第142話 “異変”


  *(刀果)



 いよいよ作戦が始まった。


「影人……」


 目の前の木々の闇から光る赤い瞳を煌かせ、こちらへ向かってくる奴ら。

 やっぱりどこかGに似ている。


「皆さん、戦闘態勢を!!」


 別荘からは200メートルほど離れていた位置。私とリアは多くの生徒を連れて布陣を作成。

 リーダーが私で、副リーダーがハン・リアとして先導している状況。


 だけど……なんだろ。何かおかしい。思ったよりも数が少ない……? 

 十数体しかいない?

 いいえ……もっと根本的な事かもしれない。


 ただこの違和感が何なのか、今の私には理解できなかった。


「よし、やるぞ!」

「影人に私たちの異能を見せつけてやりましょう」

「ああ、ぶちのめすぞ!」


 後ろで控えている部隊編成を受けた生徒たち。思っていたよりもやる気がみなぎり、怖気づいているようには見えなかった。

 むしろ緊急事態のこの状況を楽しんでいるようにさえ見えた。


 そうだ。きっと私はビビりすぎなんだ。


「ええ、私たち人類の方が強いってところを見せましょうよっ!」


 自分を鼓舞するよう言い聞かせつつ、影人に向かっていく。リアをはじめとする隊員もそれに続き、一斉に影人へ向かっていく。


「戦闘開始っ!!」


 万紅の刃を迅速に抜き、前へ構える。



  *

   


「思ったよりも上手くいっていますねっ!」


 目の前に構える男性の形をした黒い怪物。刀を用い、素早い動きで心臓部を切りつける。

 血が噴き出て――紫紺石が落下。


「同意」


 皆、影人と戦闘していたが正直あまり手ごたえがなかった。

 攻撃的というより防衛的で、あまり好戦的に襲ってくる様子がなく、かなり一方的に影人を倒せてしまう。そんな状態がしばらく続いた。


「なんだよ、影人っつても大したことないな。数も思ったより少なくないか?」

「そうだよね。でも怪我人出てないのは幸いかもしれないよ?」


 会話を繰り広げる彼らも私と同感らしく、何か違和感が拭えない。モヤッとする。


「リア、このままここの防衛線は保てるでしょうか?」

「同意。けど……何かおかしい」

「ええ、同じ意見です。なんとなくおかしい気がします」


「以前、統也……倒した影人より、動き遅いです」

「そうなんですか? 昼に動けることは他言無用と翠蘭に説明を受けましたが、いまいちピンときませんしね。なぜ影人の新しい生態を隠すのか……。しかも現在交戦中の影人はその時の影人より動きが遅い……どういうことなんでしょう?」


「……分からないです。けど、少し後退した方がいいかもです。嫌な予感するです」

「分かりました。そうしましょうっ」


 『東部隊』に所属してくれている皆には少し後退するとの指示を出す。


「まだ影人がいるようですから、それだけ片付けちゃいましょうか!」


 前方の暗闇に三体の影人が見えたので、リアにそう言いかけ、戦闘体勢を取る。


「同意」


 彼女は私とスイッチしたのち、高密度の空気カッターをまるで「かまいたち」のように影人の胴体に投げつける。

 胴体に接触直後、多数のスライスを受け、鮮血と共に影人の心臓部にあるコアが破壊される。


 後ろ二体の影人もリア目掛けて攻撃してくるので私は「千斬流・千撃」という剣技でリアのスライスと似たような斬撃を二体にまとめてお見舞いする。

 直後同時に紫紺石が落下するというもはや作業。


「意外と戦えてますねっ!」

「………同意」


 しかしそう言うリアの表情は暗かった。

 いつもは表情筋が死んでいるのではないかと思うくらい、不動の表情を見せるけど。

 今はやはり何か強い違和感を感じているようで、かなり不安そうな面持ちに見えた。


「やはり、ですよね。影人の大群に穴を開けれたと言えば開けれたのかもしれませんが……何か不穏ゆえ……」


 本来ならこれで任務完了。ここへみんなを呼び、この大群の穴から脱出する算段。私達「東部隊」の東側から脱出可能なようにも思えるけど……。


「けど、もういいです。一応任務完了したです。連絡係にこの情報を伝えてもらうです」



 リアがそう言った時―――――


 

 こちらへ歩いてくるリアの背後に信じられないモノが見えた。

 黒い肌に、赤い瞳。物凄い筋肉の男性型。後ろで結っている長めの髪。



「―――君らさぁ、影人を舐めすぎじゃない? これってただの冒涜だと思うんだよねぇ」


 私はを視認した瞬間、猛速で近寄り、切りかかる。それは言葉で説明できない危機感のようなもの。

 今、そうしなければ手遅れになるという本能的な呟き。


「せいっ―――!!」


 しかしソレは私の高速斬撃をかわしつつ話しかけてきた。


「えっ――? いやいや君さぁ、僕の話聞いてた? さっき冒涜の話したばっかりだよねぇ? どんな腐った脳みそしてるわけ? えぇ? そのでっけえ乳に脳の養分が吸われてんのかぁ?」


 リアも振り返りつつ素早い動作で後退し、戦闘体勢を整える。

 彼女の手には空気の流体が勢いよく巻き、まさに殺気を漏らしていた。


「なになに……どういうことなんですっ!?」


 私はとにかく混乱した。錯乱した。もう意味不明で。何もかも理解できなかった。


「これは―――」


 隣のリアも珍しく瞠目し愕然とする。私はその姿を横目に確認した。

 再び前を見ながら誰に言うでもなく口を開いた。




「影人が――――喋っている!?」




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