第141話 刀果、淡い恋心につき
「トップ10名を集めて、それでどうするつもりなんですか?」
諦めたような顔で尋ねてくる鈴音さん。
「戦いますわ」
だって。アタシは諦めたくないんですもの。
アタシは
こんなお嬢様言葉だって、演技し続けて今はもう慣れた。「わたくし」という自分を偽り「お嬢様」を演じ続けられた。
「―――無理ですよ」
首を振る鈴音さん。
「あの紫の光は影人を発生させた特殊な雷。その数だけ影人が発生したと考えてください。……もう誰にもあの大量の影人を止められません。もう誰にも……」
「どうしてそう簡単に諦めらられるのですの? 私は諦めたくないですわ。まだ生きていたいですもの」
「無理なものは無理です。それが出来る生徒がいるとしたら、おそらく『彼』だけです。でも『彼』はこの円山の外に居ます」
「……その『彼』が誰だか知りませんが、わたくしはやります。諦めたくありませんから。ここで影人に殺され、自由を奪われ、何もかも……人生さえも失うというなら……アタシはやりますわ」
陰りある鈴音さんの表情を見ながら、強く決意表明をしたのち、灰色の後ろ髪を払いつつ仲のいい友人にそれぞれ異能決闘トップ10名をここへ集めるよう指示する。
―――諦めたくない。
―――死にたくない。
―――生きたい。
―――生きていたい。
だから―――戦う。
ずっと。家に帰ったらあの仲いい姉妹でいたいから。
―――「舞は功刀一族の欠陥品なのよ。私の面汚し。これ以上母親である私を困らせないでほしいわ」
母はこう言った。
功刀家は失敗作の舞に早く死んでほしいのか、寿命を長くする手術費さえも出してくれない。
異能を使えないってだけで、なぜこうも差別を受けるの?
母の
アタシはそれを止めるので精一杯なのに。
功刀一族の子は「舞~」という風に、秘技「反重力操作」で体を浮かせ空を舞う様子から「舞」が付けられ、その後娘・息子に何か一文字を加え『名前』とする。
アタシでは「舞花」、母では「舞彩」というように。
でも異能の失敗作と言われ、虐げられる妹の「舞」にはそれがない。ただの舞。
だから、私は舞という字に舞を重ねて「舞舞(まいまい)」と呼んでいる。
アタシにとって彼女はたった一人の双子の妹「
十年前。
「ねえねえ、アタシね、舞の新しい名前考えて来たよー!」
「えー何々? うちの名前? 知りた~い」
「舞に舞を重ねて、
「んー、それいいねー、可愛いかも~」
「でしょ!」
そんな風に無邪気に笑って言ったのをよく覚えている。
以後彼女をそう呼ぶようになった。
その
同じ誕生日に同じ腹から生まれた双子なのだから。
お願いどうか無事でいて。
厄災でもあり、最強の武器でもある自分の「
「これから先、ここに居るみんなには影人と戦闘してもらいますわ。アタシたちが生き延びるために。命がけで戦ってもらいますわ!」
隣で脱力する鈴音さんに力強く意志を示すと、
彼女は。鈴音さんは言った。
「……協力はします。最善も尽くします。命がけで戦ってみせます。でも……今日、おそらく大勢が死ぬでしょう。数え切れないほどの生徒が死んでいくでしょう。これから始まるのは……ただの……悪夢です」
*(刀果)
20時13分。
「―――以上が作戦ですわ。理解できたという者から陣形を組んでもらいます」
わたくしとハン・リア。他の皆の前でそう語ったのは異能決闘第二位の功刀舞花さん。
数分前に会った統也さんの異界術部で同級生・舞さんのお姉さんでもあるとその時知らされて驚いた。
「リア……いきなり数百の影人がいるって、一体どういうことなんでしょうか……?」
まだその状況を飲み込めずにいた。
紫の大量発光と何か密接な関係があるのでしょうか。
影人のコアを破壊した際に発生する紫の火花に少し似ているような……。
紫紺石の色も、アメジストのような深い紫色ゆえ。
「同意。けど、やるしかないです」
「それは分かってるんですけど、電波も通じないし、統也さんとも連絡できませんゆえ不安で」
「同意。けど統也、必ず助けに来る。信じて作戦するです」
「うん……影人は苦手ですが……やるしかありませんね」
「同意」
―――「作戦は簡単に言えば防衛線を張ることですわ。アタシと鈴音さんが共同して作戦を勘案しました」
数分前、舞花さんが語った作戦内容。
「周囲半径300メートル先は既に影人の大群に囲まれており、電波状況から助けも来る様子がないとの話。なので、影人の大群がいる200メートル近辺でそれぞれ防衛線を張り、一か所大群に穴を開け次第、そこからみんなで脱出するという作戦に決定しましたわ」
流石に異能士学生だけで数百も討伐できるわけもなく、そう言った手段を取るのは普通の事。
「影人行動論」という授業で学んだ通り、集団で行動すればするほど奴らの注目を浴びやすくなるゆえ、離散するのも正しい判断でしょう。
四年前、青の境界上に防衛線が築かれたのも同じ理由だと習いました。
けど、どうなんでしょか。
多勢に無勢とまでは言いませんが、相手の数的に考えて何をどうしても勝率は低いゆえ、私たちの生存確率は下がる……気がする。
『北部隊』指導者
・一位の小坂鈴音
・三位の進藤樹
・五位の名波サユリ
『東部隊』指導者
・九位の
・七位のハン・リア
『南部隊』指導者
・四位の白夜雪華(未到着のため二位の舞花で対応)
・二位の功刀舞花
『西部隊』指導者
・六位の李翠蘭
・八位の白夜雪葵
一番影人の数が多い北側が三人での布陣と決定した。
10位の人は現在、病院で療養中なのでパーティーに欠席しているという。
とにかく私を入れた上位9人を筆頭に防衛線を準備するという内容。
「私達はみんな、異能士を目指してる学生。影人を減らすために生きているようなものです。だからこそ、こういう覚悟をして生きている。けど、どうしてこのような状況になったのかくらいは知りたい気もしますね」
「……同意」
リアは静かに頷いた。
この意味不明な状況の詳細を何一つ知らされることもなく戦わされるなんて。
色々そわそわする。体中が不安を呼んでいる。
別荘のロッカーから少し赤みがかった刃の「万紅刀」を手に取ったその瞬間より、手がとめどなく震えているのが分かる。まだ影人と対峙すらしていないのに。
緊張、ストレス、不安。きっとどれもある気がする。
ただ真っ当な剣士として戦いたい。闘いたい。
そう思っていても。なぜだか、私の脳裏には統也さんの姿がチラついていて離れない。
だからこそこの時、実は「寂しい」んだなって理解してしまった自分がいる。
彼にそばに居てほしいんだなって。
恋とか愛とか恋愛とか、そういう難しいのはあまり分からない。女性剣士が多い家系で育っていることもあり、男性経験が少ないのもある。
もしかして私は統也さんが、好き、なのかも。
「リア……どうしてだか、私が危機に陥っても統也さんが助けに来てくれる――なんて、そんな気がします。これは私の子供じみた妄想で、ただの虚構なのでしょうか?」
彼女は首を振った。
「……違うです。彼、きっと来るです」
「そうですよね」
気づくと自分の頬が緩んでいた。
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