第37話 意向【2】
*
「………えー、以上が私たち
異能士協会議会「議題・
ここで御三家・伏見家幹部を統率する伏見
「そんな防衛対策で
語気を強めてそう語る彼は、三宮家分家・
他家の幹部らが、最上権力を持つ御三家のうち、北日本国の首都である札幌を管轄している伏見家。彼らを潰そうと、失墜させようと躍起になるのは当然。
しかもその当主・
いくら、あの亡くなった伝説「伏見旬」の血を
チャンスだと玲奈に甘い罠を仕掛けて来る者。
好機だと考え彼女の歌手人生を壊そうと企てる者。
今まで、そういった多種多様な目的を持つ人物が玲奈に近づいてきた。
「ですから一般人の保護を最優先に考え、州の端に寄せるように隊を……」
玲奈はかなり強気を持って語るが、無礼にもそれを無視し会話を続ける神内家。
「それだと州境の異能士と異界術士に多大なる負担を与えるだけですっ! それが分からないんですか!? CSSはS級の影人ですよ!?」
そう激論争が繰り広げられている中、広い異能士協会議会では玲奈の噂話が飛び交っていた。
「本当に伏見家の当主があんなに若い娘だったなんてな……」
「亡くなった最強・伏見旬の忘れ形見ですよ」
「でもな。あの年でも、この間の国内の異能士階級判定でS級をとったらしいぞ」
「S級……だと? それは、国際異能士協会で再度判定結果が同じ『S』ならば、新たなるS級異界士の爆誕だぞ。さすが旬さんの子だな」
「ええ。碧い閃光のとき以来ですね。日本で二人目となります」
「まだ気が早いですぞ。イギリス本部の国際異能士協会が総合判定Sと見なさなければ、S級異能士になることはない。日本で一度取得したくらいじゃ、なれないんですよ……名瀬の『碧い閃光』のレベルには」
「そんなことより……玲奈の姉『
「伏見
彼らが噂を飛びかわすその背後。議会の
誰からも注目されることはないような場所に一人の若い男性とフードを被った二人の女性がひっそりと立っていた。
男の両左右にそれぞれ女性が配置しているという形だった。
「あれから『電撃を扱う少女』の情報に何か進展はあったかい?」
男は、その
「申し訳ありません
左にいた20代くらいの黒フード女性が三宮家当主・
「ほう? そうか……。伏見家が雷電を、ね。10
考え込む拓真。
「は……えっと、それはどういう意味でしょうか……? 伏見旬は三年ほど前
に亡くなったのでは?」
「まぁ、それはそうなんだけどね」
誤魔化したようにそう語る口調も、彼女が彼を心から
「……まぁいい。それじゃあ、マフラーをした青年―――“名瀬の隠し子”については?」
「……そのことなんですが………本当にそんな人がいるのですか? 無礼を承知で言わせてもらいますが、弟の
「うん確かに、10
拓真の弟・拓海はそれほど特別優秀な異能士というわけではない。だが、一般的に見れば彼は強い部類とされていた。
かつての異能士学校の成績でも上位を取るなど、かなりの実績を持っていたのも事実。
「おっしゃる通りです。再調査にあたります」
「うん、よろしく頼むよ」
拓真は満足したように微笑みながら頷く。
「それにしても……まさか
女性二人の真ん中にいた拓真が、気品と高貴さを表しているような喋り方で語る。
「拓真様、よろしいのですか」
今度は拓真の右側にいる、白いフードで顔を隠している女性がそう訊く。
覇気のない声に、冷え切ったような鋭い口調。しかしこれはいつもの事だった。
「うーん、いや。本当は退去許可を取ってないから駄目なんだけどもね」
少し柔らかい表情を浮かべる拓真。
「ではこのままこの会議が終わるのをお待ちになっては?」
「いや、それは……。珍しいね、君がそいうことを言うのは」
彼が不思議そうに白フードの女性……
「そうでしょうか。いつも通りのつもりなのですが」
フードで覆われているため彼女の表情などは読み取れないが、襟元から華やかな
「瑠璃、君……本当は3割ほど――」
拓真は答弁中の玲奈を見つつ彼女にそう言いかけたが。
「――違います。……それだけは違います。私はもう全てと決別しましたから」
何と発言したわけではないが、瑠璃が重たい口調で言い切る。何か大切なものを断ち切るように。
多少の沈黙の後、三宮一族の当主である拓真がその沈黙を破る。
「……そうかい。まぁでも玲奈さんは父の伏見旬に関係なく相当な逸材だよ。それだけは保証できる。なんたって彼女は、この僕も認めた君の――――妹だからね」
「――――はい。ただし、もしそう仰りたいなら、現在形ではなくだったと言ってほしかった」
内心嬉しそうな安堵したような、それでいて不安そうな、複雑な声がフードの奥から聞こえてきた。
拓真はそのセリフを聞き、静かに口元を綻ばせたのち、女性二人と一緒に速やかにその場から退散した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます