異常に溜まった静電気で自らを焼いてしまう。

 普通はハイヒールで、その長い踵の芯の部位に避雷針として取り付けてある。


 だから―――――――――って待って? 相手の「ハイヒール」……嘘でしょ。


 そんな風に、靴だけで私の脳内へ追い打ちをかけてくる。


 ――のに、彼女はさらに私へ追い打ちをかけた。

 


紅鬼化ルビア・第二霹靂―――――『鳴神』」



 そう呟いて。


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