第29話 里緒の独白


  *



 あたしは、この世に「本物ホント」の天才がいると知った―――――――。

 


 今まではあたしが天才だと言われて育ってきた。

 霞流かするの中でも優秀な成績を収めていた自分には才能ポテンシャルがある、異能力ちからがあると思っていた。


 けど、そんなものは幻想ウソだったと知った。


 その「天才」である「彼女リンネ」との出会いが、あたしの異能に対する価値観を大きく変えた。

 異能がすべてなんだと、そう思うようにさせてしまった。

 異能の強さこそが、人の強さなんだと。

 彼女のその強すぎる異能体質が、あたしにそう思わせてしまった。

 

 どんな速度の攻撃だろうと、どんな強力な一撃だろうと「彼女リンネ」は完璧に防御してみせた。

 その姿はまるで――「雷神らいじんによる絶対守護」――を纏うよう。 

 


 防御と言えば、絶対的な防御を有するとされている異能『おり』を想像する。

 実際、その『檻』を持った人物だんし……名瀬統也と出会い、あたしの見える世界、景色、感覚、すべてが変わった。

 彼はあたしを信用してくれたし、あたしをギアと呼んでくれた。

 あたしと一緒に歩みたいとも言ってくれた。

 あたしが彼にどれだけ救われたのか、彼自身は知りもしないだろう。


 統也はあたしの行き場のない感情を真正面から受け取ってくれた。


 同じ御三家でも三宮拓海さんぐうたくみとは大違い。

 彼はあたしにすべての依頼任務を押し付け、挙句の果てには怪我をしたのもあたしの責任せいだと言い始めた。

 彼は本当に、どれだけ小さい男なのだろう。

 大して強くもないのに異能『糸』を所持しているだけで偉そうで、傲慢で横柄。


 逆に統也はあんなにも強いのに何故なぜ謙虚なのだろう。

 自分の強さに奢らず、他人を尊重できる紳士的。

 彼は本当に強い。

 あたしが人生で見てきた中でもトップクラスの強さ。

 そして「彼女リンネ」の強さはその彼の強さと似ている。

 強靭で威厳的。



 あたしが知る限り伝説級の異能者は――――。



 異能王権一族。

 国際異能士協会会長を務めるセシリア・ホワイトの母「エミリア・ホワイト」。



 御三家の最高峰。

 現在伏見家当主・伏見玲奈の父「伏見旬ふしみしゅん」。



 ―――――――この二人。



 伝説の白と黒。



「純白の英雄」と「漆黒の英雄」。

 今は亡き二人だ。


 この二人はあまりに強すぎる戦闘能力、異能、卓越した分析力、観察眼、判断能力を持っていたために、彼らのいる国「イギリス」と「日本」が特定安全国に任命されたほど。

 さらには世界の勢力均衡を崩すほど。


 彼らを知る者達は口を揃えて言う。

 彼らの技、知識、頭脳、それらすべてが一級品だった、と。



 白。

 エミリア・ホワイトの異能「王権の光ロイヤルライト」は『れい』に似た能力の異能で、白色半透明の鎧のようなものを出す能力。

 マナを凝結させる特殊な異能と噂されているが正確なことは何も分かっていない。

 


 黒。

 一方、伏見旬の異能『れい』はマナを現実へエネルギー変換し、炎のような形の異能体「ころも」として具現化させる能力が主。

 その他、空を飛んだり瞬間移動テレポートしたりなどある程度のことはなんでも出来てしまったという。

 彼の類稀なる『れい』の固有能力「イザナミ」は全てを吸い取る黒炎と畏怖されていた。

 二つ名「純黒蝶カラスアゲハ」。


 

 完全体ならばそれらと互角になってもおかしくはない。

 そう思わせるほどリンネは強かった。

 特に彼女の異能。その防御。

 あたしはあの子に直接的な打撃・攻撃を当てたことのある人物を知らない。

 

 数週間前、私がまだ札幌中央異能士学校という異能士育成のための学校に通っていた時、あたしはリンネと出会った。彼女のほうが編入してきた。


 編入してきてすぐに、瞳の色が原因で嫌がらせを受けていたそう。

 でもそんな状況も「決闘」が始まると一変した。

 筆記試験や実技試験であたしの次に良い成績を出してきたし、その決闘で……あたしにも勝ってきた。

 ―――――――たった数日で。


 ちょうど二年で卒業の異能士学校を飛び級し一年で卒業したあたしは、もうあの学校には未練がないと考えていた。



 けれど。

 


 今頃、リンネはどうしているだろうか。

 あたしは彼女と連絡先を交換したかったのだけれど、何故かスマホを持っていないと言う。

 この時代にスマホを持っていないというのはどうなのだろうと思いながら、あたしはリンネに見送ってもらった。




 あたしは唯一リンネにだけは勝てなかった。


 だからこそあたしは彼女の揺るぎない強さを尊敬していたし、優しさや包容力に憧れていた。



鈴音リンネ……実はね、あたし、ギアができたんだ。すごく強くて、すごくかっこいい人。……彼もあなたとよく似ていて、揺らぐことのない強さを持っている。そしていつも、真っ直ぐどこか遠くを見ているような目をする………まるであなたたち二人だけ、あたしたちとは全く異なる目標を捉えているかのように」


 あたしは自分の部屋窓の外にある夜空を見上げながら、届くことのない言葉を彼女に向けて言い放った。


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