第40話 勝負の結果
*
試合開始から数分。
「おい見ろよ相手のチーム、ぼろ負けだぜ。かわいそうによ。はははっ!」
「あのマフラーの転校生、少しクールだからっていつも
「おい、陸斗すげえな、さすがバスケ部エース!」
「ああ、レべチ!」
「りくとーがんばれ~」
「きゃー! 陸斗くん、かっこいい」
周りから陸斗の声援ばかりが聞こえてくる。
まあ、そんなことは大した問題ではない。
今は「0対11」。
もうすでにかなりの点差が開いてしまったと言える。
「名瀬っ! もう諦めろよ! 俺が勝つ! お前のような
オレの前方でドリブルしながら陸斗が話しかけてくる。
今、話しかけないでほしいんだけどな。
構造認識―――――――確認。
弾性軌道式―――――――立式。
全物理量――――――観測。
物理系運動量、測定完了。
バスケットボール軌道計算、終了。
やっと終わった。このまま浄眼に情報を映す。
……それより随分と時間がかかった。バスケットボールくらいすぐに終わると思ってたけどな。その間に11点も取られたか。
ダンッ―――――。
いや、これで13点差か。
たった今ゴールにボールが入っていく。
距離的にスリーポイントではないが。
時間的にまだ余裕もある。おそらく問題ない。
オレは周りを見る。
オレの班員はすでに戦意喪失している者ばかりだった。
無理もないだろう。
陸斗は見るからに本当にバスケが得意なようだ。ほとんど一人で得点している。圧倒している。
だが――――――。
すまない。
オレは心の中で陸斗に謝る。
「おい名瀬、無視するなよ。今朝は三大美女を誘惑してハーレム気取ってたクソ野郎だったくせによ。おい、聞いてんのか? はぁ……ほらよ、ボール一回だけやるから。これで元気でも出せよ」
ニヤけた彼がオレにボールを手渡しに来る。
一回でもシュートしてみろ、ということらしい。
随分と舐められたものだ。
実際今の彼の表情は舐め腐っている。
だが、こちらの準備はもう完了した。
「ありがとう」
オレは見下す視点で言いながらバスケットボールを受け取り、そのままその場でボールをシュートする。
「なにっ――!?」
周りが驚くのも無理はない。
オレのいるこの場はゴールとは反対側のハーフラインを越えていた。
つまり距離的にはスリーポイントどころの話ではない。
「おまっ! あんなでたらめなシュートが入るわけがないだろ!」
目の前の陸斗が吠える。
「残念だが――――――あれは入る」
オレのこの言葉と同時に「シュパッ」とシュートしたボールがゴールインする。
周りがどよめき始める。
「うそだろ!!!」
「あの距離だぞ!!」
班員、敵班の生徒たち共に騒ぎ立てる。
さらにオレは素早く取られたボールを奪い、そのままシュートを入れる。
さっきのスリーポイントと重ねるので「+3点+2点=+5点」になる。
「お前! どいうことだ!!」
陸斗が物凄い目付き、物凄い形相で叫んでくる。その声には焦燥感、動揺を含んでいた。
周りの歓声でその声さえ良く聞こえない。
「どうもこうもない」
オレはさらに次々とボールを奪いシュートしていく。
ゴール率、いわゆるシュートの成功率はほぼ100%で。
「クソッ! また抜けられた! そいつをマークしろ!!」
陸斗が班員に向かって怒鳴る。
陸斗。さっきと違って随分と焦っているようだな。
オレは別にバスケの選手になりたいわけじゃないし、シュートが上手いわけではない。
だが、オレがいた中学の平均運動水準から考えれば、陸斗は決して勝てない人物ではなかった。
「おい、そこの奴、何やってる! 名瀬を通すな!」
陸斗が、オレのドリブルで抜かれた男子生徒に強くあたる。
オレは目の前に来た陸斗をも簡単に抜き、シュートを入れる。
ピーーーーーー!!!!
「はい終了です」
係りの生徒が笛の音を鳴らし宣告する。
「チッ……クソッ!」
陸斗が地団駄を踏む。
点数掲示板には21対15。
オレの班が21点。
陸斗の班が15点。
つまり―――――オレの勝ちだ。
これは実力差ではなく、基盤となる前提の差で勝てた。
この意味が分かる人間は
そんなことを考えながらジャージの上着を脱ぐ。
さすがに冷え性、寒がりのオレでも運動すれば汗はかく。
中央に集まり、敵同士で礼をする。
オレの向かいに鋭い表情の陸斗が来る。今にも殴りかかってきそうだ。
「どういうことだ。お前、一体何者なんだ? あんな正確なシュート……」
「だから、どうもこうも何もない。オレは別にバスケが苦手なんて一言も言ってないしな」
「チッ! ゴミが……! 良かったな。まぐれのシュートがいっぱい入って。……次は必ず潰す!」
憎しみがこもった目で睨みつけられる。
「好きにしろ」
お前ではオレを潰せない。
オレはコートから出る。
他の班で試合をしていたであろう香を含め
「すごいよ!! すごいよ統也くん! さすがだよ! すごすぎる!」
正直、可愛い。
「そうか? まあ、こんなこともある」
そう言っておいた。
「で……でもこれで私とデートしなくちゃいけなくなったよ?」
言いながら何故か楽しみにしているように見えるのは気のせいか。
「ああ、予定が空いてるなら今週末にしようか」
元々は香にデート権を譲るつもりだったが、そんなことを軽々しく言える雰囲気でもないしな。
それに―――――。
なんとなく。本当に当てもない勘だが――オレがそのデートの場にいたほうがいい気がする。
「……本当にいいの?」
「いいも何も約束だろ?」
「う、うん……そうだけど」
「いいから行ってこいって。楽しんで来いよ」
見かねた香が
本当は自分が好きである女子に、
「それよりお前、バスケ強かったのかよ! 俺が来たのは最後の方であんまり試合見てなかったんだけどよ。それでも凄かったぜ! 久しぶりに興奮した」
香はオレの肩に腕を回す。
「いや、
「は? たまたま? んなわけないだろ~」
こんな風におちゃらけた香や興奮気味の
「とーや……」
*(栞)
数分前、とーやの試合を見て思ったことを率直に述べるなら、それは「正確すぎる」だった。
うち……
香も同じようなものだろうけど、彼は自分自身の試合に出てたからほとんどとーやと陸斗の試合を見ていなかった。
彼がとーやたちの試合を見に来たのは終わる寸前だった。
うちはそんな香とは違い最初から彼らの試合を見ていた。
だからか、わかった。
とーやが陸斗を圧倒したのはバスケットの上手さじゃなくて、もっと別のものだと。
とーやの精密なシュート、圧倒的な瞬発力、素早い動き、遠くからボールを投げられる腕の筋力。
それらすべてが陸斗を上回っていた。
すごい、と興奮しながら冷静にとーやを観察した。
とーやのかっこいいところをまた見つけてしまったという想いと、彼を好きな
けど。
落ち着いて彼の動きを見なきゃ、そうも思った。
試合開始直後とーやはやたらとバスケットボールを見ていた。
そのときの彼はほとんどその場から動かなかった。
まるで何かの準備をしているように……。
そして彼の目が一瞬青く光ったような気がした。
いや、何を考えているんだ、うちは……。
そんなわけない。
人の目が光るわけがない。しかも青に。
うちは首を左右に振る。
はっきり言う。うちはとーやが好き。異性として。男性として。
かっこいいとも思うし、守られたいと本能的に思ってしまう。そういうきらいがある。
だからどうこう思いたくはない。
けれど、彼が見せた精度の高いシュート。あれは正確すぎる。
あんなにシュートが入るならバスケのプロを目指した方が……いや、それは言い過ぎかな。
でもとにかく、あれは異常な気がする。
うちと同じくとーやのことが好きすぎて盲目な
「どうかしたのか?」
とーやがうちに向かって話しかけてくる。
うちがボーっとしていたからだろう。
こういう所は周りをしっかり観察し気配りするという彼の優しさ。そして惚れてしまう一部分。
「え? あ、大丈夫」
うちは咄嗟にそう答える。
何が大丈夫なんだか。
とーやに話しかけられて心臓がドキンとしたくせに。
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