第35話 勝負
「だよね~」
「えっと、統也くんと栞は何の話してるの?」
キョトンとした顔で
「ミコと同じでとーやが鈍感だってこと」
そう栞が教えているときだった。
オレは背後に意識を向ける。
これは……敵意に近いか?
後ろに何か接近してきて衝突しそうになったので、オレはそれを避けようとする。
単純に過失で衝突してしまう場合もあるが、これは違うな。
なに! 加速した……?
オレはそのまま後ろから衝撃を受ける。
「おっと、すまんすまん」
意地の悪いような笑みを浮かべながらそう言ってくる。
彼の周りにいる2人の男子生徒も馬鹿にしたような表情で笑ってくる。
「陸斗、うちらになんか用?」
栞が珍しく不機嫌そうに言い放つ。
そこから察するにオレに向かってわざとぶつかってきた人物の名前は陸斗というらしい。
「なんもねーよ。用がなきゃ話しかけちゃいけないってのか?」
「そんなこと言ってない。ただミコには近寄んないで」
彼はガタイも良く、身長も170cm後半はありそうだ。
そんな彼に怯むことなくここまで言えるのだから、栞はかなりメンタルの強い女子と言える。
「栞、もういいよ。私は大丈夫だから……」
命のその発言から考えるにオレの知らない所で、おそらく人間関係上のアクシデントがあったのかもしれない。
「ほらな栞。前に俺が言った通りだろ? 勝手にお前が一人で盛り上がってただけなんだよ」
嫌味ったらしくそう言う。
それに対し栞は彼を睨みつける。
「みんなに何があったか知らないが、ぶつかってきて詫びの一言もないのか?」
オレは陸斗と言われた、その人の目を見ながら言う。
「は? お前誰だよ」
「あんたがオレにぶつかってきたんだろ?」
「あーー、思い出した。マフラーしてないから分かんなかったぜ。お前あれだな、このあいだ来た転校生だな?」
「こんな人が転校して来てたのか?」
彼の取り巻きの内の一人がそう話す様子を見ると、オレの転校はかなり非公開なものだったらしい。
「しーおーりー、俺と遊べなくなったからって、こんな顔だけの男に騙されてんのか?」
流れから「顔だけの男」というのはどうやらオレのこと。
「うっさい! とーやはあんたとは違う。あんたみたいなキモイこと考えないし、女で遊んだりもしない!!」
栞は自分の右手を強く握りしめる。今にも手が壊れそうな強さで握り込む。
相当苛立っているのだろう。
「おお、おお! お前まさかこの男に惚れてんのか? やめとけって栞、どこでもマフラー身に付けてるヤツとか頭イカれてんだろ。今は付けてないみたいだけど」
「あんた、さっきから何がしたいんだ? 栞を煽ったかと思えば、今度はオレを挑発。あんたのしたいことが分からない。何かオレに文句があるのなら栞や
オレはあえて陸斗を挑発する。
「なんだと……? お前、三大美女の二人に囲まれて、ハーレム気取りか、あ゛? この勘違い野郎が」
怒り心頭に発した様子。
彼の圧に負け、栞はもう何も言い返せないだろう。今は恐怖のほうが大きいかもしれない。
「ハーレムを気取った覚えはないし勘違いもしていない。あんたこそオレを勘違いしてるようだな」
それでもオレは表情一つ変えずに彼に言い返す。
当然のことだ。オレに勝てる一般人などいない。
影というバケモノを怖いとすら感じたことがないようなオレが、今更人間一人を恐れるわけがない。
「チッ……お前めんどくせーな。もういい。今日の4クラス合同体育のとき、バスケの班対抗ミニゲームがあるらしい。それで俺がお前に勝ったら俺は森嶋とデートに行く」
「ちょっと、は!? 何言ってんの? そんなの許すわけないでしょ!!」
栞が我慢しきれず、陸斗に食って掛かる。
「もしオレが勝ったら?」
そう聞いてみる。
「ちょっ……!? とーや!?」
「お前が勝ったら、当然お前が森嶋とデートに行く。ただそれだけだ」
ぶっきらぼうだがそう言い切る。
「とーやがミコとデートに行ってくれるならいいけど、陸斗と行くのはダメ。……バスケの勝敗で決めるって? そんなのバスケ部エースのあんたが勝つに決まってる。そしたらミコがデートするのはあんたになる……そんなの絶対許さない! そもそもそんなこと、ミコがOKすると思うの?」
栞が言っていることは
この話は
そう思っていたが――――。
「分かった。その勝負に勝った方とデートするよ」
「うんうん、やっぱりそ……って、えー!? ミコ本気!?」
栞が驚くのも無理はない。
オレも拒否するとばかり思っていたが、
「うん本気だよ。どっちが勝ったとしてもちゃんとその人とデートするから」
滅多に見せない強気な目付きに若干の違和感を覚えたが、彼女がそう言うなら仕方がない。
「フンッ、どうだ名瀬くんよ。やるのか? やらないのか? 森嶋はやる気満々みたいだぞ?」
陸斗とかいうこの男。どうやらオレの名瀬という名前は知っていたらしい。
オレのマフラーがないからどうとか言ってたが、全部演技だった。
「オレは構わない。そのバスケの勝負に勝てばいいんだな?」
「えっ……とーや!? 本気で言ってる!? とーやは知らないと思うから教えておくけど、陸斗は一年生のときバスケでインターハイに出てる!」
部活経験のないオレにとって、それがどれだけすごいことかは知らないが。
「まあ決まりだ。栞は余計な口挟まなくていい。フッ! 5、6時間目が楽しみだなぁ!」
嫌味ったらしく言いながら、校門の方へと行く。
しばらく歩いているうちに、オレたちは学校の前まで来ていたらしい。
発言や態度などから、陸斗は全校生徒に嫌われてるかと思ったが、校門の近くに来ると、複数の女子生徒が彼に寄っていくのがわかる。
どうやら彼のイケメン風な容姿に惹かれ、恋してしまった女子達らしい。
「ハーレム気取りはどっちよ。このクズ」
栞がカンカンになって、吐き捨てるように言う。
「栞、気にしないで。私が決めたことだから」
栞とは対照的に、
「ミコ!! なんでOKしたの!? とーやには悪いけど、あいつに勝つことは出来ない! うちもバスケ部で同じ体育館を使ってるから分かる。あの圧力。あの絶対的エース性……。あいつ、他のことは口だけのクズだけど、バスケに関しては本物の実力を持ってる。ミコも知ってるよね? なのに……どうしてよりによってバスケで……」
よりによってバスケ?
言い方から考えれば過去に何かあったのか。
「大丈夫だよ栞。統也くんなら勝ってくれるから」
オレならということは、以前は誰か他の人物が負けたのか?
「とーやバスケの経験はあったりする?」
栞がオレを横目に見ながら聞いてくる。
「いや……ないな」
正直オレはどのスポーツもまともにやったことがない。
オレの生い立ち上、体操や水泳、陸上。空手や柔道といった格闘術全般なら可能かもしれない。
だがバスケとなると。
「終わった……」
栞がガックリと落ち込む。
「大丈夫。統也くんは勝てるよ」
なのに何故彼女はオレを無条件で信用できるのだろうか。
「
もうどうでもいいというように栞が学校の玄関へ入っていく。
オレは嫌な予感と共に玄関へと向かった。
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