第31話 会遇
*
オレは次の現場に到着する。
正面には二体の影。
「さて、コイツらをどうするか」
先程からオレと里緒がやっている任務は自由依頼と言って、特定地域でのみ特別にD級の影を複数同時に討伐することが許されているもの。
オレの異能士経歴は相変わらず「階級なし」のため、詐称していることは言うまでもない。
「捕らえるくらいしておくか」
目の前にいる二体の影に対して『檻』を展開、完全に囲い込む。
蒼く光る立方体に閉じ込められた奴らはその場でオレの『檻』を壊そうと爪を立て、必死に引っかいていた。
まあ、基本的に檻は内側からは破れない。
3月オレを襲ってきた謎の黒服マントの奴は、何故か「檻の弱点」を知っていたようだったが。おかげで逃がした。
そんなことを考えていると、背後から人が近づいてくる気配がする。おそらく里緒。
「はやっ……! 毎回毎回どうしてそんなに次の影人を見つけるのが早いの? 透視でも使えるわけ? しかももう『檻』に監禁してるし! 仕事早すぎ!」
透視というのは冗談で言った言葉なのだろうが、悪いな。それが正解だ。
オレの透視能力を可能とする
「まあ、とにかく閉じ込めてある。部分的に『檻』に
オレの持つ収束式・
数分前そのために攻撃をあえて外したりもしたが。
「はいはい、わかった。任せて」
オレとのコンビネーションにも慣れてきたのだろうか。
檻に60cm平方の穴を空けると、里緒が間髪入れずに球形波動の攻撃をぶつける。
「
檻の中は、空気弾の波動を受け乱回転することで、回転中の洗濯機のような状態になる。
凄いな。あんな波動攻撃を受けてみろ、体が粉々になるぞ。
現に、檻の中にいたはずの影は
「ふっ……!」
里緒はオレが檻に空けた隙間から漏れだす乱回転空気圧を止めるため、波動異能を展開した両手で蓋をしてくれる。
あの隙間を放っておくと、爆風と高圧力が周辺一帯にお見舞いされることになる。
オレが檻を操作して隙間を閉じることは風圧から考えれば不可能だろうから、里緒の判断は正しい。
「自分の攻撃だからあんまり言いたくないけど、コレ威力高すぎ……」
懸命に隙間を抑え込む。
彼女の両手に発動している
「こんなの無理っ!!」
内側の圧力に耐えられず、空気爆破を起こす。
その言葉と同時に、物凄い爆風で里緒が後方に吹き飛ばされる。
「きゃっ……!!」
吹き飛ばされる速度は猛烈に速く、さらに加速していくが、そんなことはオレには関係ない。
オレは瞬速を使って、さらにその上の速度をいく。
里緒の背後に回りこみ、右手で彼女の肩を抱くようにして受け止める。
「な、名瀬……?」
影が入っていた洗濯機……ではなく『檻』を素早く解除し風圧が分散されるが、念のため空いている左手で正面に盾として『檻』の障壁を展開する。
その後、突風が過ぎ去る。
「大丈夫か、里緒」
左手を握り正面の『檻』も解除しながらそう話しかける。
「え、あ、うん……ありがと」
若干目をそらす。
里緒の肩を抱いたまま彼女の顔を覗き込む。
オレから見て左側の髪がヘアピンで留められている。以前にオレがギアの成立祝いとしてプレゼントしたもの。
「ちょ……名瀬、ちかい……!」
「ん?」
何故か里緒の顔が赤っぽい気がしたが、辺りは真っ暗なので真実は分からない。
よく理解できないが、オレは里緒を手放し、奥に落ちている紫紺石二つを拾う。
「んんっ……今日はこれで終わり?」
謎の咳払いをしたのち後ろからそう言われ、オレは自分の腕時計を確認する。
22時23分か。
「そうだな。今日はもう終了し――――」
オレがそこまで言ったとき。
ん?
里緒の背後で何かが赤く光る。その数は二つ。
「里緒、伏せろ―――――!」
「え……!?」
『檻』を付与したマフラーを手に取り、それを里緒目掛けて……正確には里緒の背後にいる影目掛けて回し投げる。ブーメランのように。
里緒はオレの指示通りに屈んだ体勢になる。
オレの回転したマフラーは里緒を越え、背後にいる影のもとへたどり着くが、その影は変形手を用いてそれを弾く。
バジン――――――――!!!
「え……変形手!?」
振り返った里緒が慌てたように言いながら素早くこちらに体を寄せる。
「どういうことだ? ここはE級影人特別指定区域だぞ」
オレも当然目の前の状況に驚く―――。
指定区域に変形手持ちの影がいたこともそうだが、オレはもっと別の部分に驚愕する。
近寄ってくるその影の顔付きに見覚えがあった。
影とはいえ、図体や顔、骨格の作りや男性型か女性型かなど、見た目の容姿は様々な種類が存在する。
それは奴らの個性と言っていい。
「ねえ名瀬、アイツって……」
流石に殺されかけた相手の顔を忘れることはないのだろう。
どうやら里緒もオレと同じことを考えているらしい。
「ああ、間違いない。あれは以前会ったS級の影―――
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